読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

鹿島茂

2006年02月10日 | 人文科学系
鹿島茂『19世紀パリ・イマジネール 馬車が買いたい!』(白水社、1990年)

愛書狂、古書狂として知られる鹿島茂のこの著書は、「あとがき」の冒頭に「以前から注が主体であるような本を書きたいと思っていた」とあるように、19世紀の小説バルザックやフローベールを中心とした小説にでてくる風俗について、衣食住さらには生活レベルを映し出す馬車を中心にして解説したものである。

私もこれが雑誌『ふらんす』に連載され始めた頃から読んでいたが、次の号が来るのが楽しみだったのを思い出す。ちょっとした思いつきから始まったものらしいが、それにしても小説のなかにでてくる通貨はもちろんのことレストラン、ホテル、食事の内容などの日常生活を当時の挿絵なども使って、事細かに解説するというのは、相当の知識がなければできないことであろう。日本のほとんどの読者はそういったことは無視して、話の流れだけを追って読むということだけに気をとられていたのだろうが、こうした古い作品をその時代の風俗やものの考え方あるいは出来事のなかにもう一度位置づけなおして読むということが、実は最も新しい読解の方法だと言える。

こうした小説の読み方は、一方ではアナール派といわれる歴史学が文化事象を重視した歴史の再構築の試みを盛んに行なうようになり、それが日本にも紹介されたりして、与えられた読み方だと言える。だれか18世紀パリ・イマジネールを書いてくれないだろうか。

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