長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2024年ベスト10

2025-01-28 | ベスト10
【TV Show】
 2024年にシーズン完走した作品から選出。詳しい選評についてはリアルサウンドへの寄稿をどうぞ。
※記事はこちら

製作 ニコール・テイラー


製作 リチャード・ガッド、他


監督 フェルナンド・メイレレス、他


監督 パク・チャヌク、他


6.『エクスパッツ ~異国でのリアルな日常~』
監督 ルル・ワン


監督 スティーヴン・ザイリアン


製作 レイチェル・コンドウ、他


製作 ウィル・スミス


監督 アルフォンソ・キュアロン

製作 ローレン・ルフラン



【MOVIE】
 今年も頑なに“原則、2024年に世界初公開された映画”という基準で選出した。『オッペンハイマー』の順位に頭を悩ませることは2024年に生き、映画を見ていた記録にならないからだ。その他、『関心領域』『哀れなるものたち』『異人たち』『美と殺戮のすべて』『ホールドオーバーズ』などが選外になっていることを断っておく。これらについては上半期ベスト10を参照してもらいたい。

 2024年末より月刊誌での映画批評連載が始まり、本格的にライターデビューした。試写で見られる本数が大幅に増え、より“批評家っぽい”選出になったと思う。日本では2025年公開作もいくつか含まれるため、イントロダクションとして参考にしてもらえると嬉しい。

 2024年は不作だった。2023年の米俳優組合、脚本家組合のストライキによって公開本数が激減。これはコロナ禍を支えてくれたストリーミングプラットフォーマーも例外ではなく、年末恒例オスカー狙いの秀作にも乏しかった。加えて日本国内での深刻な洋画不調である。年間国内興行収入ランキングからはついに洋画が姿を消した。ハリウッドが衰退した今、“洋画(=アメリカ映画)”はポップカルチャーの主流ではなくなったのだ。

 瀕死のハリウッドはかろうじて延命処置に成功したように見える。出涸らしのような企画ばかりに思えたサマーシーズンのブロックバスターはいずれも入念な企画開発がなされ、北米はじめ世界中で大ヒットを記録。老人の映画である『ビートルジュース ビートルジュース』はともかく、『エイリアン:ロムルス』『ツイスターズ』は新進スターの輝きがスクリーンから眩く放たれていた。もっとも製作側も観客もノスタルジーへの依存は高まる一方で、『フォールガイ』『セキュリティ・チェック』などのアクション娯楽作を“90年代の楽しいハリウッド映画が帰ってきた”と愛でる気にはなれなかった。

 映画がソーシャルメディア上で消費される時代である。“傷つきやすさ”と“正しさ”への安易な連帯は作家と作品の属性から目を背け、本質を見失う。

 映画とは個人的な体験でもある。僕のような田舎者は映画館はおろかレンタルビデオ店もない土地で青春時代を送った。昨今、大都市以外で暮らすほとんどの観客はストリーミングプラットフォームを通じて映画とTVシリーズを接続し、イーストウッドの最新作が劇場公開されないであろうことを察していた。ハッシュタグ・アクティヴィズムはイーストウッドの哲学から最も遠い手段であり、署名活動は映画館で映画だけを見ている者の古びた特権だろう。
 
 では2024年に映画を見続ける者としての年間ベストとはなにか?新しい才能に目を向け、野心的な挑戦を記録し、映画の持続可能性を模索すべく10本を選んだ。


監督 リー・アイザック・チョン

 今年、最も優れたハリウッドブロックバスターに第10位の座を進呈しよう。もはや誰も覚えていない96年の凡作を、賢明なリー・アイザック・チョン監督はトランプが再選する“2024年の映画”として仕上げた。トランプ登場以後、ネガティブな文脈で語られがちなアメリカのカントリーサイドを魅力的に映し、近年相次ぐスリーサム映画の快作の1本でもある。そして竜巻級の上昇気流を巻き起こすデイジー・エドガー=ジョーンズ!


