岡部あおみ『ポンピドゥー・センター物語』(紀伊国屋書店、1997年)
パリのど真ん中に異形の姿をさらすあのポンピドゥー・センターにある国立近代美術館で長年キュレーターをしてきた日本人女性によるその活動の軌跡と舞台裏を紹介した報告の書のようなものである。個人の体験談として書かれているので、フランスの文化活動の最先端がじつにリアルに生き生きと伝わってくる。
本来隠すべき排気口だとかエレベーターだとか骨組みだとかを剥き出しにして作られ、文化活動をあらゆる階層の人々に開放することを目指したポンピドゥー・センターは、写真なんかで見たことがあるという人は多いだろう。1977年に開館したということだから、私が初めてパリに行った83年にはすでにあったし、私もその前を通ったというか、センターの前にある広場で大道芸を見たりして楽しんだ覚えがあるが、中に入ったのは、今年の夏が初めてだった。
ちょうど雨だったこともあり、雨宿りのつもりとちょっと休憩のつもりで入ったのだが、「開放」ということを謳っているだけのことはあって、じつに中に入っても開放感があった。トイレも大便の方は完全密閉式で落ち着いてできた。そういうわけで気に入ってしまった。一階の広い空間に入るだけなら荷物チェックだけで無料になっていて、上の美術館に入るには有料となる。エレベーターを使って上まで上がりパリの遠景を楽しむだけでもけっこういい。
2階から4階までが公共情報図書館になっている。これがまた「開放」を謳った創設の精神に則った図書館になっている。普通は図書館には自習室がメインで、もちろん開架式になっている棚に自由に閲覧できる本も多数あるが、ほとんどは書庫のなかにあって係員に貸出票を書いて持ってきてもらわなければならない。これが国立図書館(BNP)になるとたいへん。何時間も待たされる。もちろん事情の分かっている人は前日にインターネットを使って予め申し込みをしておき、当日朝ついたらすぐ閲覧できるなんてことをするのだが、それでも突然これが読みたいという場合にはやはりたいへん(フランスでは館外貸出しはいっさいしない)。
ところがここの図書館は全ての文献が開架式になっているので、全てを好きなときに閲覧できるし、コピーももちろん自由に出来る(それで列が出来る場合もあるが)。視聴覚の資料も閲覧できるので、学生、サラリーマン、失業者とあらゆる人々に利用されている。ということをじつはこの本を読むまで知らなかった。
とまぁ、前置きはこれくらいにして、美術館の学芸員になるということがこれほどたいへんなこととは知らなかったというくらい、フランスで学芸員になるのは超すごいことのようだ。フランスは一般の大学までは競争というものはない。バカロレアは資格試験だから基準点を取った人はみんな合格になる。そして国立大学に登録料を払うだけでほとんど無料だ。
しかしグラン・ゼコールといわれるエリート養成の大学院大学のようなところは定員があり熾烈な競争に勝ち抜かないと入学できない。ここに入っただけで国家公務員となり、給料が支払われる。そして卒業後もエリートの道を進むことになる。フランスでは学芸員を養成するルーヴル学院は管轄が文化省になるので、通常の大学やエコールとは違う(教育省の管轄)が、4年間のあいだに次々と篩に掛けられて数千人の入学者が数十人の卒業生になる。しかもそれだけでは学芸員になれず、毎年生じる欠員を補充する採用試験に合格しなければ学芸員になれないのだ。
この著者はすごい努力をして卒業はしたが、フランス国籍がないのでこの採用試験は受験できなかった。しかし、篩に掛けられガンガン鍛えられてきたので、ルーヴル学院を卒業しただけで、日本の学芸員のレベルどころではないレベルの能力が形成されるのだ。
この本のメインは、国立近代美術館でさまざまなエクジビジョンに関わってきたその舞台裏の話ということなのだが、まったくの素人なので、面白かったという感想だけ書いておこう。
パリのど真ん中に異形の姿をさらすあのポンピドゥー・センターにある国立近代美術館で長年キュレーターをしてきた日本人女性によるその活動の軌跡と舞台裏を紹介した報告の書のようなものである。個人の体験談として書かれているので、フランスの文化活動の最先端がじつにリアルに生き生きと伝わってくる。
本来隠すべき排気口だとかエレベーターだとか骨組みだとかを剥き出しにして作られ、文化活動をあらゆる階層の人々に開放することを目指したポンピドゥー・センターは、写真なんかで見たことがあるという人は多いだろう。1977年に開館したということだから、私が初めてパリに行った83年にはすでにあったし、私もその前を通ったというか、センターの前にある広場で大道芸を見たりして楽しんだ覚えがあるが、中に入ったのは、今年の夏が初めてだった。
ちょうど雨だったこともあり、雨宿りのつもりとちょっと休憩のつもりで入ったのだが、「開放」ということを謳っているだけのことはあって、じつに中に入っても開放感があった。トイレも大便の方は完全密閉式で落ち着いてできた。そういうわけで気に入ってしまった。一階の広い空間に入るだけなら荷物チェックだけで無料になっていて、上の美術館に入るには有料となる。エレベーターを使って上まで上がりパリの遠景を楽しむだけでもけっこういい。
2階から4階までが公共情報図書館になっている。これがまた「開放」を謳った創設の精神に則った図書館になっている。普通は図書館には自習室がメインで、もちろん開架式になっている棚に自由に閲覧できる本も多数あるが、ほとんどは書庫のなかにあって係員に貸出票を書いて持ってきてもらわなければならない。これが国立図書館(BNP)になるとたいへん。何時間も待たされる。もちろん事情の分かっている人は前日にインターネットを使って予め申し込みをしておき、当日朝ついたらすぐ閲覧できるなんてことをするのだが、それでも突然これが読みたいという場合にはやはりたいへん(フランスでは館外貸出しはいっさいしない)。
ところがここの図書館は全ての文献が開架式になっているので、全てを好きなときに閲覧できるし、コピーももちろん自由に出来る(それで列が出来る場合もあるが)。視聴覚の資料も閲覧できるので、学生、サラリーマン、失業者とあらゆる人々に利用されている。ということをじつはこの本を読むまで知らなかった。
とまぁ、前置きはこれくらいにして、美術館の学芸員になるということがこれほどたいへんなこととは知らなかったというくらい、フランスで学芸員になるのは超すごいことのようだ。フランスは一般の大学までは競争というものはない。バカロレアは資格試験だから基準点を取った人はみんな合格になる。そして国立大学に登録料を払うだけでほとんど無料だ。
しかしグラン・ゼコールといわれるエリート養成の大学院大学のようなところは定員があり熾烈な競争に勝ち抜かないと入学できない。ここに入っただけで国家公務員となり、給料が支払われる。そして卒業後もエリートの道を進むことになる。フランスでは学芸員を養成するルーヴル学院は管轄が文化省になるので、通常の大学やエコールとは違う(教育省の管轄)が、4年間のあいだに次々と篩に掛けられて数千人の入学者が数十人の卒業生になる。しかもそれだけでは学芸員になれず、毎年生じる欠員を補充する採用試験に合格しなければ学芸員になれないのだ。
この著者はすごい努力をして卒業はしたが、フランス国籍がないのでこの採用試験は受験できなかった。しかし、篩に掛けられガンガン鍛えられてきたので、ルーヴル学院を卒業しただけで、日本の学芸員のレベルどころではないレベルの能力が形成されるのだ。
この本のメインは、国立近代美術館でさまざまなエクジビジョンに関わってきたその舞台裏の話ということなのだが、まったくの素人なので、面白かったという感想だけ書いておこう。