『踊る！大捜査線』とＮＨＫ「未解決事件特集」
つい最近Ｊ－Ｃｏｍで映画版『踊る！大捜査線』の三部作を全部一気に観たところだった。第一作は、警察庁の副総監が若者グループに誘拐され身代金を要求されるが、身代金受け渡し現場の遊園地での失態のために犯人を取り逃がしてしまう。地道に現場の捜査をやっていたいかりや長介が犯人らしき若者を見つけて尾行しアジトを見つけるが逆に襲撃されて物置に放置される。副総監からもらったブービー賞のピンク色の煙のでるゴルフボールをごみ焼却炉に投げ込んで、それをみた織田裕二が犯人を逮捕するというメインの筋に、小泉今日子演じる猟奇的殺人事件が絡む。
第二作『レインボーブリッジを封鎖せよ』では会社員連続殺人事件がメインの筋だが、これに家族ぐるみの窃盗事件や女子高校生を襲って歯型をつける変態事件が絡む。殺人事件の犯人たちは工事中の蒲田トンネルを隠れ家のように利用していたため湾岸署周辺の道路を封鎖させようとするが、レインボーブリッジだけは管轄があれこれあって封鎖できない。
Wikipediaの『大捜査線』のキャストという項目には作品と実態との関係として次のようなコメントがある。「踊る大捜査線シリーズで描かれている警察は、それまでの刑事ドラマではほとんど描かれることの無かったキャリア制度や本庁と所轄との関係を描くなど、それ以前の刑事ドラマで描かれていた警察よりは、ある程度現実の警察制度を反映しているとはいえるものの、全ての点で現実の警察組織を忠実に反映しているというわけではなく、（…）」。もちろん私も映画版三部作を一気に見て、あまりの面白さに大笑いしながら、さすがに現実はこんなことはないよね、いくら警察が馬鹿だからって、ここまで上層部が現場の事情を無視して上意下達ではやっていないでしょうと思っていた。
ところが二日前にＮＨＫで放送したグリコ・森永毒入りお菓子事件特集を見て、驚いた。まるで『踊る！大捜査線』と同じではないか。大阪府警本部は本部室にいて、現場からの捜査員たちの声を無視して、「一網打尽」にこだわり、犯人を取り逃がしてしまう。しかもそれが一回ではない。二回も三回も同じミスを犯している。しかもそのたびに現場の捜査員たちから事情聴取させてくれと求められていたのに、それでは「一網打尽」にできない、事情聴取しても「知らぬ存ぜぬ」と言われたらオシマイと（テレビで元本部長の四方修が言っていた）いう判断から、犯人と思しきＦを泳がしてという目論見だったらしいが、結局に逃げられてしまった。
最初のグリコ社長誘拐事件以外はすべて人質事件ではない。人質事件であれば、人質が殺されたりすることもあるから下手に手を出すことができないが、この一連の身代金要求事件は、人質事件ではないのだから、容疑者の身柄を確保するのが先決だろうと、そうすれば、そこから必ず何らかの手がかりが見えてくる、と素人だって考える。
ところが、あきらかにキツネ目の男とおぼしき人物をＪＲの京都駅で追跡したときにも、またどこやらのサービスエリアで捜査員が電話ボックスにいるキツネ目の男を見つけたときにも、ちょうど映画の織田裕二たち現場からの声を無視して、結局犯人を逃してしまったのと同じで、「一網打尽」にこだわって犯人を逃してしまった。映画で、捜査は本部捜査員が行うから、所轄は手を出すな、引越し作業でもしていろ、と言ったのと同じだ。ＮＨＫの番組に出てきたかつて捜査員たちはみんな一様に、あのときにＦと思しき人間を確保しておけばまったく違う展開になっただろうにと口をそろえて回想している。
また、ちょうど大阪府警と滋賀県警の関係が本部と所轄の関係に似ている。一方の本部長はキャリアで、この事件でまったく成果をあげることができなかったのに、まったく責任を取らないどころか、ＮＨＫの放送でもわかるが、まったく自分に責任はないと考えている。他方ノンキャリアで叩き上げで本部長になった滋賀県警のほうは焼身自殺まではかった。失敗の責任をすべて自分に押し付けられたことにたいする腹いせ自殺とも言われていたらしい。