監督 ジョージ・ミラー
 偉大なジョージ・ミラーは大成功した前作『怒りのデス・ロード』の前日譚を全く正反対のアプローチで撮り、自らが生み出したシリーズに神話的な奥行きをもたらした。週末3日間の興行収益で評価を下すハリウッドの悪しき風習が、本作を今年もっとも過小評価された映画へと貶めた。


監督 ジェフ・ニコルズ

 46歳のジェフ・ニコルズが1960年代のバイカー集団を描く…本作もまたノスタルジーに依存した映画と思われるかもしれない。しかし、輝くようなオースティン・バトラー、キャリア最高のトム・ハーディ、そして明晰なジョディ・カマーら若手キャストの演技によって、人間の不完全さを描く普遍的な映画となった。


監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 ドゥニ・ヴィルヌーヴの功績をいったいどのように称えたら良いのだろう?巨大建築物のような本作は、IMAXスクリーンでこそ真価を発揮する。晴れて第3部の製作も決定。これから数年はIMAXで本作がリバイバルされるはずだ。私たちは何度だってアラキスへ馳せ参じようではないか。


監督 モハマド・ラスロフ

 映画に求めるものがショックであるなら、不屈の映画作家モハマド・ラスロフによる本作こそが相応しい。母国イランを追われたラスロフは原理主義的宗教政治によって弾圧される女性たちの怒りを描く。プロットラインだけでは堅苦しい社会派映画に聞こえるかもしれないが、ラスロフはサスペンス映画としての娯楽性すら担保して観客を巻き込んでみせるのだ。


監督 アレックス・ガーランド

 本国公開から遅れること半年。日本で週間興行収入1位を記録する画期的な成果を収めた本作。日本人にとってもトランプの再選は他人事ではなかった。何より世界中で政変が起きている今、アレックス・ガーランドが描く危機と不安は未だその衝撃を失っていない。


監督 ギンツ・ジルバロディス

 2024年、最も目の醒めるような映画はラトビアから現れた。人類が水没した世界を1匹の黒猫が生きる。安易な擬人化に頼ることなく、動物たちに魂を宿らせた本作は愛猫家必見。そして同じくらいカピパラのことも好きになる映画だ。


監督 奥山大史

 見れば見るほど魅せられずにいられない。安易なノスタルジーを拒絶し、子どもの可能性と大人の現実を真摯に見つめる。人生における冬の季節を描いた名作。


監督 クリント・イーストウッド

 前作『クライ・マッチョ』はさすがに90歳の老いを感じずにはいられなかったが、カメラの後ろに回ればその明晰さは未だ失われていない。自身のキャリアを通じて幾度となく繰り返えしてきた“人は人を裁けるのか?”という主題が、近年ソーシャルメディアを介した“私刑”を鋭く突く普遍は今更指摘するまでもないだろう。紛れもない傑作であり、これが劇場公開されなかったのが“2024年”だったのだ。


監督 ブラディ・コーベット

 ブラディ・コーベットは野心みなぎる3時間30分の大作で、アメリカ映画における最重要監督の座へと躍り出た。俳優としてハネケ、アサイヤス、トリアーらに師事したヨーロッパ主義の36歳は、ナチスの迫害を逃れアメリカに渡ったブルータリズム建築家を通してユダヤ、アメリカ、そして時代を超えるアーティストを描く。いや、そんな概略は多くを語らない岩のような建築物の前では無用だろう。大作映画だけが持つ30年の旅路(そして15分のインターミッション)と、その到達点をぜひ大スクリーンで堪能してもらいたい。


【Body of Work】
・グレン・パウエル『恋するプリテンダー』『ツイスターズ』『ヒットマン』
・ケイリー・スピーニー『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』『シビル・ウォー』
・コリン・ファレル『シュガー』『ザ・ペンギン』
・ロバート・ダウニー・Jr『オッペンハイマー』『シンパサイザー』
・ゼンデイヤ『DUNE Part2』『チャレンジャーズ』
・アンドリュー・スコット『異人たち』『リプリー』『ワーニャ』

年間ベスト10についてはポッドキャストでも解説しています。


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2024年上半期ベスト10

2024-07-29 | ベスト10
【MOVIE】
監督 クリストファー・ノーラン


監督 ジョージ・ミラー


監督 ドゥニ・ヴィルヌーブ


監督 ジョナサン・グレイザー


監督 ヨルゴス・ランティモス


監督 アンドリュー・ヘイ


監督 ルカ・グァダニーノ


監督 濱口竜介


監督 ローラ・ポイトラス


監督 ダグ・リーマン
 遅れること半年以上を経て、ようやく2023年最重要作の1本『オッペンハイマー』が日本公開された。同年ワールドリリースを基準とする当ブログの年間ベスト10では選外となるため、ここでしか1位に挙げる機会がない。公開前からソーシャルメディア上で紛糾したかまびすしい批判を経て、周到に日本公開の準備を整えた配給ビターズ・エンドの尽力に感謝したい。

