長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2021年上半期ベスト10

2021-07-11 | ベスト10
【MOVIE】

監督 クロエ・ジャオ


監督 スパイク・リー


監督 フローリアン・ゼレール


監督 ハーモニー・コリン


監督 庵野秀明


監督 カーロ・ミラベラ・デイヴィス


監督 ジョン・クラシンスキー


監督 コーネル・ムンドルッツォ


監督 サイモン・ストーン


監督 ブライアン・カーク



【TVSHOW】
監督 バリー・ジェンキンス


監督 ルカ・グァダニーノ


監督 レニー・アブラハムソン、他


監督 ギャレス・エヴァンス、他


監督 アジズ・アンサリ、他


監督 ミシャ・グリーン、他


監督 マット・シャクマン、カリ・スコグランド


監督 ノア・ホーリー


監督 ビル・ヘイダー、他
 

監督 トム・マーシャル
※映画は2021年1月〜6月に劇場公開された作品を、TVシリーズはこの間にシーズン完走した作品から選出している。

【あれから何か変わったのか?】
 去年の今頃、僕は未曾有のパンデミックに怯え、将来を憂い、仕事を失くし、家に引きこもった。それからの1年間、まるで時間が止まったような日々だった。

 今年に入り、アメリカはバイデン政権の発足によってワクチン接種が急速に進み、ハリウッドは4月にアカデミー賞を何とか無事開催。HBOMaxと劇場での同時リリースで物議を醸したワーナーは『ゴジラvsコング』が映画館に観客を呼び戻す大ヒットを記録し、続く『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』も1億ドルを突破。アメリカ映画界は昨年の遅れを急ピッチで取り戻しつつある。

 翻って日本は政府の無策によってパンデミックがほとんど人災と化し、首都・東京はこの半年間のほとんどが"緊急事態宣言下”という異様である。『ノマドランド』や『ミナリ』はオスカー受賞にも関わらずその興行価値を得ることなく市場を後にし、『ユダ&ブラック・メシア』(Judas and the Black Messiah)は配信スルー、その他多くのオスカー候補作が例年、封切られる春を見送って下半期にスイッチした。しかし、7月に入って東京は4度目の非常事態宣言に突入である。国内の洋画市場はすっかり冷え切り、上質のハリウッド娯楽作『21ブリッジ』『Mr.ノーバディ』、そして『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』が不発に終わったのは非常に悔しい。

 ディズニーは昨年に続き、自社ストリーミングサービス"ディズニープラス”で新作を相次いでリリース。ピクサー新作『あの夏のルカ』の劇場公開を見送り、『ラーヤと龍の王国』『クルエラ』は劇場公開とほぼ同日に配信を開始、これが劇場側の反発を招く事となった。7月公開の『ブラック・ウィドウ』に至るまで都心の主要劇場ではディズニー作品がシャットアウトされ、僕らは満足に見ることのできない状態である。今後、日本だけパンデミックが続けば映画市場、とりわけ海外映画が先細りするのではないか。

【多様化する映像芸術】
 これまでひと口に“アメリカ映画”と呼んできたが、今やそれを構成する要素は多岐に渡る。オスカーを制した『ノマドランド』はかつてジョン・フォードやテレンス・マリックが描いてきたアメリカの大地と魂についての映像詩であり、そのメガホンを取ったのは中国系のクロエ・ジャオ監督である。アカデミー賞はそんな新世代にアメリカ映画が“継承”された事を象徴する重要な瞬間だった。

 遅ればせながらNetflixのTVシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』に舌鼓を打った。シーズン1はウディ・アレンを思わせる都会派コメディ、シーズン2ではイタリア映画へのオマージュが散りばめられ、シーズン3ではなんとベルイマン映画へと接続し、黒人レズビアン夫婦の別離が描かれる。そんな作家性あふれるTVシリーズの脚本、監督、主演を務めるアジズ・アンサリもまたインド系の移民2世である。

 映画監督によるTVシリーズ進出はさらに加速し、ギャレス・エヴァンスが『ギャング・オブ・ロンドン』、レニー・アブラハムソンが『ノーマル・ピープル』で新たな代表作を得れば、バリー・ジェンキンスが『地下鉄道』を、ルカ・グァダニーノが『WE ARE WHO WE ARE』 のシーズン全話を監督。一方でルッソ兄弟の『チェリー』(140分)や、ドイツのブルハン・クルバニによる『ベルリン・アレクサンダープラッツ』(183分)は長尺を章仕立てにしており、さながら“TVシリーズのような映画”である。

 映画とTVシリーズの境界は曖昧となり、そして乱立するストリーミングサービスと膨大な作品群によって観客に正しくリーチしない現象はさらに深刻化しているように感じる。緊急事態宣言下の今年春はNetflixが毎週のように新作をドロップし、僕たち映画ファンは干からびずに済んだ。しかし美しい小品『時の面影』をいったいどれくらいの人が見ただろう?Netflixに至ってはタイトルも入れずにツイートする有様である。

 最後に、このブログを定期的に読んでくれている人はお気づきと思うが、上半期はリアルサウンドというWEBメディアへ記事を寄稿する機会に恵まれた。映画レビューは全くの趣味で始めたことだが、こうして多くの人の目に触れる事ができるのはとても嬉しい。海外ドラマを中心に今後も不定期連載することになると思うので、そちらもぜひ。
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2020年ベスト10

