長内那由多のMovie Note

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『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

2020-06-20 | 映画レビュー(す)

 長編監督デビュー作『レディ・バード』でいきなりアカデミー賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグ待望の第2作はルイーザ・メイ・オルコットによる小説『若草物語』だ。いきなりバジェットが大きくなった正統派文芸映画であり、超の付くオールスターキャスト映画を瑞々しく、情感豊かに映像化している。何より自ら手掛けたアクロバティックな脚色は原作ファンにも新鮮な驚きを与える事だろう。いやはや、何という才能か!アカデミー賞では作品賞はじめ6部門でノミネートされたが、脚色賞は『ジョジョ・ラビット』に譲っている。まったくアカデミーも大概にしてもらいたい。

 今回の映画化のユニークな点は原作『若草物語』と『続若草物語』をマッシュアップし、『若草物語』をジョーの回想として取り扱っている点だ。ガーウィグは清く正しく美しい少女時代への郷愁よりも、その一時が終わってしまった瞬間に注目している。
 次女ジョーはNYで作家修行を続けているが、書くことのアイデンティティを見失っている。長女メグは愛のある結婚をしたが、変わらぬ極貧生活にもう心は折れかけている。4女エイミーは誰よりも自由な心を持ちながら女が一人で生きる術はない現実を悟っており、打算的な結婚をしようとしている。そして病弱な3女ベスは病魔に蝕まれ、短い青春を散らそうとしていた。

 時代は南北戦争末期。現在と変わらずBlack Lives Matterが叫ばれ、女は女であるがために怒りにさらされている。無邪気なままではいられない理不尽な現実社会に原作者オルコット自身の物語と映画作家を志したガーウィグ自身の物語を引き寄せているのだ。『レディ・バード』がそうであったように、“もっともパーソナルな事が最もクリエイティブ”なのである。

 それにしても映画ファンにとってキャスティングの遊びが楽しい映画である。シアーシャ・ローナンは今回もガーウィグの分身を生き生きと好演(特に髪を切ってからのガーウィグみ)。それでも陽光あふれる『若草物語』パートのビーチよりも、『続若草物語』パートの寂しげな海辺が似合うのは彼女の個性だろう。ローリー役ティモシー・シャラメとは現役最高のスクリーンカップルであり、ガーウィグは彼の等身大のハンサムぶりを引き出している。2人のダンスシーンは数ある見せ場の中でも最もスパークする瞬間の1つだ。

 近年、どの作品でもブチ切れているローラ・ダーンに「私は怒りをコントロールできるようになったの」と言わせ、同年『マリッジ・ストーリー』におけるノア・バームバックとの扱いの違いにガーウィグの柔和なヒューマニズムが滲む(バームバックはガーウィグのパートナーである)。『シャープ・オブジェクツ』を見た人ならエリザ・スカンレンが病弱なベスを演じている事にハラハラしてしまうだろう。出番は少ないがクリス・クーパーが久々に温かい役を演じているのも嬉しい。出征中のマーチ家のお父さんを演じるボブ・オデンカークは完全に“名優枠”である(『ベター・コール・ソウル』でここまで上り詰めた!)。

 そしてフローレンス・ピュー!自由奔放な末妹エイミー役は彼女のインスタグラム等を見る限り、地に近いのでは?それでいて終盤のドラマチックな場面で彼女の骨太な存在感が圧倒するのである。そうそう、『ミッドサマー』に続いて今回も腹いせにあるモノを燃やしている!大した女優だ。

 この語り尽くせなさも本作の魅力である。全世界興収1億ドル突破という記録からもそれが良くわかるだろう。


『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』19・米
監督 グレタ・ガーウィグ
出演 シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ルイ・ガレル、ボブ・オデンカーク
 


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