goo blog サービス終了のお知らせ 

仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

心的外傷後成長⑤

2021年10月29日 | 苦しみは成長のとびら

『PTGの可能性と課題』(著者宅香菜子編集)を県立図書館から借りてきました。

 

PTG(Posttraumatic Growth・ポストトラウマティック・グロウス)とは、大変つらい出来事や突然の不幸な出来事に直面した人が、さまざまなストレスを経験しつつ、苦悩と向き合う中で生じる人としてのこころの成長を表すことばです。

 

興味深いところを転載してみます。この本は27人、その分野の研究者が執筆われている。その中に「成長の旅路を伴走する」というタイトルで開浩一(長崎ウレスレアン大学准教授)氏が執筆されている。この方は車椅子での生活をされている方です。以下転載。

 

「車いすになってよかったことは何ですか」

 

小学校5年生の女の子から投げかけられたこの何気ない問いかけ。筆者にこれほど大きな衝撃をもたらした質問はかつてなかった。衝撃を受けた理由は筆者に2つあった。まず,これまで誰からもたずねられたことがなかったこと。そして,自分ですら一考えたことがなかったことにある。

 交通事故により車いすを使うようになった筆者は,多くのものを失い困難さを抱えながら生きてきた。よかったことなどあるのだろうか。スイッチが入ったかのように頭の中をひっくり返してよかったことを探し始めた。この少女の問いかけは何かとても大事な意味があるように感じた。

 それからほどなく,偶然にも「外傷後成長」という概念に出会った。少女の問いかけとPTGという概念が結びついて,日の前の霧が晴れたように感じた。 トラウマ後に成長する可能性があるとするならば,筆者が事故に遭ったことにも何か意味があり,事故後の人生のすべてが悪いことばかりではないように思えた。これが,PTGを研究するきっかけとなった。(以上)

 

一つの言葉によって未来が開かれていったという事でしょうか。問いを与えられることの大事さが思われました。つづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心的外傷後成長④

2021年10月28日 | 苦しみは成長のとびら

『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』(2014/1/14・宅香菜子・清水研監修)、最後の第18章「レジリエンス(*復元力)と心的外傷後成長―構成的ナラティブの見通し」より転載します。

 

PTG(心的外傷後成長)を経験することは.否定的でない思考を行う能力や構成的ナラティブを生み出して持続させるような対処行動をも超えたものである. PTGとは,きわめて困難な人生の危機を経験し、もがき苦しんだ結果として[ポジティブな変化]を遂げることである.表18-3に示されているように,「成長」に繋がるような思考や行動には,次のようなものがある.

 

1)自己および他者に対して、恩恵(ベネフィット)を探したり,見つけたり,言い聞かせたり,作り出したりすること.

2)人生において優先されるべき事項が変化し,未来志向の考え方が確立されたのちに,それを維持すること.

3)新たな意味づけや首尾一貫したナラティブ,何か特別な活動や「使命」を帯びた活動に従事することによって,喪失体験ののちに「そこから何かよいものが得られた」というとらえ方ができるようになること.

 

8-3 サバイバーを「成長」へと導く思考と行動の種類

 

恩恵(ベネフィット)を探したり,それを伝えたりすること(自分に関する点

で)|

「私はこの経験によってより賢く(より強く)なった」

「私は何かやってきてもよいように心の準備をしている」

「私は変化をおそれることがあまりなくなった」

「自分のやリ方でこのようにうまくいくとは思わなかった」

「私は他者を助けるようなよい人間となった」

 

恩恵(ベネフィット)を探したり,それを伝えたりすること(他人に関する点で)

「このことは私たち全員を結び付けてくれた」

「私が兄弟姉妹の守り役だということを知った」

「私はほかの人々の苦痛に巻き込まれないようにする術を学んだ」

 

より悲惨な状況との比較

「他者のことを知って,もっと悲惨な状況もあるのだと思った」

「自分も助けを受け入れることが必要なのだとわかった」

 

未来志向の考え方の確立

「人生において何か重要なのかということについて,私の考えは変わった」

「私は新たな可能性と取り組むべき目標を理解している」

「私は今,なぜそれが起きたのかということに囚われず,起きた事実を見つめることができている」

 

意味の構築

「私たちは生き延び,生きるチャンスを得たことで,自らの生き方を選ぶことができる」

「私はもう犠牲者だとは思われたくない」

「私は目的があって生かされたのであり,その責任を受け入れる.私は不慮の死を遂げた人々に対して,彼らの物語を伝える義務がある(彼らとの思い出を誇りに思い,他者に伝えることで,それが二度と起きないようにしなければならない)」