2021-01-11 | ベスト10
【MOVIE】

監督 デヴィッド・フィンチャー



監督 ダリウス・マーダー



監督 ピート・ドクター



監督 スパイク・リー



監督 黒沢清



監督 アーロン・ソーキン



監督 セリーヌ・シアマ



監督 チャーリー・カウフマン



監督 荒木伸二



監督 クリストファー・ノーラン


監督 パティ・ジェンキンス
 今年も原則、同年ワールドリリースを基準に選出した。2020年はコロナショックによって世界中の映画ファンがほぼ同条件で新作を視聴できた年ではないだろうか。上半期に日本でも大ヒットを記録したアカデミー作品賞受賞作『パラサイト』については2019年中に鑑賞しているため2019年ベスト10の項を、その他上半期公開の2019年傑作群については2020年上半期ベスト10を参照してもらいたい。

 リストを見渡すと映画はNetflixが4本、Amazonプライムが1本、ディズニープラスが1本、『スパイの妻』はTV放映版を劇場用にリサイズ、『ワンダーウーマン1984』はアメリカでHBOMaxによって劇場公開当日に配信と、純粋に劇場公開作としてリリースされたのは『人数の町』と『テネット』のみ。そういう意味でも実に2020年的なリストだと思う。入れ損なった作品もNetflixから『希望のカタマリ』『40歳の解釈 ラダの場合』『獣の棲む家』『マ・レイニーのブラックボトム』、Amazonプライムで『ヴァスト・オブ・ナイト』『続ボラット』『アイム・ユア・ウーマン』、HBO『バッド・エデュケーション』、appleTV+『オン・ザ・ロック』と配信作品ばかり。劇場公開映画では『透明人間』くらいしか思いつかない。


【TV SHOW】




監督 スコット・フランク


監督 デレク・シアンフランス



4、『ウォッチメン』
製作 デイモン・リンデロフ



製作 ジョン・ファヴロー



製作 ピーター・モーガン



監督 マリア・シュラーダー



監督 マーク・マイロッド、他



監督 トーマス・ケイル



製作 ノア・ホーリー
 2020年中のシーズン完走を基準に選出しているため、スターチャンネルでリアタイ視聴中の『ラヴクラフトカントリー』は見送った。トランプ支持者による米連邦議会占拠の光景を見た今、『ウォッチメン』に順位をつけたことはナンセンスだったと思っている。実に予見的であり、時代を象徴する傑作だ。

 TVシリーズは力強いナラティヴの作品に魅せられた。『ベター・コール・ソウル』は映画も含めた2020年最高の1本。ストリーミング作品を中心にハイコンテクスト化が進む中、『クイーンズ・ギャンビット』の王道的ストーリーテリングがここ日本も含め、世界を制したことは重要だろう(もっとも原作ウォルター・テヴィスの作家性は見過ごされがちではある)。映画監督のTVシリーズ進出は続き、デレク・シアンフランスは『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』でキャリアを更新した。

【アートフォームの激変・海外映画が入ってこない】
 上半期ベスト10の項でも触れたように、新型コロナウィルスの影響によってハリウッドはほぼ全ての作品が公開延期を余儀なくされ、今なお多くの映画館が休業状態にある。
 この状況を打破すべく、クリストファー・ノーラン監督が長年のホームグラウンドであるワーナーブラザースを説得し、新作『テネット』を劇場公開。日本を含む感染状況が収束傾向にあった地域で公開され、久々の大作アクション映画としてヒットを記録した。しかし、それでも製作費を補填できるほどの成功には至らなかった。

 この結果を受け、ワーナーは年末公開となった『ワンダーウーマン1984』から2021年の新作全てを、自社のストリーミングサービスHBOMaxで劇場公開日と同日、追加料金なしでストリーミング配信すると発表した。未だ終わりが見えないコロナ禍において苦肉の策と言えなくもないが、ワーナーがノーランはじめとするクリエイター陣に何の相談もしていなかった事がさらなる波紋を拡げている。クリエイターの多くが興行収益の数パーセントから報酬を得る契約をしていること、何より大スクリーンと良質な音響(今年、ストリーミング視聴で一番困ったのは我が家の貧弱なオーディオと住宅環境だ)で見ることを前提に作られた映画が、スマートフォンの画面に送られることの反感は察して余りある。そして映画は劇場で多くの観客が同時に見る共有体験、文化だ。アメリカの大手劇場チェーンAMCは経営危機を発表しており今後、多くの劇場が倒産、閉鎖を余儀なくされるだろう。これが1年間の緊急措置だとしても、もう後戻りはできないのだ

 HBOMaxは日本未上陸だが(上陸間近という噂はまことしやかに流れている)、アメリカの現状は決して対岸の火事ではない。ディズニーは『ムーラン』、『ソウルフル・ワールド』を自社サービス“ディズニープラス”へスルーした。いずれも1年以上前から劇場で予告編が公開され、夏冬興行の目玉作品と目されていただけに市場には大きな穴が開いた格好だ(20年に1本級のヒット作である“鬼滅”がなければ日本の映画興行も悲惨なことになっていただろう)。

 こんな事が続けば日本に入ってくる海外映画は少なくなる一方だ。シネコンのスケジュールをチェックしてみてほしい。既に海外映画はほとんどかかっていない。例年、アカデミー賞をにらんだ傑作群で渋滞する春の公開スケジュールも何とも閑散としたものだ。
 そしてこれを書いている今、東京都をはじめとする首都圏には緊急事態宣言が発せられており、劇場には夜8時以降の営業自粛が無補償で求められている。