 パンデミックとストライキという2つの難局を乗り越えたものの、ハリウッドは今やジリ貧状態にあり、『オッペンハイマー』と『バービー』が並んだ2023年が最後の大当たりだったのかもしれない。2024年のサマーシーズン興行は『インサイド・ヘッド2』や『ツイスターズ』の大ヒットでようやく復調傾向になるも、これらは共に前作から数年ぶりとなる続編映画で、ハリウッドは相変わらずオリジナル作品に期待をかけていない。ストライキの影響で公開が昨年秋から今年の3月へとずれこんだ『DUNE PART2』と『オッペンハイマー』の存在によって一時的に興行が華やぐ瞬間もあったが、ともにオールスターキャストを擁する2作はまるでハリウッド映画最後の総力戦にも見えた。

 2位に挙げた『フュリオサ』は初見時、筆者のチューニングが合っていなかったのか、さほど面白いとは感じられなかった。しかし2度、3度見直すことでその強固な神話世界と語りの気迫に魅せられ、心酔した。『DUNE PART2』もフィルム内に構築された世界観に圧倒されたが、ここでは原作の有無で順位を決めさせてもらった。公開初週の興行成績で映画の価値を決めてしまうハリウッドの悪癖には困ったもので、『フュリオサ』はもっと評価されて然るべきだろう。

 映画を見続ける理由の1つに“ショック”があるとすれば、上半期は『哀れなるものたち』『関心領域』『悪は存在しない』が抜きん出ていた。一方、ウォーキズムに満ちたソーシャルメディア上では映画の受け取り方も画一化されつつあり、時に受け入れがたい人間のグロテスクさや不可解さに相対する観客の視座が欠けている。映画は主観的な体験であり、外野の声に惑わされず、自分だけの感動を見つけたいものだ。『異人たち』に涙した一方、『パストライブス』『チャレンジャーズ』は楽しんだものの、今の自分には“3すくみ”という個人と社会の関係性を描く構造はしっくりこなかった。1対1の濃密な関係性が観たいのだ。

 ドキュメンタリーでありながら芸術性の高い劇場空間の構築をしていた『美と殺戮のすべて』が忘れられず、“普通の(上質な)ハリウッド映画”の良さを思い出せてくれた『ロードハウス』を愛でたい。ヴィクトル・エリセの『瞳をとじて』を語るにはあまりにも前作から時間が経ちすぎているため、筆を取ることを止めた。オスカーにも輝いたフランス映画『落下の解剖学』は昨年に鑑賞しているため、選外としていることを断っておきたい。
 なお、上半期の映画についてはNieWで木津毅氏との対談からも振り返っている。こちらもぜひ御一読ください。
記事はこちら


【TV SHOW】
監督 スティーヴン・ザイリアン


製作 マーク・プロトセヴィッチ
製作 レイチェル・コンドウ、他


監督 リチャード・ガッド


製作 ドナルド・グローヴァー、他


製作 ノア・ホーリー


製作 イッサ・ロペス


製作 ネイサン・フィールダー


製作 ネイサン・フィールダー


10、『TOKYO VICE シーズン2』
製作 J・T・ロジャース
 昨年以来、筆者はPeakTVが終焉を迎えたとの見解を示し続けてきた。事実、制作本数は最盛期よりも大きく数字を落とし、ナラティヴの形態も変遷しつつある。複雑なイシューを含んだハイコンテクストよりも、週1回、決まった時間にテレビドラマを見る娯楽性が復古し、今なおハリウッドにおいて傑作が多く生まれ場所であり続けている。今年、トレンドは1シーズン完結のアンソロジー・リミテッドシリーズへと移り、巨額をかけた大河ドラマが鳴りを潜めつつある中、エミー賞を狙って限定シリーズから連続ドラマへと方針転換した『将軍』は結果、今年のノミネート作で最多ノミネートを達成、2024年を代表する大作シリーズへと変身した。アジア系の躍進は目覚ましく、『将軍』の他にも『TOKYO VICE』シーズン2がシリーズ終盤にかけて尻上がりの面白さを見せていた。