「私は犠牲者から生存者となり,そして力強く生き続ける」

「私は自分の苦痛と喪失を,他者に伝えることかできる」

「今,私は神を信じることができる」

(以上)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心的外傷後成③

2021年10月26日 | 苦しみは成長のとびら

『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』(2014/1/14・宅香菜子・清水研監修)の続きです。

 

これまでの研究から,出来事の重大さは成長と関連していることが示されている(たとえば,A1dwin,Sutton,&Lachman,1996 ; Brennan, 2002 ; TedeSchi &Ca1h0un,1996).外慯後成長尺度(PoSttraumatic Growth InVent0ry ; PTGI)の開発および初期の妥当性評価において,TedeSchiとCa1hounは,深く傷ついた経験をしていない大学生は,PTGを「低く」あるいは「中程度]にしか経験していなかつたのに対し,悲惨な体験をした人学生はPTGを「非常に高く」経験していたと報告している(TedeSchi&Ca1houn,1996,p467).同様にParkらは,経験した出来事による初期のストレスの強さが,その後の成長の高さを有意に予測する因子となることを報告している(Park,Cohen,&Murch,I996).さらにBrennan(2O02)は成人を対象に調査を行い,大きな災難を綛験した人は心理的成長〔心理的均衡を測る尺度(InVent0ry 0f PsychosociaI BaIancc)で測定〕がより高いことを報告している.興昧深いことに ネガテイプな出来事の稜類は成長に関連しないようである(たとえば,A1dwin et aI.,1996 ; Park et a1.,1996).その代わり,出来事の重大さは成長に関連する重要な要素と考えられる.

 上記のようなことは,「苦労なくして得るものはない」というスボ一ツの格言にも表されている.この常識とは異なるような関係性をどう説明すればよいだろうか? おそらく,成長は個人の世界観が打ち砕かれることにより生みだされるのであろう(JanoFBu1man,I992).同様に,個人が前提としていた人生観ゆるがすスピリチユアルなもがは,スピリチユアリテイを根本的に転換するための機会となるだろう.(以上)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心的外傷後成長②

2021年10月25日 | 苦しみは成長のとびら

『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』(2014/1/14・宅香菜子・清水研監修)の続きです。

 

心的外傷後成長として「自己認識の変化」「他者との関係における変化」「全般的な人生観の変化」の3つが説かれていますが、その詳細を少し転載しておきます。

 

自己認識の変化一人間としての強さと新たな可能性

 

この領域の成長について説明する際.われわれがこれまでよく使ってきた表現に,[傷つきやすいが,思っていたより自分は強い]というものがある/文を省略せずに書くと,「私は弱くて傷つきやすいけれど,思っていたよりもずっと強い人問たった」と表現される.大きな危機を経験することによって世界観が脅かされ,認知的変化が起こることはいまや広く知られている.…大きな危機に遭うことによって,人は試されているという感覚や不安定な状況におかれているという感覚をもつが,その後自分が最悪な状況を生き抜いたということを自覚することによって.実は非常に強い人間であることを知る,子どもとの死別を経験したある親が,われわれに次のように語った.「私の知るなかで最もひどい状況をくぐり抜けてきました.今後何か起きようとも,私はやっていけるでしょう」.

 

 

他者との関係

心的外傷に対処した結果,非常にプラスの人間関係の変化を経験することもある.その1つとして,ほかの人に対する見方の変化がある.少なくともわれわれの調査では,喪失や悲劇の結果,他者との関係がより親密になることや,特に苦悩を経験している他者に対して深い慈愛の念が増すことが報告されている.

 …親密感や人との繋がりが増すことや,本来の自分自身であろうとする感覚が強くなること,そして社会的には必ずしも望ましいとはいえない自身の一部や自身の体験についてさえも自己開示できるという感覚が強くなることなども,心的外傷体験に引き続くもがきを経験した人々によって語られている内容である.これらは時に両刃の剣になることもあるが,結果的に誰が真の友で,自分を見捨てずにより親密になれるのかがわかるきっかけとなる.必ずいつもというわけではないが,家族を看取り,愛する者の死を綛験したことで,より強い慈愛の念が認められたり,家族問の繋がりや親密性が強くなったりするような変化も報告されている.