【ハイコンテクスト化とガイドの不在】
 劇場公開作がない年にベスト10を挙げる意味はあるのか?もちろん、ある。ネットの海は広大で、積極的に情報収集をしなければ作品と出会うことはままならない。何より“ハイコンテクスト化”した現代の作品には手引きが必要だ。今年からストリーミングサービスに手を出し始めた人は少なくないだろう。複雑で、知的好奇心を刺激する作品群に興奮を覚えたのではないだろうか。

 ベスト1にはデヴィッド・フィンチャー監督『マンク』を挙げる。前述のワーナー騒動に対して既にフィンチャーは背を向け、Netflixと4年間の独占契約を結んでいた。『マンク』は『市民ケーン』の脚本家マンクを通じたハリウッドシステムへのアンチテーゼであり、幾重ものコンテクストが張り巡らされた重層的な作品だ。このストーリーテリングはフィンチャー自身が『ハウス・オブ・カード』で起爆させた現在のPeakTVから継承したものである。2010年代後半、フェミニズムやBlack Lives Matterなど、あらゆる社会的イシューを包括したTVシリーズは“わかりやすさ”だけを良しとせず、従来のワンクール10数話、1話60分という連続TVのフォーマットも解体。ついには物語の連続性を無視し、コンテクストのために構築された『ラヴクラフトカントリー』に到達する。

 2020年、アメリカは歴史的大統領選挙を迎え、トランプへのカウンターとして隆盛したアメリカ映画の気迫は極まった。スパイク・リーの怒りみなぎる『ザ・ファイブ・ブラッズ』を皮切りに長年、製作が噂されていた『シカゴ7裁判』が投票時期に照準を定めて登場。この作品に出演したサシャ・バロン・コーエンは2016年の大ヒット作『ボラット』の続編を発表し、コロナもトランプ支持者も陰謀論者も徹底的に笑い飛ばしてオルタナティブを再証明した。

 シーズン4に突入したTVドラマ『ザ・クラウン』は80年代のサッチャー政権をモチーフに、現代の規範なき政治を批評。政治が自助を掲げるここ日本には特に痛烈なシーズンであった。当の日本では『スパイの妻』『人数の町』が窒息寸前の社会の空気を捉え、いよいよこの国は危険水域にあるのかと戦慄させられた。

 ネオウーマンリヴ映画も1つの区切りを迎えている。男性登場人物を排し、男女の対立軸から脱した『燃ゆる女の肖像』は2010年代後半、Me tooを皮切りにした一連の流れに一旦の終止符を打ち、新たなフェーズへと導いた。ソフィア・コッポラは盟友でもあるビル・マーレイにリスペクトを捧げながら、『オン・ザ・ロック』で“チョイワル親父”をたしなめた。FX製作のドラマ『フォッシー&ヴァードン』は伝説的巨匠ボブ・フォッシーが、妻でありミュージカル女優のグウェン・バードンを搾取したかのようにも見えるが、ドラマの本質は偉大なアーティスト2人の共鳴であり、ドラマはキャンセルカルチャーを回避することに成功している(傑作にも係わらず、日本ではWOWOWでひっそりと吹き替え版だけが放映された)。女性が自己承認を確立するまでを描いたハードボイルド『アイム・ユア・ウーマン』はあまり話題にならず、寂しい限り。古典ホラーを蘇らせた『透明人間』は、コロナショック直前にメガヒットを記録した最後のフェミニズムホラーである。

 昨年、お通夜のようなフィナーレを迎えたスター・ウォーズシリーズは『マンダロリアン』でフォースのバランスを取り戻し、トキシックファンダムの暗黒面から脱した。『ブレイキング・バッド』『ゲーム・オブ・スローンズ』らTVシリーズのニュースタンダードを経由し、2020年代のポップカルチャーとしての再創造が始まった。元来、スターウォーズとは日本の時代劇や西部劇、戦争映画ら多くのジャンル映画にオマージュを捧げ、ベトナム戦争やイラク戦争、ジョージ・ルーカス自身の父子問題を絡めたハイコンテクストなポップカルチャーだった。
 同時に今のディズニーからは20世紀フォックスの買収により傘下となったFX製作、マーベル『レギオン』のような大胆で、奇妙奇天烈な作品は出てくる余地はないだろうと思っている。間もなく配信されるMCUオリジナルドラマ『ワンダヴィジョン』に微かな“レギオン味”を感じはするのだが…。

 コロナが終息した後、おそらくハリウッドは今まで以上にブロックバスターの製作に偏重し、一方でクリエイターの創造性が優先されるオリジナルストリーミング作品はよりハイコンテクスト化する二極化に至るだろう。そういう意味でもここで『マンク』を記録することは重要なのだ。


【ベストアクト】

 2020年は日本で『ミッドサマー』が大ヒット、『ストーリー・オブ・マイライフ』がアカデミー賞にノミネートされたフローレンス・ピューのブレイク元年となった。これでスカーレット・ヨハンソンの後を継ぐと噂されている『ブラック・ウィドウ』が公開されていれば、その人気は決定的なものとなっただろう。10月には実質デビュー作の『レディ・マクベス』がわずか1週間の限定上映ながらようやく日本初お披露目。1日1回上映のレイトショーには女性客を中心に多くのファンが集まっていた。