 PeakTVが培った豊かな土壌は名脚本家スティーヴン・ザイリアンにパトリシア・ハイスミスの『リプリー』を全8話モノクロで撮らせるという快挙を成し遂げさせた。上半期、最大のサプライズにして最もチャーミングな作品である『シュガー』を生み出せるたのはAppleTV+による所も大きいだろう。先達的存在であるNetflixは今やトレンドの発祥を北米に限っておらず、英国から生まれた小品『私のトナカイちゃん』は上半期最大の衝撃作となり、ここ日本でももっと多く観られるべきである。

 『アトランタ』はじめ、数多くの作品でコラボレーションしてきたドナルド・グローヴァーとヒロ・ムライによる新作『mr.&mrs.スミス』のラグジュアリーな仕上がりに惚れ惚れとし、今や長寿シリーズとなった『ファーゴ』『トゥルー・ディテクティブ/ナイト・カントリー』の進化に舌鼓を打った。上半期の個人的な発見と衝撃はネイサン・フィールダーで、彼の2作品『リハーサル』『ザ・カース』に笑い転げた。
上半期は他『エクスパッツ』『ポーカー・フェイス』を見逃したことを記しておきたい。

上半期ベストテンについてはポッドキャストでも紹介しています。



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2023年ベスト10

2024-01-21 | ベスト10
 例年同様、今年も各データベースを基に2023年製作の映画を選出している。そのためトッド・フィールド『TAR』、パク・チャヌク『別れる決心』、シャーロット・ウェルズ『aftersun/アフターサン』、スピルバーグ『フェイブルマンズ』、グァダニーノ『ボーンズ アンド オール』、ロバート・エガース『ノースマン 導かれし復讐者』、スコリモフスキ『EO イーオー』、タイ・ウェスト『PEARL パール』、クローネンバーグ『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』、クラピッシュ『ダンサー イン Paris』などが選外になっていることを断っておく(2023年上半期ベスト10はこちら)。ストリーミングプラットフォームが隆盛し、世界中でほぼ同時に同じ作品を見られるようになった今、既に評価の確立した昨年以前の映画について僕が順位をあれこれ逡巡することは2023年に生き、映画を見ていたことにはならないだろうというのが理由だ。

【MOVIE】
監督 マーティン・スコセッシ


監督 デヴィッド・フィンチャー


監督 ジュスティーヌ・トリエ


監督 アリス・ウィンクール


監督 ギャレス・エドワーズ


監督 ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・スミス


監督 ベン・アフレック


監督 サム・エスメイル


監督 宮崎駿


監督 グレタ・ガーウィグ

 僕たちの生きる社会システムの限界について想わずにはいられない1年だった。戦火は拡がりを続け、政治腐敗がはびこり、物価は高騰。ローンチ当初は格安にも思えたストリーミングサービスの月額費も気付けばそれなりの出費になっており、日本では映画館の料金も上がった。ついに産業構造が限界に達したハリウッドはパンデミックが明けたにもかかわらず、俳優・脚本両組合のストライキによって半年以上も機能を停止。多くの映画が製作中断、公開延期となりヴィルヌーヴの『DUNE PART2』は2024年に持ち越された。当然、ここ日本に入ってくる“洋画”や“海外ドラマ”も激減し、先に挙げた「世界中で同時に見ることができる」からは程遠くなり始めている。2023年のアメリカ映画における重要作(おそらく今後、発表されるアカデミー賞も制することになる)『オッペンハイマー』は日本で劇場公開されていない。かろうじて2024年の公開がアナウンスされているが、未だ公開日も決まっていない状態だ。

 そんな2023年を象徴する重要作の多くが既存システムへの抵抗や批評をテーマにしていた。サマーシーズンに歴史的な大ヒットを飛ばした『バービー』がコメディの体裁で観客の多くを目覚めさせ、グレタ・ガーウィグはこれまで執拗に女性映画監督のキャリアを閉ざしてきたハリウッドを平伏させた。ハリウッド映画の衰退は外国映画にチャンスをもたらし、宮崎駿の『君たちはどう生きるか』が全米興行収入第1位を記録。日本では老齢の巨匠に往時の作風を求める批評性のなさから興行はさほど振るわなかったが、HBOMAXでジブリ作品をストリーミング視聴できる北米の観客には機が熟していた。2023年の優れたインディーズ映画『リアリティ』で、ごく小さなディテールに宮崎映画が“共通言語”として織り込まれていたことも偶然ではないだろう。