 

人生観の変化一優先順位,感謝,そしてスピリチュアリテイ

 

 人生において何か最も重要であるかについての価値観が変わることは, PTG(心的外傷後成長)として体験される人生観における変化の1つである.たとえば,がんに伴う苦しみのなかで,人生そのものを失うかもしれないという状況においては, 100万ドルの有価証券を蓄財するという目標よりも,家族の絆のほうが重要になるかもしれない.以前は何でもないことのように思えたこと,たとえば子どものクスクス笑っている様子といったものが,かけがえのないことのように思えるのも,よく報告される価値観の変化や人生における優先順位の変化の例だといえよう.

 人生や自分自身がすでにもっているものに対して深い感謝の念が生じ,人生において何を中心にすえるかの感覚が変化することもまた,危機と向き合った人がよく報告する内容である.「人生は尊く,お互いが存在することが当たり前ではないということを,今やっと私たちはわかったのです」という言葉は,子どもとの死別を体験したある親から語られたものである. Hamilton Jordanは多重がんを告自したうえで,次のように語っている.「ほんのささやかな幸せや喜びが,人生において特別な意味をもつようになりました」(Jordan, 2000. p216).以'前は重要だった目標や到達点があまり意味をなさなくなり,別のことが人切に思えるようになる.もちろん,個々の内容は人それぞれだが,内的なもの(たとえば.子どもと過ごす時問)に重きをおくようになるということは共通しており,外的なもの(たとえば,大金を稼ぐこと)は大切でなくなる傾向が強いようである.(以上)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

心的外傷後成長①

2021年10月24日 | 苦しみは成長のとびら

拙著に『苦しみは成長のとびら』(太陽出版)があります。それを学問的に研究する分野がPTG(ポストトラウマティック・グロウス)という学問です。

 

『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』(2014/1/14・宅香菜子・清水研監修)と『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』(2014/1/14・宅香菜子・清水研監修)を県立図書館から借りてきました。

 

災害や事故、大切な人の死などは人生にとって過酷な体験であり最大の苦しみであるが、一方でそこから精神的な成長がもたらされることは古くから経験的には知られてきましたが、それを学問的に扱ったものです。前著のあとがきに次のようにあります。

 

本書は“Handbook of Posttraumatic Growth : Research and Practice"の日本語版である.本書は,アメリカ,スイス,オーストラリアなどからのべ29人の研究者がさまざまな立場で心的外傷後成長(posttraumatic growth : PTG)に関して論じたことを, Lawrence Calhoun とRichard Tedeschiの2人がまとめたものである. (以上)

 

その本や翻訳です。次は、前著のまえがきからの転載です

 

苦悩や危機が伴うもがきから,時に成長が生まれるというテーマは,過去の文献や哲学のなかにみられるし,少なくともある意味で、古典と現代両方の宗教的思考の中心を占めてきたともいえるだろう.たとえば,仏教の起源は人間の苦悩の終焉と避けられない死に至るまでのゴータマ・シッダールタ王子の修行にあるといわれている.キリスト教のほとんどの宗派において,イエスの苦しみは,人類の救済にとって重要で中心的なものだとみなされている.伝統的なイスラム教においても,少なくともある一定の状況において,苦しみは「天国への旅」に向かってよりよい準備をするための手段であるととらえられている.同様に,ギリシャ神話の世界でも苦悩がカタルシスや変革をもたらすものとされている.過去数千年もの問,世界中の文献において,悲劇,苦悩,そして喪失に対するもがきから生まれる意味や変化の可能性を把握しようとする試みがなされてきた.個人が心的外傷の苦しみに向き合うことが著しい成長をもたらすという考え自体は,目新しいものではない.

 しかし,心理学やカウンセリング,精神医学やソーシャルワークなどの分野において,近代的な量的・質的研究の手法を用いて,学者が心的外傷後成長(posttraumatic growth ; PTG)について体系的に研究するようになったのは近年になってからである.(以上)

 

本書にあると、成長には

 

質的研究のデータを用いて成長の大きなカテゴリーの区別を行い(Tedeschi & Calhoun. 1995),そのなかで.「自己認識の変化」「他者との関係における変化」「全般的な人生観の変化」の3つの大きな領域を見出した.(以上)

 

とあり、その共通因子として、①人間としての強さ,②新たな可能性,③他者との関係,④人生に対する感謝,⑤精神性的(スピリチュアルな)変容である.(以上)

 

とあります。550頁18章からなっています。つづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする