知人に「がん疾患で余命が長くない人がいて、見舞いに行きたいけど、注意点を教えて」と頼まれたので、『死にゆく人と何を話すか』(1990/2/1・ロバーロ・バックマン著)を抜粋して送りました。以下は、その抜粋です。
互いに交わす対話に関して二、三の重要なポイントがある。それらはあなたの心が平静なときには容易に理解できる内容であるが、必要に迫られているときには案外忘れやすいことがらである。
1.「話すこと」が互いのコミュニケーションの最良の方法である場合が多い
いうまでもなく対話以外にコミュニケーションの方法はいろいろある。接吻、触れること、笑うこと、顔をしかめることなど。話すことはコミュニケーションのいろいろな方法のなかで、最も効果的、直接的方法なのである。
2.苦痛について話すだけでも、それは苦痛を和らげるのを助ける
話すことは、人間はそれにより、プレッシャーをほんの少しだけ開放させて、それを大きなプレッシャーに耐える手だてとするのである。
このように。話すという行為のなかには。「苦痛の軽減」がある。したがって、聴くこと、つまり患者に話す機会を与えることによって、彼らには、「癒し」が与えられる。言い方を変えれば、たとえあなたが、患者の話す言葉のすべてに答えられなかったとしても、患者を援助できるということである。
これに関してアメリカで次のような興味ある実験が行われた。全くトレーユングを受けていない人に、上手に聴くことの簡単なテクニックを教えて患者に会わせ、患者の問題点を聴いてもらった。この研究における聴き手は、「うなずくこと」以外には、「わかりました」「もっと話してください」しか言ってばならず、またほかに何もしてはならないと約束させられた。また患者への質問あるいは患者が説明する問題について何か話すことも許されなかった。そして面接が終わると、ほとんどすべての患者が、非常に良い治療を受けたという実感をもったという。なかには、この。治療者に電話をしてきてまたの面会を依頼したり、治療のお礼を言ったりする者もあったという。
3.会話を避けようとする考えは、結局有害である
友人や家族は、患者との会話を避ける一つの理由として、恐れや不安に関する話が新しい不安をつくる可能性があることをあげる。
実際は、何も話をしないと、逆に不安を増大させてしまうごとになる。すなわち、話す相手をもたない患者は、逆に不安や抑うつにより陥りやすい可能性をもっている。他の二、三の研究者達も、重症患者の最も大きな苦痛として、人々が彼らに話しかけないこと、そして孤独感が重荷として増すことをあげている。
自由な会話をさせる簡単なルールを知らないために生しるので、次にこれについて述べてみよう。
状況設定を正しく
お互いの体の位置が大切である。まずあなたは気を楽にして患者のそばに坐ろう。リラックスしている様子が相手にわかるようにしよう(たとえあなたがそうでなくても)。そしてしばらくのあいだそこにとどまるというジェスチャーをみせよう(たとえばコートを脱ぐなどして、目の位置は相手と同じ高さにし、話しているあいだは目をそらさない。
相手との問は気楽に話せる距離を保とう。入院中の患者で、そこに椅子がなく、あっても低すぎる場合は、立っているよりベッドに腰掛けるほうがよい。
患者が今話したいと思っているかどうかを見分けよう
患者が単にその時だけ話す気分でないのか、あるいはあなたという人間と話したくないと思っているのか二つの場合があろう。こういう場合でも、決して腹を立ててはいけない。もしも患者が何を欲しているかよくわからなかったら、いつでも「お話ししたい気分ですか」と尋ねるがよい。
自分の感情を述べるのを恐れてはいけない
次のような言葉を心おきなく用いなさい。「何と言ったらいいかわかりません」あかたの感情を述べることは、それが何であるうと大きな価値がある。
あなたに誤解のないことをはっきり示そう
患者の言っていることを問違いなく理解できたら、そのように言おう。「落ちこんでしまったようですね」とか、「それが、あなたを怒らせてしまったんですね」とかいう返事は、患者が話した、もしくは表した感情をあなたがしっかり受け止めたことを相手に伝える。しかし患者の言葉をはっきり理解できなかったときは、「どんな気がしました?」。それをどうお思いでですか」「いまの気分はいかがで卞か?」などと聞き返そう。あなたの推測や、判断が間違ったままだと誤解を生かからである。
早過ぎるアドバイスを慎もう
求めがないのに他人にアドバイスはすべきではない。
回想することをすすめる
多くの患者は(若くても老人でも)互いに思い出を分かち合いたいと思う。子供達でさえ、もっと幼いときの話をしたいと考えているし、あなたからそのような話を聴きたいと思っている。年とった患者は、もし彼らがあなたの両親であればなおさらであるが、回恕によって彼らの人生の意義を確認しなおすのである。
思い出を分け合うことは、彼らやあなたにとってはつらいことであったり、楽しい経験であったりする。それは、彼らが死によっていかに多くのものを失おうとしているかに思いを致させ、彼らを泣かせ、またあなたを泣かせるかもしれない。もしそのようなことが起こっても、それを抑制してはいけない。実際、多くの精神療法家やカウンセラー達は、患者に過去をみつめさせ、そのなかで起こったよいことを確かめさせるのに、この方法(言わゆる誘導された自叙伝)を用いている。
ユーモアの働き
多くの人は、重症患者や死に臨んだ患者に笑う余裕などあるわけはないと考えている。しかしこれは、ユーモアというものについてきわめて大切なことを見逃している。ユーモアは実際には、大きな恐れや不安に対処していくうえで重要な働きをする。すなわち、それは私達の気持を新鮮にし、激しい感情にうち勝ち、物事を大局的に杷握できるようにする。ユーモアは人間が対処できないと思われることに対処していく方法の一つなのである。