 映画ファンにとっては今やすっかり怪優扱いのロバート・パティンソンが『テネット』で再びイケメン枠に戻ってきたことも嬉しい驚きだった。ほぼ同時期にNetflixでリリースされた『悪魔はいつもそこに』ではド外道牧師を相変わらず怪演しており、安定のキャリアコントロールである。この快進撃はバットマンを演じる最新作で1つのピークに到達するだろう。

 何度も言ってきたことだが、今や監督・俳優のベストワークはTVシリーズやストリーミング作品にあり、ここにも映画と配信の二極化がある。アクション俳優を卒業したヒュー・ジャックマンはHBO映画『バッド・エデュケーション』で新境地を開拓。10年弱、マーベルにキャリアを費やしたマーク・ラファロは『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』で最高の名演を披露し、男女の賃金格差問題でその不当な扱いが明らかになったミシェル・ウィリアムズは『フォッシー&ヴァードン』で大女優への階段をまた1つ上がった。

 2020年を象徴するのが、アニャ・テイラー・ジョイの大ブレイクだろう。これまで『ウィッチ』『スプリット』など代表作はあったものの、若手スター予備軍の域を出なかった彼女がNetflixの主演ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の世界的大ヒットにより、ついにスターダムへと上り詰めた。TVシリーズを経由してスターが生まれるのもストリーミングがメインストリームとなった2020年ならではだろう。今後、この現象はさらに加速していくのではないか 。

 そう、新たな才能はストリーミングから発見される時代だ。『ブックスマート』が話題になったケイトリン・デヴァーは同年、Netflixのミニシリーズ『アンビリーバブル』でシリアス演技を披露。キュートなルックスと体当たりの演技が注目のヴィクトリア・ペドレッティは怪作『YOU』シーズン2を牽引し、出世作のシリーズ第2弾『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』で堂々の主演を果たした。『オザークへようこそ』シーズン3の立役者とも言えるトム・ペルフリーはさっそく『マンク』に出演。マンクの弟で、後の巨匠ジョゼフ・L・マンキーウィッツを演じている。いずれも名前を覚えておきたい若手だ。

 ここで筆を置こう。2020年はコロナショックによって筆者も本業の舞台が休業となり、人生で最も多く映画やTVシリーズを見た1年だった。見ていて当然、とも言える名作クラシックにも多く触れることができたし、そういう意味で映画ファンは一生分の宿題がある。
 今年は感染終息後をにらんで創作に打ち込みたいので、本数を少し控えたいと思っているのだが…(毎年言ってますね、ハイ)。

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2020年上半期ベスト10

2020-07-03 | ベスト10
【MOVIE】

監督 ジョシュア&ベニー・サフディ



監督 スパイク・リー



監督 ジェームズ・マンゴールド



監督 グレタ・ガーウィグ



監督 サム・メンデス



監督 キム・ボラ



監督 ペドロ・アルモドバル



監督 タマラ・コテフスカ、リュボミル・ステファノフ



監督 コリー・フィンリー



監督 ブレッド・ヘイリー



監督 アンドリュー・パターソン




【TV SHOW】
監督 ヴィンス・ギリガン、他



監督 マリア・シュラーダー



3、『ウォッチメン』
監督 ニコール・カッセル、他



監督 マーク・マイロッド、他



監督 リサ・チョロデンコ、他



監督 ジェイソン・ベイトマン、他



監督 ジョナサン・エントウィッスル



8、『ウエストワールド』シーズン3
監督 ジョナサン・ノーラン、他



9、『ハリウッド』
監督 ライアン・マーフィー、他



10、『セックス・エデュケーション』シーズン2
監督 ベン・テイラー、他


【コロナショック】
 こんな事になるなんて、いったい誰が想像しただろう?
新型コロナウィルス感染症により7/3現在、世界中で約1070万人が感染し、死者は51万人を超えた。経済活動は停止に追いやられ、アメリカは3か月以上に渡って映画館が閉鎖。新作の撮影も全て中止となっている。例年5月から始まる夏休み興行も未だブロックバスターが1本も公開されていない状態だ。
ここ日本でも4月から緊急事態宣言が発令され、映画館は閉鎖に追い込まれた。6月の解除後、全座席の半分のみを稼働する事で再開しているが客足は遠い。

 こんな状態で半期のベストテンを出す意味はあるのか?
もちろん。日本で上半期に見ることのできたアメリカ映画は昨年、下半期に各賞レースを賑わせた傑作群であり、Netflixはじめ配信という形態で新作は世に出てきている。TVシリーズも相変わらず充実のラインナップであり、『ベター・コール・ソウル』シーズン5という大傑作も登場した。

 近年、ハリウッドを揺るがしてきた配信映画の台頭はこのコロナショック下において救済となった。劇場公開を見送った各社はNetflixへの払い下げや、自社オンデマンドサービスでの配信で一定数の収益を得ている。ユニバーサル製作の『トロールズ/ミュージックパワー』は1億ドル超を記録し、「今後は劇場公開と同時に配信も行う」というやや勇み足な発言も飛び出した程だ。アカデミー賞は2020年度に限って配信公開のみの作品も選考対象にすると発表している。配信形態への移行はこれからの10年で活発化すると思われたが、意外な形で時計の針は早まったようだ。

 しかし、失われた物は大きい。公開が見送られた期待作は思いつく限りでもキャリー・ジョージ・フクナガが監督を務め、ダニエル・クレイグのボンド引退作となる『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4月公開)、MCUフェーズ4の幕開けとなる『ブラック・ウィドウ』(5月公開)、大ヒットホラー続編『クワイエット・プレイスPartⅡ』(5月公開)、DCの屋台骨とも言える続編『ワンダーウーマン1984』(6月公開)、そしてトム・クルーズが出世作の続編に挑む『トップガン/マーヴェリック』(6月公開)などがある。いずれも年内後半の公開日が再設定されているが、それらの命運を握るのは全米で8月12日に公開されるクリストファー・ノーラン監督作『テネット』だ。ノーランは自らの新作が劇場に観客を戻す起爆剤になる事を期待しており、配給のワーナーも監督との長年のコラボレーションからその意志を尊重している。だがアメリカで再び感染拡大が起きている今、その見通しも危ういのではないか。仮に『テネット』の公開が見送られれば、ドミノ倒し的に後の大作群も再延期の道を取るかもしれない。正念場はこれからだ。

【今は夜明け前なのか?】

 さて“1999年以来のキラーイヤー”と言われた2019年のアメリカ映画群はバラエティに富んだ作家映画が並び、豊作だった。ジェームズ・マンゴールドが『フォードvsフェラーリ』でいよいよ名匠の風格を漂わせ、サム・メンデスは映像美の『1917』とリーマン・ブラザーズ創業一家の隆盛を描いた舞台『リーマン・トリロジー』(NTLで上映)で現役最高峰の演出家である事を改めて実証した。グレタ・ガーウィグ、タイカ・ワイティティら新鋭がのびのびと快作をモノのにし、『ハスラーズ』『ミッドサマー』といった若手の作品が続々とヒットした事も嬉しいニュースである。一方で巨匠イーストウッドが『リチャード・ジュエル』で淀みない名人芸を披露しながらある失敗を犯している事が興味深かった。

 スターが出演作をセルフプロデュースするようになってしばらく経つが、女優の筆頭格はシャーリーズ・セロンだろう。昨年の『タリーと私の秘密の時間』『ロング・ショット』、そしてオスカー候補に挙がった『スキャンダル』と全方位向かうところ敵ナシである。

これらを凌駕するインパクトを残したのがオスカーには無視されたサフディ兄弟の傑作『アンカット・ダイヤモンド』だった。僕みたいな頭でっかちの映画ファンに「理屈じゃないんだよ!」と叩きつける血気盛んな1本である。

 『アンカット・ダイヤモンド』は残念なことに日本劇場未公開で、Netflixでのみ観る事ができる。先述の通り、今年の3月~6月は新作が公開されなかったため、筆者は配信新作を意欲的に見るようにしていたが、Netflixもそんな映画ファンの飢餓感に応えてくれるようなラインナップだった。クリス・ヘムズワース主演の『タイラー・レイク』はまさに劇場で見るべきポップコーンアクションだったし、『ハーフ・オブ・イット』やAmazonの『ヴァスト・オブ・ナイト』は本来ならミニシアターでしか発見できない映画だろう(いや、そもそも日本で公開されたかどうかも怪しい)。日本でHBO作品を独占的に扱うスターチャンネルも本国公開からのタイムラグを徐々に短くしており、ヒュー・ジャックマンが新境地を見せる『バッド・エデュケーション』はもっと話題になって良かった。人気作『ウエストワールド』シーズン3の日米同時放送は大いに盛り上がれて楽しかった。


 そして『ザ・ファイブ・ブラッズ』はスパイク・リー抜群の嗅覚もあってBlack Lives Matter運動が激化する只中にNetflixから配信された。時代に応えるかのようなリーの多弁さは圧倒的であった。撮影が再開されれば作家達は今回のコロナショック及びBlack Lives Matter、そしてトランプに対して即座に反応していくだろう。TVシリーズでは『キング・オブ・メディア』(晴れて邦題が統一されたので、今後この表記で行く)などの現代劇が時勢を取り入れるべく、急ピッチでリライトを行っているハズだ。


 一方、時代を先駆けたのが全米では2019年にOAされた『ウォッチメン』だ。白人至上主義者によって黒人が大虐殺された歴史を持つ街タルサを舞台にした本作はスーパーヒーローものの域を超え、早くも2020年代最重要の1本になった。先頃、事もあろうにトランプがこの町で選挙集会を開いた事や、大通りに本作のタイトルと同じフォントで“Black Lives Matter”と描かれた映像を見た時にはフィクションと現実の融解に眩暈を覚えた。

社会が混迷を極めるほど複雑化し、豊潤になるのがアメリカ映画である。今は新しい時代の夜明け前ではないだろうか?


