読書な日々

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『羞恥』

2020年01月06日 | 韓国文学
チョン・スチャン『羞恥』(みすず書房、2018年)

脱北者の韓国での生活を描いた、なかなか骨の折れる作品である。ウォンギルは、脱北の途中の砂漠で疲れ果てた妻を見捨てたことが、いつまでも悔いとなって、不眠症になるくらいに苦しんでいる。いまでは家具工場で働いていて、中学生くらいの娘がいる。一緒に脱北して、いまは平昌の山の麓で自給自足生活を送っているトンベクから、遊びに来いと誘われて、夏休みを利用して、娘と娘の友人のチスを連れて、泊まりに行く。

平昌は冬季オリンピックの前で、選手村のためのマンション建設地で、大量の遺骨が出土し、それが北の人民軍による虐殺なのか、米軍によるそれなのかで、デモが起きたり、抗議活動がおきる。しかしオリンピックを誘致した地元の有力者によって、最終的に運動は消滅し、マンションが建設される。

それを見たトンベクは、生きる力を失って、ウォンギルに遺書を残して自死する。

脱北者の心情に寄り添って書かれたと言われるが、ところどころに出てくる脱北に関わる会話がなければ、普通に貧しいだけの韓国の庶民の話としか見えない。なんかもっとバイアスのかかった心情が描かれているのかと思った、と書いて、私は、私自身がどれだけ「脱北者」というものを映画だとか、あるいは勝手なイメージで、作り上げていたかということ、に気づいた。

なんだか自分のなかでうまく消化できていないようで、読み終わった後も、何も言葉が出てこない。

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