ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ハサミ男 殊能将之

2011-03-17 12:18:00 | 

ケケケケッケ、おいらはハサミ男。美しくて若い女性の首筋に、ハサミをズブりと突き刺すことこそ、我が人生の究極の快楽だ。今宵も獲物を求めて、夜の街を彷徨う。ケッケケ、次は貴方だよ~

予めお断りしておきますが、表題の本の犯人たるハサミ男は、こんな分りやすいバカではない。世を騒がすサイコ犯罪の犯人たちだって、こんな狂人めいた、誰が見ても異常な変質者は滅多にいない。

一見しただけでは普通の人間が、連続猟奇殺人事件を起すからこそ、サイコ犯罪は恐ろしい。表題の作品でも、主人公たる連続猟奇殺人事件の犯人は、見かけこそ普通の人間だ。アルバイトとはいえ、正社員を奨められるほどに実績を挙げており、傍目には異常性は見られない。

しかし、心のなかに複雑な断層を抱えており、それが連続殺人事件を引き起こす。その殺人衝動に浮かれるでもなく、淡々と冷静沈着に次なる犠牲者を定め、念入りな下調べをした上で計画を実行する。

いや、実行するはずだった。ハサミ男が狙っていた獲物は、一足早く殺されていた。しかも、ハサミ男の犯行に似せて、だ。挙句にその殺人現場の第一発見者になる始末であり、ハサミ男としては困惑を免れ得ない。

ハサミ男は、その鋭利な知性をもってその場を切り抜けるが、自分がやったわけでもない殺人が、マスコミにより自分の犯行とされていることに納得しえない。

葛藤の末、ハサミ男は真の犯人を捜し求める。一方、警察の捜査の手も、徐々にハサミ男を追い詰め始める。さあ、どうするハサミ男。

一言で読後感を言えば、もう一度読み直したいに尽きます。どこを、どう読んだら、この予想外の結末の伏線があったのか、それを確かめたい。

正直、納得しかねる部分もあるのですが、それが私の流し読みのせいなのか、それを確認したい。だから、もう一度読み直したい。そんな気持ちにさせられたミステリーです。

なお、タイトルからジョニー・デップ主演の映画「シザーハンズ」を思い浮かべた方もあろうかと思いますが、この本のハサミ男は、デップ演じるハサミ男ほど哀しくもなければ、おかしくもない。むしろ、ずっと不気味にして魅惑的。なかなかに、興味を惹かれる人物造型でしたね。

ハサミ男にこだわりすぎると、真の犯人がみえてこない。このあたりが、この作者の巧みなところでしょうね。機会がありましたら、是非ご一読を。

コメント
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