 最後にコロナショックを先見した作品として2011年のスティーブン・ソダーバーグ監督、スコット・Z・バーンズ脚本の『コンテイジョン』が配信チャートで上位にランクインするなど大きな話題を呼んだ事、またBlack Lives MatterのサブテキストとしてNetflixで配信されているエヴァ・デュヴァネイ監督の2作『13th』『ボクらを見る目』を挙げて終わりたい。
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2019年ベスト10

2020-01-17 | ベスト10
【MOVIE】
監督 ポン・ジュノ



2、『アイリッシュマン』
監督 マーティン・スコセッシ



監督 トッド・フィリップス



監督 ジョーダン・ピール



監督 クエンティン・タランティーノ



監督 ノア・バームバック



監督 片渕須直



監督 ヴィンス・ギリガン



監督 新海誠



監督 ジョー&アンソニー・ルッソ



【TV SHOW】
監督 ヨハン・レンク



2、『マインドハンター』シーズン2
監督 デヴィッド・フィンチャー、他



3、『フリーバッグ』シーズン2
監督 ハリー・ブラッドビア



監督 エヴァ・デュヴァネイ



5、『キリング・イヴ』シーズン1~2
監督 ハリー・ブラッドビア、他



6、『ザ・クラウン』シーズン3
監督 ベンジャミン・キャロン、他



7、『マーベラス・ミセス・メイゼル』シーズン3
監督 エイミー・シャーマン&ダニエル・パラディーノ、他



8、『アトランタ』シーズン2
監督 ヒロ・ムライ、他



9、『セックス・エデュケーション』
監督 ベン・テイラー、他



監督 ミゲル・サポチニク


例年“多くの作品が世界同時で見る事のできる時代に、昨年の作品の順位に頭を悩ませるのは無意味”という思いから当年ワールドリリースを条件に年間ベストを選出してきた。とはいえ、日本劇場公開には限りがあり、ややムリのあるランキングを作ってきてしまったのも否めない。
翻って今年はNetflixはじめ配信映画が充実し、現時点での全米賞レースと大差ない充実ぶりである。豊作だった。2019年以前公開作品についてのランキングは上半期ベストテンを参照してもらいたい。ここに下半期からは『ワイルドライフ』『さらば愛しきアウトロー』『ゴールデン・リバー』『フリーソロ』を加えておく。また『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』が失敗に終わった事でMCU、『ゲーム・オブ・スローンズ』が完結した今年の大河シリーズものについての論考に重ねる言葉はなくなった。それらも合わせ上半期ベストテンの頁を読んで頂きたい。
以下、いくつかのトピックスに分けて2019年を振り返っていこう。


【格差社会問題、内省、フェイクとの戦い】
映画やTVドラマは近代を描き、内省する事で現代(いま)を映し出そうとしてきた。ここ数年、多くの作家達は世界中で起きる分断やレイシズムの風を感じ取り、それは今年、格差社会問題というテーマに結実する。世界同時多発的に同一テーマの作品が登場し、そのいずれも大ヒットを記録しているのが特徴的だ。

『ジョーカー』は社会の底辺へと追いやられた主人公が立ち上がり、それを無数の個人が集団的総意として支持して復讐に至る。映画は世界中で爆発的なヒットを記録した。
『アス』では地下世界で息を潜めて生きてきたドッペルゲンガー達が80年代に行われた慈善イベント“ハンズ・アクロス・アメリカ”を模して地上世界を乗っ取ろうとする。セネガルを舞台にするカンヌ映画祭グランプリ作『アトランティックス』では土着の幽霊譚と格差問題が交錯。出稼ぎ先で死んだ男達は遺した女達に憑りつき、未払いの賃金を取り立てようとする。そして韓国映画『パラサイト』では半地下住宅に住む失業一家が山の手の豪邸に住む富裕層一家に取り入り、そして…。
これら“底辺”からの視点に対し唯一、雲の上とも言える巨大企業創業一家を映したのがHBOのドラマ『サクセッション』であった。詳述はシーズン2終了後に改めて。

『ジョーカー』『アス』同様、1980年代から現在を射抜いたのはリミテッドドラマの『チェルノブイリ』だ。1986年のチェルノブイリ原発事故を描く本作は事件の詳細はもとより、原因となった国家的隠ぺい“フェイク”こそを糾弾し、ソ連崩壊の要因である事を示唆する。この改竄主義との戦いはソダーバーグが『ザ・ランドロマット』でパナマ文書問題をトリッキーな手法で暴き、その脚本を手掛けたスコット・Z・バーンズは監督作『ザ・レポート』でイラク戦争下のCIAによる隠ぺいを暴いた。このジャーナリスティックな突進力が情緒的な『新聞記者』には足りておらず、アダム・ドライヴァーの「書類は法を守るためにあるんだ」というセリフは日本の僕らにこそ深く刺さる。そしてフェイクはミステリオというヴィランとなってスパイダーマンにも立ちはだかった(『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』)。

『マインドハンター』シーズン2では後半、政治的駆け引きと人種差別によって殺人鬼が野放しとなったアトランタ連続児童誘拐殺人事件が後半の主要ストーリーとなり、犯罪史からアメリカを俯瞰しようとするドラマの構造が明らかとなる(残念なことに製作デヴィッド・フィンチャーの多忙によりシーズン3の製作が無期限延期となる事が発表された)。
1989年の“セントラルパーク5”事件を題材とした『ボクらを見る目』では少年達に着せられた冤罪事件を追う過程で、当時から行われていたドナルド・トランプの人種差別を糾弾した。
『ザ・クラウン』シーズン3はイギリスの国威が衰退の一途を辿る60年代を描く事によって王室や政治の意味を問い直し、ブレグジットで混乱する現在のイギリスを再考している。

そんな中、前ローマ教皇ベネディクト16世と現教皇フランシスコの語り合いを描いたフィクション『2人のローマ教皇』における贖罪と新旧価値観の融和の清々しさが気持ち良く心に残った。