ＮＨＫの番組の冒頭でもだれかが１９８４年のグリコ・森永事件が未解決に終わったことから、日本の警察の能力が低下したと嘆いていたが、どうもそのとおりのようだ。それにしても『踊る！大捜査線』って映画、エンターテインメントとしても一級なら、現実の警察の実態をリアルに描いてみせるという社会派としても一級の映画のようだ。すごい！
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第二作『レインボーブリッジを封鎖せよ』では会社員連続殺人事件がメインの筋だが、これに家族ぐるみの窃盗事件や女子高校生を襲って歯型をつける変態事件が絡む。殺人事件の犯人たちは工事中の蒲田トンネルを隠れ家のように利用していたため湾岸署周辺の道路を封鎖させようとするが、レインボーブリッジだけは管轄があれこれあって封鎖できない。
Wikipediaの『大捜査線』のキャストという項目には作品と実態との関係として次のようなコメントがある。「踊る大捜査線シリーズで描かれている警察は、それまでの刑事ドラマではほとんど描かれることの無かったキャリア制度や本庁と所轄との関係を描くなど、それ以前の刑事ドラマで描かれていた警察よりは、ある程度現実の警察制度を反映しているとはいえるものの、全ての点で現実の警察組織を忠実に反映しているというわけではなく、（…）」。もちろん私も映画版三部作を一気に見て、あまりの面白さに大笑いしながら、さすがに現実はこんなことはないよね、いくら警察が馬鹿だからって、ここまで上層部が現場の事情を無視して上意下達ではやっていないでしょうと思っていた。
ところが二日前にＮＨＫで放送したグリコ・森永毒入りお菓子事件特集を見て、驚いた。まるで『踊る！大捜査線』と同じではないか。大阪府警本部は本部室にいて、現場からの捜査員たちの声を無視して、「一網打尽」にこだわり、犯人を取り逃がしてしまう。しかもそれが一回ではない。二回も三回も同じミスを犯している。しかもそのたびに現場の捜査員たちから事情聴取させてくれと求められていたのに、それでは「一網打尽」にできない、事情聴取しても「知らぬ存ぜぬ」と言われたらオシマイと（テレビで元本部長の四方修が言っていた）いう判断から、犯人と思しきＦを泳がしてという目論見だったらしいが、結局に逃げられてしまった。
最初のグリコ社長誘拐事件以外はすべて人質事件ではない。人質事件であれば、人質が殺されたりすることもあるから下手に手を出すことができないが、この一連の身代金要求事件は、人質事件ではないのだから、容疑者の身柄を確保するのが先決だろうと、そうすれば、そこから必ず何らかの手がかりが見えてくる、と素人だって考える。
ところが、あきらかにキツネ目の男とおぼしき人物をＪＲの京都駅で追跡したときにも、またどこやらのサービスエリアで捜査員が電話ボックスにいるキツネ目の男を見つけたときにも、ちょうど映画の織田裕二たち現場からの声を無視して、結局犯人を逃してしまったのと同じで、「一網打尽」にこだわって犯人を逃してしまった。映画で、捜査は本部捜査員が行うから、所轄は手を出すな、引越し作業でもしていろ、と言ったのと同じだ。ＮＨＫの番組に出てきたかつて捜査員たちはみんな一様に、あのときにＦと思しき人間を確保しておけばまったく違う展開になっただろうにと口をそろえて回想している。
また、ちょうど大阪府警と滋賀県警の関係が本部と所轄の関係に似ている。一方の本部長はキャリアで、この事件でまったく成果をあげることができなかったのに、まったく責任を取らないどころか、ＮＨＫの放送でもわかるが、まったく自分に責任はないと考えている。他方ノンキャリアで叩き上げで本部長になった滋賀県警のほうは焼身自殺まではかった。失敗の責任をすべて自分に押し付けられたことにたいする腹いせ自殺とも言われていたらしい。
ＮＨＫの番組の冒頭でもだれかが１９８４年のグリコ・森永事件が未解決に終わったことから、日本の警察の能力が低下したと嘆いていたが、どうもそのとおりのようだ。それにしても『踊る！大捜査線』って映画、エンターテインメントとしても一級なら、現実の警察の実態をリアルに描いてみせるという社会派としても一級の映画のようだ。すごい！
