ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ブラジルから来た少年 アラン・レヴィン

2010-09-29 12:37:00 | 
おそらく、もう生きてはいるまい。

死の医師と恐れられたナチス・ドイツのヨゼフ・メンゲレのことだ。アウシュビッツなどのユダヤ人強制収容所でおぞましい人体実験を繰り返し、敗戦のドサクサにまぎれて南米へと逃亡したナチス戦犯の一人だ。イスラエルの諜報機関をはじめとして、幾多の追っ手を免れて、南米のジャングルに潜んでいたとされている。

そのメンゲレがブラジルのサンパウロに現れた。日本料理店の奥の間で腕利きの元ナチス親衛隊員に渡された94人の暗殺リスト。意味が分らない大量殺人計画に戸惑いながらも、殺人者たちが世界に散らばっていく。

その情報を掴んだユダヤ戦犯の追及に生涯を捧げた老ユダヤ人は、理由不明の大量殺人計画に悩みながらも、徐々に真相に迫っていく。

ナチス・ドイツ復興の妄執に取り付かれたメンゲレと、彼を追う老ユダヤ人の虚虚実実の騙し合い。決して激しいアクション・シーンがあるわけでもないのだが、徐々にスピードアップしてくる緊迫感は頁をめくる手を止めさせない。

足の先さえ見えない濃い霧の中から、少しずつ見えてくるおぞましい真相には驚かざるを得ない。

ネタバレは避けたいので、これ以上書けないが、この作品が書かれた時代にはまだ未知の技術であったが、今では実現されつつある恐るべき秘密。

おそらく近い将来、実際に起りうる恐るべき未来。多分、神の領域に属することだと思う。それと知りつつ、妄執ゆえに突き進むメンゲレ博士。

多分、似たような精神をもった人は、けっこういるのではないかと思う。そのことに気がつくと、気持ち悪いほどにおぞましく感じたミステリーでしたね。

たしか映画化もされていると思いますが、正直観たいとは思いません。多分、再読もしないと思います。ミステリーとしては一級の面白さであることは認めますが、いささか気持ち悪い。

理屈ではなく、本能から拒否したくなるメンゲレ博士のどす黒い欲望。本当にありそうで嫌です。そんな訳で、あまりお薦め出来かねる傑作ですね。
コメント (2)
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