読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「魂萌え」

2007年04月27日 | 作家カ行
桐野夏生『魂萌え』(毎日新聞社、2005年)

定年退職をしてまだ3年くらいというのに夫が心筋梗塞で突然死してしまった関口敏子がなにも知らなかった専業主婦の毎日から、夫の隆之の愛人関係や友人関係、そして自分の友人関係、息子の彰之の家族、マモルという男との結婚を考えている娘の美保たちとの、かかわりを通して、自立していく姿を描いている。

以前にも重松清とか奥田英朗について書いたことだけど、先にそのトップの作品を読んでしまったために後から読む作品がどれも力を抜いて書いた作品にしか見えないのがつらい。桐野夏生でいえば「OUT」だ。あんな強烈な作品を読んだら、この作品なんかも一年かけて書いた力作といえば力作なんだろうけど、どうということのないしろものにすぎないと感じてしまう。

登場人物に個性が感じられない。言い換えると、登場人物の顔つきが浮かんでこない。私は強烈な個性の持ち主だと、自然と俳優とか知り合いとかの顔が浮かんでくる。たとえば「OUT」のときだったら、主人公のような女性が私はすごく好きなのだが、だれかを思い浮かべながら読んでいた。たとえば女囚シリーズ時代の梶芽衣子とか。夫を殺してしまう若い主婦は、女子マラソンの加納由理とか。

だいたい設定がどうなんだろうと思う。死んだ夫にじつは愛人がいた。退職後はけっこうその女性との付き合いに力を入れていて、相手の娘夫婦のためにそばの店を出す資金を500万円も出したとか、彼女と一緒にゴルフをするためにゴルフ会員権をやはり500万円も出していたのを妻が何も知らないでいたということが、自営業とか、それぞれが仕事をもっていたのならいざ知らず、サラリーマンと専業主婦の場合にありうるのだろうか?

もちろん夫の死後にせよ、夫が不倫をしていたということを知れば誰だって腹が立つだろうし、裏切られたと思うに違いない。働く女性に比べて専業主婦が世間知らずだと自分を責めるのも分かる。だが、初めて不倫相手の女性のところに乗り込んで、新たな事実を知らされたことで心の動揺をきたしたからといって、初対面の男性とホテルにいって性的な関係を結ぶなんてことがあるのだろうかといぶかしくなる。

それに私のことから類推するに、60歳くらいの女性が、そう簡単に性的関係がうまくいくとは思えない。互いにリラックスして信頼して失敗してもいいよというような関係の中でならいざ知らず、性的衝動に突き動かされて、やってしまったというのは、はっきりいって40歳台まででしょう。ましてやこの主人公の場合、おそらくここ数年はもう夫との性的な関係はなかったような設定になっているし。桐野さん、あなたは若いから、同じように考えちゃだめだよ、っと説教しようと思って、本の奥付で年齢を調べたら、彼女ははこの主人公くらいの年齢だ。げっ、もしかして、実体験?

でもまぁ話としてはありそうな話ばかりで、(って、えらい調子変わってるじゃん)これくらいの年齢になったら、自分にも降りかかることなのかなと思いながら読んでた人が多かったのかもしれない。2006年には阪本順司監督が風吹ジュン主演で映画にしている。風吹ジュンだったら、まぁ話も違うかと思ってしまう。若い頃の美しさを知っているものとしては、なんというかね。Yahooのレヴューではけっこう好意的なものが多いよう。小説と映画はまた違うからね。

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