読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「トリップ」

2008年03月20日 | 作家カ行
角田光代『トリップ』(光文社、2004年)

久しぶりの角田光代だ。「小説宝石」に連載された短編集ということだが、前の短編の中にちょっとだけ出てきた登場人物が次の短編の主人公になっているというタイプの連鎖をもった短編集ってことだけど、そのれんさそのものはたいした意味がないから、連作集ってほどでもないみたい。

第一作の「空の底」は、うぁー角田節だーと、久々の角田世界に懐かしい思いが湧いてくる。でもそれはこの短編だけで、それ以外は、もちろんそのけだるい、未来のない、どうしようもなく現実にいらだっているようで本当はその現実にしがみついているしかいられないような、そういう世界を描いているという点では共通しているのだが、なんだかこれまで私が読んできた角田世界とはちょっと違うような覚めた感じがする。

その独特の嗅覚で何気なく見逃してしまうような人間の姿に鋭い現実認識を切り取ってくるようなところが角田作品にはあったように思うのだが。ただそれは正面からそれを認識することはできない現代社会のもっとも歪んだところに生きるある登場人物にとってそういう生き方しかできないんだというものとして提示することで、鋭い現実認識になっていたような思うのだが。

そして複雑化した現代における幸せの一つの形を提示するという手法のまったく独特なところで角田の個性を見せるものであったと思うのだが。

「東京ゲストハウス」しかり、「地上八階の海」しかり、だったのだが。そうした角田の嗅覚がちょっと鈍くなったのだろうか。この短編集ではただただ退屈な人間たちが描かれているに過ぎない。あの鋭い現実認識はどこにいったのだろうか。

角田さん、最近ちょっと浮かれすぎてやしませんか?

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