 オスカーレースを見る限り、ベン・アフレック監督の復活作となる『AIR』への過小評価にはいい加減にしてくれとしか言いようがない。1984年のナイキによるエアジョーダン開発秘話を描いた本作は、2023年を最も的確に批評した作品である。アメリカという国を成してきたイノベーションとは何かと問いかけ、それはアルゴリズムと数字に支配された現在のハリウッドに向けられている。マイケル・ジョーダンが結んだ恒久的に売上の一部を得られる画期的な契約は今年、任天堂(宮本茂)が自らプロデュースし、大成功を収めた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や、東宝が直々に全米で配給した『ゴジラ-1.0』、テイラー・スウィフトが劇場側と直接に配給契約した『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』など、正当な権利所持者が正当な報酬を得られた大ヒット作に影響を見受けることができる。
 また、『AIR』が先陣を切った劇場公開とストリーミングの並行リリース形態も方向性が見えてきた。拡大公開を行い、一定期間を経た後の配信でも双方に不利益にならないことが『AIR』やApple製作の『ナポレオン』、そして『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で実証されたのだ。

 スコセッシの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は19世紀に莫大なオイルマネーを手に入れたオセージ族と、それにむらがった白人たちを描いた実録作品であり、アメリカという国が白人という搾取者の構築したシステムによって成り立ってきたことを看破する力作である。『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』『ザ・クリエイター』、そしてハリウッドシステムの完全に外で創作を続けるフィンチャーの『ザ・キラー』などは、いずれも既存システムへの懐疑と抵抗を描いていた。生活インフラからテスラやNetflixに至るまで全てのシステムが崩壊する様を描いた『終わらない週末』の不気味さは、来る2024年アメリカ大統領選挙を前にした内戦の不安に他ならないだろう。

 ハリウッドが弱まれば、当然アメリカ以外の映画を見る機会も増え、2023年は地盤の固いフランス映画に当たりが多かった。カンヌパルムドールを制したジュスティーヌ・トリエの『落下の解剖学』は、おそらくオスカーにも乗り込むことになるはず。そして日本では劇場未公開のアリス・ウィンクール監督作『パリの記憶』は、厳密には2022年の映画だが、最も心打たれた映画であるため例外的に選出した。2023年偏愛の1本である。

【TV SHOW】
監督 ジェシー・アームストロング、他


監督 クリストファー・ストアラー、他


製作 デイブ・アンドロン、マイケル・ディナー


監督 クレイグ・メイジン、他


監督 ビル・ヘイダー


製作 ハナー・ボス、ポール・チュリーン


監督 マイク・フラナガン、他


8、『I MAY DESTROY YOU』
監督 ミカエラ・コール、他


監督 セドリック・クラピッシュ、他


10、『キラー・ビー』
監督 ドナルド・グローバー、他
 TVシリーズについては2023年もリアルサウンドにベスト10を寄稿しているため、各作品への寸評についてはそちらを参考にして頂きたい。
記事はこちら

 本稿では10位のみを入れ替えた。トキシックファンダムを痛烈に風刺する『キラー・ビー』は、ドナルド・グローヴァーの苛立ちが伝わってくる強烈な1本。8位の『I MAY DESTROY YOU』ミカエラ・コールといい、とどのつまりはSNSをやめ、スマホを捨てろということだ(そう、フィンチャーも『ザ・キラー』で何度もスマホを踏み潰していた)。真の人生とはスマホの外にある。

 フィナーレを迎えた『サクセッション』シーズン4が、映画も含めた実質上の2023年ナンバーワンである。2010年代後半以後、アイデンティティポリティクスの時代において私たちは世界が今より良くなると信じかけたが、そんなことはない。悪しきシステムが崩壊しても、さらに劣悪な何かがそれを継承するだけだ。そんな痛烈な風刺に打ちのめされた衝撃を超える作品は、他に現れなかった。くじけてしまいそうになる事ばかりだが、しかし最終回を前にある意外な人物が放った「だが私は踏み留まる」という言葉を胸に、僕はなんとか生きていこうと思うのである。

