長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ドント・ルック・アップ』

2022-01-12 | 映画レビュー(と)

巨大彗星が地球に衝突する!
大学教授ミンディと院生のケイトが発見した脅威から始まるこの映画は懐かしや『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』を彷彿とさせるが、そうはならない。出演する朝の情報番組ではイジられ、ケイトが必死の形相で危機を訴えればグレタ・トゥーンベリよろしくディスられる。大統領はこの危機を政治利用し、そこにイーロン・マスクよろしく大富豪が現れれば、いつしか彗星破壊計画は埋蔵されているレアアース入手のための“撃墜”作戦へと切り替わる。世間は彗星衝突は陰謀論だという風説によって「俺たちDon't Look Up!」という冷笑が蔓り、#Look Upとチャリティコンサートで“意識の高い人たち”は何かをやった気になっている。いやいや、地球崩壊まであと半年なんですけど!

 『マネー・ショート』『バイス』のアダム・マッケイ監督最新作は“絶対に笑ってはいけない”パニックディザスターコメディだ。「彗星」は「コロナウィルス」にも置換え可能で、そうするとメディアの劣化もデマとキャンセルの衆愚も大企業の癒着も政府の無策無能も他人事ではなくなる(『ドント・ルック・アップ』の日本版があったら彗星衝突を前にオリンピックを強行しているハズだ)。そんな重喜劇に豪華キャストが結集、ノリノリの演技合戦である。

 中でも冴えない田舎教授に扮したレオナルド・ディカプリオはまたしても天才を発揮しており、最高に可笑しい。『レヴェナント』でのオスカー受賞以後、ようやく肩の荷が下りたのか『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に続いてまるで憑き物が落ちたかのようなコメディ演技である
 そんな彼と同じく天賦の演技勘を持つジェニファー・ローレンスが並ぶのだから、映画ファンにはたまらない。演技的見せ場こそ他に譲るものの、曲者キャスト陣を切っては返す瞬発力は彼女ならでは。そろそろグレタ・ガーウィグやオリビア・ワイルドといった気鋭の女性監督と組んでいるところを見てみたい。ティモシー・シャラメとのカップリングはいずれ別の映画で改めて実現する事だろう。
 そして豪華キャストの中でも目を引くのがIT富豪役のマーク・ライランスだ。マスクやベゾズ、前澤から感じるあの“キモさ”を生理レベルで体現する異次元クラスの怪演を見せており、あらゆる場面をかっさらっている。

 トランプを模した大統領役にはメリル・ストリープが配役されている。女性が無能なリーダーを演じることに批判も見受けられるが、これは筋違いだろう。ゴールデングローブ授賞式でストリープが政権批判スピーチをした事に対し、トランプが「大根役者」とツイートしたのが発端で、本作は『エイリアン コヴェナント』みたいなオチまでつけてしっかりカウンターしている。

 マッケイはあらゆる方面を茶化しているが、その怒りは明白だ。ディカプリオの雄叫びは『ネットワーク』のピーター・フィンチを彷彿とさせる。
「我々はどうかしてる。理解不能だ。まともな会話ができない。なぜこうなった?修復はできないのか?世間は僕に言葉の耳を貸さない。個々の政治イデオロギーのせいだ。」

「アメリカ合衆国大統領は大ウソつきだ!国民を守るべき立場なのに政府連中は一人残らず完全に正気を失っているに違いない!」


『ドント・ルック・アップ』21・米
監督 アダム・マッケイ
出演 レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、ロブ・モーガン、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、ケイト・ブランシェット、メリル・ストリープ、マーク・ライランス、タイラー・ペリー、アリアナ・グランデ、ロン・パールマン

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