またしても韓国だ。借金にあえぎ、困窮する人々が巨額の賞金を狙って命をかけたデスゲームに挑む本作はNetflixで歴代記録を更新する1億1100万以上の世帯で視聴され、2021年最大の話題作として全世界で大旋風を巻き起こしている。
なるほど確かに面白い。ウェス・アンダーソン映画のようなカラフルな会場で、グリーンのライン入りジャージに身を包んだ出場者達が参加するのは「だるまさんがころんだ」など、昔なつかしの子供の遊びだ。しかし、そんな誰もが知る遊びもここでは死と紙一重の地獄のゲームと化す。ショーランナーを務めるファン・ドンヒョク監督は知力勝負から腕力勝負まで計6つのゲームをスリリング(そして時にユーモラス)に演出して緩急自在。各人のゲームに参加せざるを得ない理由もしっかりと描き、命を落とす頃にはすっかりこちらが肩入れしてしまうといった具合だ。
何より金持ち共の余興のために命を賭ける参加者たちの姿には、自ずと僕らが“参加させられている”社会システムを思わずにはいられなくなる。降りしきる雨の中、迷路のように入り組んだスラムをかいくぐっていくカメラに『パラサイト』が培った土壌は大きかったと改めて思い知った。本作は全編韓国語のローカルプロダクションながらグローバルなイシューを兼ね備えており、パキスタンからの出稼ぎ労働者アリや、北朝鮮脱北者セビョクを通じて移民問題、人種問題がクローズアップされ、「公平」と謳う主催団体のゲーム下においても搾取や排斥の対象となる様は見逃してはならないだろう。
さらにセビョクを演じるチョン・ホヨンのパンキッシュな魅力によって明確となるのは、韓国社会に根深い女性差別だ。男たちが子供の遊戯に目の色を変えていく終盤、セビョクとイ・ユミ演じる少女は争うことなく互いの素性を語り、連帯していく。決して男たちには媚びない不敵な面構えの彼女たちは近年の韓国フェミニズム映画の傑作『はちどり』の主人公や、『パラサイト』の長女にも通じるものがある。 一方で、セビョク達よりもずっと年重となるキム・ジュリョン演じるハン・ミニョはあの手この手を尽くしてサバイバルしようと試みる。“反抗”のセビョクたちと異なり、時に男たちに媚びいる事も辞さない彼女の“処世術”からは、そうせざるを得ない時代に生まれ育った世代格差が伺い知れるのだ。
ここまでにしておこう。あなたがまだ『イカゲーム』を見ていなければ、後は何を書いてもネタバレになるだけだ。ゲーム参加者と同様、次に何が起こるのかわからない所に本作の面白さがある。世界中が熱狂しているこのゲームに、まずは参加してみてほしい。
『イカゲーム』21・韓
監督 ファン・ドンヒョク
出演 イ・ジョンジェ、パク・ヘス、チョン・ホヨン、オ・ヨンス、トリバティ・アヌファム、イ・ユミ、ホ・ソンテ、キム・ジュリョン