※2023年の年間ベストテンについてはポッドキャストでも解説しています。



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2023年上半期ベスト10

2023-07-15 | ベスト10
【MOVIE】
監督 ケンプ・パワーズ、他


監督 トッド・フィールド


監督 パク・チャヌク


監督 シャーロット・ウェルズ


監督 スティーヴン・スピルバーグ


監督 ベン・アフレック


監督 ルカ・グァダニーノ


監督 ロバート・エガース


監督 イエジー・スコリモフスキ


監督 タイ・ウエスト



【TV SHOW】
製作 ジェシー・アームストロング


製作 クレイグ・メイジン


3、『バツイチ男の大ピンチ!』
監督 シャリ・スプリンガー・バーマン、ロバート・プルチーニ、他


4、『DEVS/デヴス』
監督 アレックス・ガーランド


5、『ラブ&デス』
製作 デヴィッド・E・ケリー


6、『ガンニバル』
脚本 大江崇允


7、『BEEF/ビーフ』
製作 イ・サンジン


8、『イエロージャケッツ』
製作 アシュリー・ライル、バート・ニッカーソン


 人生の可能性と家族愛を謳ったマルチバース映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞ほか計7つのオスカーを獲得してから3か月後、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の主人公マイルズ・モラレスはマルチバースによって定められた運命を「ぶっ潰す!」と言い放った。各ユニバースで“ベンおじさんの死”に相当する事件が起きなければ宇宙は均衡を崩し、破滅を迎えてしまう。アルゴリズムによって正確に管理された宇宙を監視しているのは各ユニバースから集まったスパイダーマンその人自身。彼らは親を死の運命から救うことなくシステムに隷属している。

 2023年上半期のもう1つの重要作『サクセッション』もシステムについての作品だった。スコットランドから裸一貫でアメリカへと渡り、一代で巨大メディア・コングロマリットを作り上げたローガン・ロイの後継を巡って一族が骨肉の争いを繰り広げる。ローガンの作り上げた極右ニュースメディア(FOXニュースがモデルになっている)は国民世論を操作し、ついには恐ろしいポピュリストに次期大統領の当確を打つ。2010年代後半からのアイデンティティポリティクスによって悪しきシステムは淘汰され、より良い誰かへ継承されると錯覚したが、システムはさらに劣悪な何かにすり替わって持続していくのだ。

 ハリウッドはシステムによってがんじがらめになっている。スーパーヒーローを交錯させることに腐心したアメコミ映画の寡占によって映画は3部作どころかTVシリーズまで見なければ話がわからず、ファンダムへのサービスを過積載して3時間近い長尺作品ばかりが居並ぶ。2時間という映画ならではのナラティブが求められることはなく、作家にとっても観客にとってもパーソナルな物語形式ではなくなってしまったように思える。そんな中、「あなたの物語を語りなさい」と言われたマイルズ・モラレスはシステムから逸脱し、『アクロス・ザ・スパイダーバース』はアメコミ映画を総括して、再び映画を個人の物語へ集束しようとする。ダークな社会風刺コメディの『サクセッション』がシステムの外れにいる頑迷な老人に「それでも踏みとどまる」と言わせた事に中年の筆者は寄りかかってしまう所だが、2023年の現在(いま)多くの若者に見られるべきはマイルズの物語だろう。また、劇場公開と配信の両輪で映画製作を行うAmazonでベン・アフレックが『AIR/エア』を撮り、80年代のエアジョーダン開発秘話から新のクリエイティブとは既存システムの外にあることを描いた明晰さは短い劇場公開期間から見逃すには惜しい。

 ベスト10には時代を的確に捉えた作品と、心動かされたパーソナルな作品を並べた。TVシリーズは昨年の活況が嘘のようで、10本を選ぶに至らなかった。ハリウッドでは現在、脚本家組合、俳優組合によるストが数週間に渡って継続しており、ほとんどの映画、TVシリーズの製作が中断している。ストリーミングメディアの台頭とコロナショックによって急速に進んだシステムの変化と崩壊は、これが無事に終息を迎えてもかつての活況を取り戻すことはないだろう。PeakTVは終わり、ハリウッド映画もまた終焉に向かいつつある。悲嘆し、世をすねてしまいたくなる所だが、それでも見続けるのは僕が自身と世界の距離を知るためであり、内なる部分を照らしてくれる物語と巡り合うためである。
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2022年ベスト10