【新たな10年で描かれる物語とは】
『アベンジャーズ エンドゲーム』の監督ルッソ兄弟は全宇宙の人口を半減する悪役サノスを「環境問題のメタファー」として描いたという。スウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリによって世界的ムーブメントとなった環境問題への危機意識はこれからの10年間、避けては通れないテーマだろう。これに早くもアニメ作品が取り組んでいた事が印象的だった。
オリンピック後、チェーン店と“バニラ”と絶望が蔓延し、ついに東京が水没する『天気の子』は、“わたしとあなた”しか存在しない新海誠の作風が前述の『ジョーカー』らと呼応する点でも2019年の映画だった。

大ヒット作の続編『アナと雪の女王2』ではヒロイン達の先祖が先住民族を騙してダムを作り、それが原因で自然が崩壊していく。ヴィランを設定せず、主人公たちが自然バランスを取り戻す物語とした作劇はこれまでのディズニーメソッドから脱却した意欲的なものだった。このチャレンジは過去3作の遺産を捨て去る『トイ・ストーリー4』にも共通しており、セクハラ問題によって社のトップ、ジョン・ラセターを事実上放逐したディズニーの意思表示とも見て取れる。

アニメ的な可愛らしいデザインながら意思疎通が困難な存在(自然)としてドラゴンを描いてきた『ヒックとドラゴン』シリーズも今年、3部作を完結した。美しい飛翔シーンや迫力あるドラゴンのアクションなど、同時期にスタートした『ゲーム・オブ・スローンズ』を彷彿とさせる絵も多く、この2作によって当面のドラゴン描写はやり尽くされたような感があった。


【ベストアクト】

『マリッジ・ストーリー』は全てにおいて成熟しており、スカーレット・ヨハンソン、そしてアダム・ドライヴァーの演技は昨年のアメリカ映画における最高のそれである。ドライヴァーは批評家から酷評された『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』でも奮闘し、失敗作すら味方に付ける絶好調ぶり。たぶん、オスカーも獲るだろう。10年代終盤は彼の時代だった。



近年、演技派俳優として他の追随を許さないオルタナティブな存在となったホアキン・フェニックスは『ジョーカー』でさらなる高みに到達した。ひしゃげた痩身、泣いているような笑い声…ヒース・レジャー版とは異なるアプローチには目が離せなかった。



ブラッド・ピットも2019年は当たり年だった。守護神のように映画に存在する『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の彼はキャリア史上、最高に格好良かった。一方、製作も務めたSF大作『アド・アストラ』では厭世的な宇宙パイロットを演じた。今年は彼や『アイリッシュマン』のロバート・デニーロが“男らしさ”を解体したのも印象的だった。



女優では何と言ってもレクター博士以来のサイコパス殺人鬼キャラを作り上げた『キリング・イヴ』のジョディ・カマーに尽きる。怖ろしくも可愛らしく、殺せば殺すほど胸がすくというカリスマ性である。今後、映画界でも活躍していく事だろう。



そして2019年はその『キリング・イヴ』はじめ『フリーバッグ』で脚本・製作・主演を務め、エミー賞を独占したフィービー・ウォーラー・ブリッジの年だった。あけっぴろげなユーモアとキレのいいストーリーテリングで新たな女性像を描いてみせた。2020年は007新作でリライトを担当するなど、今後の動きから目が離せない。



最後にゾーイ・クラヴィッツの名前を挙げておこう。大絶賛されたドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』の続編は失敗に終わったが、その唯一の見所がメリル・ストリープと彼女だった。良心の呵責に耐えられず、神経衰弱に陥っていく彼女は演技者として新たなステージに立った。

【おまけ~2010年代ベスト10】
『ソーシャルネットワーク』 
『ゼロ・ダーク・サーティ』
『マッドマックス怒りのデス・ロード』 
『ホーリー・モーターズ』

順不同。マイフェイバリットである事はもちろんだが、僕なりに映画史における重要性も加味しているつもりである(まぁ、明日の気分で入換えそうだけど)。
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2019年上半期ベストテン

2019-07-06 | ベスト10

【MOVIE】

『アベンジャーズ エンドゲーム』

監督 アンソニー&ジョー・ルッソ


『足跡はかき消して』

監督 デブラ・グラニク


『魂のゆくえ』

監督 ポール・シュレイダー


『サスペリア』(2018)