2023-02-05 | ベスト10
【TVSHOW】

監督 ヴィンス・ギリガン、他



監督 ミゲル・サポチニク、他



監督 トニー・ギルロイ、他



4、『イルマ・ヴェップ』
監督 オリヴィエ・アサイヤス



5、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』
監督 ユ・インシク



6、『パチンコ』
監督 コゴナダ、他



7、『アトランタ』シーズン3〜4
監督 ドナルド・グローヴァー、他



監督 クリストファー・ストアラー、他



9、『セヴェランス』
監督 ベン・スティラー、他



監督 ジェームズ・ホーズ、他

 TVシリーズの総評、ひいては2022年のアメリカ映画、ドラマ全体についての論考はリアルサウンドの年間ベストテンに寄稿しているのでこちらをぜひ。なお当ブログのランキングは“改訂版”で、いくつか作品や順位を入れ替えている。まさに“黒魔術”のような『イルマ・ヴェップ』にのめり込み、1年間で2シーズンをリリースした『窓際のスパイ』の娯楽性に毎週テレビドラマのオンエアを楽しみにする生活を味わわせてもらった。


【MOVIE】

監督 三宅唱



監督 リラ・ノイゲバウアー



監督 セバスティアン・レリオ



監督 ジョセフ・コシンスキー



監督 ジョーダン・ピール



監督 ライアン・ジョンソン



監督 ロマン・ガヴラス



8、『RRR』
監督 S・S・ラージャマウリ



監督 ロン・ハワード



監督 ダン・トラクテンバーグ

 今年も頑なに2022年公開(ワールドリリース)を条件に選出したところ、いよいよ10本選ぶのもギリギリになってしまった。不作だった。パンデミックを経てアメリカ映画の製作本数が激減、劇場公開されず配信スルーとなる作品も少なくなく、日本の劇場で公開されるアメリカ映画は明らかに減った。年末に映画ファンの話題を集めた作品群はいずれも1年以上前に本国で公開された“去年の映画”である。もはや日本のスクリーンにかかる映画を見ているだけでは、アメリカ映画の現在(いま)を追うことは到底できないのだ。せめてもの慰めは2022年の主軸が株価の暴落したNetflixではなく、劇場公開作にあった事だ。アカデミー賞ノミネートを見渡してもNetflix配信によるドイツ映画『西部戦線異状なし』がノミネート数で第2位の9部門に挙がってはいるものの、他は全てが劇場用の映画である。そのほとんどが日本では2023年上半期に公開されるため、今回のベストテンは映画史的な意味合いよりも自身の偏愛を優先した。

 『トップガン マーヴェリック』の面白さ、映画興行を救った功績等を考えれば第1位にするのが妥当な所だが、上半期ベストテンの際にもこの点を評価しているため、いったん脇に置いた。予想外の深い感動をもたらしてくれた『ケイコ目を澄ませて』『その道の向こうに』『聖なる証』が並んだ時、いずれも30代前後のヒロインの孤高を描いており、2022年は彼女らの佇まいに魅せられたのだと気付いてこの順位を付けた。日本映画をベスト1に選ぶのは昨年の『ドライブ・マイ・カー』に続き2年連続。“アメリカ映画、TVシリーズが専門”と自称し、滅多に邦画を見ない筆者が年末に見た邦画を1位に挙げるのはどういう見識なんだという思いもなくないが、それでも僕はこの映画が大好きなのである。

 以下、IMAXのスペックをフルに堪能した『NOPE』の劇場体験、やはり(一部)IMAXで撮影されながら何とNetflix映画である『アテナ』のスペクタクル、そのNetflixが権利を買い取り、べらぼうに楽しい続編を作り上げた『グラス・オニオン』、ハリウッド映画の冗漫な長尺化が相次ぐ中、破格のストーリーテリングと豪腕演出で3時間をモノともしない『RRR』に圧倒され、ウェルメイドな“実録感動大作”なんてとんと見ていないなと『13人の命』のロン・ハワード監督の仕事ぶりに感嘆した次第である。そして『プレデター ザ・プレイ』の面白さに悶絶しつつ、ストリーミングにプラットフォームを奪われた在りし日の“ハリウッド映画”という劇場体験を懐かしく思った。



【ベストアクト】
・『ベター・コール・ソウル』の全キャスト
・アリシア・ヴィカンダー『イルマ・ヴェップ』『グリーン・ナイト』
・ジェニファー・クーリッジ『ホワイト・ロータス』シーズン1〜2
・ゲイリー・オールドマン『窓際のスパイ』
・タロン・エガートン&ポール・ウォルター・ハウザー『ブラックバード』
・ブライアン・タイリー・ヘンリー『その道の向こうに』『アトランタ』『ブレット・トレイン』
・ジェニファー・ローレンス『その道の向こうに』
・岸井ゆきの『ケイコ 目を澄ませて』
・フローレンス・ピュー『聖なる証』
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