監督 ルカ・グァダニーノ


『COLD WAR あの歌、2つの心』

監督 パヴェウ・パブリコフスキ


『ブラック・クランズマン』

監督 スパイク・リー


『幸福なラザロ』

監督 アリーチェ・ロルヴァケル


『運び屋』

監督 クリント・イーストウッド


『ファースト・マン』

監督 デミアン・チャゼル


10『ミスター・ガラス』

監督 M・ナイト・シャマラン


『パーフェクション』

監督 リチャード・シェパード



【TV SHOW】

『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン8

監督 ミゲル・サポチニク、他


『ボクらを見る目』

監督 エヴァ・デュヴァネイ


『フリーバッグ』シーズン2

製作 フィービー・ウォーラー・ブリッジ、他


『キリング・イヴ』

製作 フィービー・ウォーラー・ブリッジ、他


『パトリック・メルローズ』

監督 エドワード・バーガー


『The OA』シーズン2

監督 ザル・バトマングリ、アンドリュー・ヘイ


『アフター・ライフ』

監督 リッキー・ジャーヴェイス


『ホームカミング』

監督 サム・イスマイル


『ロシアン・ドール』

製作 エイミー・ポーラー、他


10『レギオン』シーズン2

製作 ノア・ホーリー、他


【物語の勝利】

上半期最大のトピックスは映画でMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が、TVで『ゲーム・オブ・スローンズ』がクライマックスを迎えた事だろう。前者は10年、後者は9年に渡って前代未聞のムーブメントを巻き起こしてきた超大作である。その最終章は共に大ヒットを記録し、今年のエンターテイメントシーンを席捲した。ヒットの要因については様々な分析があるだろうが、評論家宇野維正氏によるエイミー・パスカル(『スパイダーマン』シリーズのプロデューサー)へのインタビューにこのムーブメントの全てが象徴されているように感じた。パスカルは「元来、人々はサーガを、終わらない物語を、人生に寄り添い続ける物語を求めている」と言う。


それは数十年にも渡って読み継がれてきたアメコミそのものであり、『ゲーム・オブ・スローンズ』における三つ目の烏ブランの存在そのものである(そして人間が寄り添う物語を脅かすのが夜王なのだ)。これは僕の中で『ゲーム・オブ・スローンズ』を補完する言葉にもなった。

時代を追う毎に技術は発展し、奇抜さや斬新さが注目される世の中だが、根源的な「物語」という存在が改めて多くの人の心を打った事がとても嬉しく、美しいと思う。そしてこの物語を完遂するという並々ならぬ才能を持つ人々が結集した事に両シリーズの偉業はあるのだ(そういう意味では己の物語を信じて19年越しに完結させたシャマラン執念の1本『ミスター・ガラス』にはただただ敬服である)。


【人間の深淵に迫る作家たち】

混迷する時代に対し、作家達がより人間の内面を深く掘り下げようと挑む姿が印象的だった。

『ファースト・マン』『ビール・ストリートの恋人たち』が極限まで人間にカメラを肉薄させ、『COLD WAR』『魂のゆくえ』『ホームカミング』が禁欲的な1:1の画面の中で呼吸した。『荒野にて』『足跡はかき消して』『ベン・イズ・バック』の孤独な行程は辺境から、『バイス』はディック・チェイニーという複雑な人間性からアメリカそのものを映し出した。『ロシアン・ドール』はトリッキーなSF設定から人間ドラマへと着地し、スケールアップするMCUに対して『レギオン』はどんどん内面へと深く潜り込んでいった。『パトリック・メルローズ』のカンバーバッチ、『アフターライフ』のリッキー・ジャーヴェイスは忘れ難い名演である。

社会の分断に抗う『ブラック・クランズマン』、『ボクらを見る目』の新旧社会派ブラックムービーの旗手の強さ、イタリアから『幸福なラザロ』のマジックリアリズム、そして名作ホラーをまさかの換骨奪胎させた『サスペリア』ら作家監督の諸作は強烈だった。

ベストテンには入れ損ねたが『女王陛下のお気に入り』『スパイダーマン:スパイダーバース』も楽しんだ。旧作では『胸騒ぎのシチリア』『レイチェル』『フランク&ローラ』『勝手にふるえてろ』を好きになった事を記しておきたい(女優で映画を見る性質です)。

 

【MOVIEとTVSHOW、横断する才能】

今回、映画とTVドラマをまとめて総括する理由が例年にも増してこれらを横断する才能の活躍が印象的だったからだ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』をやり遂げた監督ルッソ兄弟もTVドラマ出身。『ゲーム・オブ・スローンズ』ショーランナーのデヴィッド・ベニオフ、D・D・ワイスの新作はなんと『スター・ウォーズ』3部作である。X-MENスピンオフ『レギオン』でMCUに出来ない独自路線をひた走るノア・ホーリーも今年は満を持して『lucy in the sky』で劇場監督デビューする。ベネディクト・カンバーバッチ、ジュリア・ロバーツはTVドラマで自身のベストアクトを更新した。アンドリュー・ヘイ監督は『荒野にて』とまさかの『The OA』との合わせ技でロードムービーの名匠となった感がある。そして時代はフィービー・ウォーラー・ブリッジである。脚本、俳優、製作を務めるこの才媛はサスペンス『キリング・イヴ』、コメディ『フリーバッグ』で独自の作家性を発揮し、007最新作ではダニエル・クレイグ直々の指名で脚本のリライトを行う事になった。ますます映画だけ見ていては何も語れない時代である。


また詳細なレビューは後日アップしたいが、『ボクらを見る目』には圧倒された。エヴァ・デュヴァネイ監督の並々ならぬパワーに満ちた演出もさる事ながら、Netflixというグローバルプラットフォームを使い、配信直後に論争を巻き起こす様は社会派監督の新たなスタイルと言える。デュヴァネイは劇映画『グローリー』で注目された後、ハリウッドの娯楽作も手掛けながらNetflixで本作やドキュメンタリー『13th-憲法修正第13条-』を発表。作品の性格に合わせてNetflixを使いこなす新時代監督である。


ほとんど2019年のクライマックスのような上半期だった。残り6か月の充実はどれだけタイムラグなく日本でも新作が見られるかにかかっているだろう(今のところ『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にはフォースを感じない)。さて、どうなる。

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