
2024年、最も目の醒めるような映画体験はラトビアからやって来た。人類文明が水没した世界を1匹の黒猫が旅する。ここには安易な擬人化もなければ台詞もない。アニメーションの原初表現が動物たちに魂を宿らせ、観客を目覚めさせるのだ。
映像技術の向上のみならず、アイデンティティポリティクスの時代を経てアニメーション映画のストーリーテリングは多様化したが、あまりにも多くのイシューを背負い、絵よりも言葉で語る“口数”が多くなり過ぎてはいないだろうか。2019年の前作『Away』をたった1人で撮り上げた1994年生まれギンツ・ジルバロディス監督の洗練にハリウッドも帽子を脱ぎ、本作はアカデミー賞の長編アニメーション映画賞に輝いた。
驚くべきはそのカメラワークだ。猫の目線の高さが徹底され、多くの場面はカットが割られることなく、まさに猫のような滑らかさで移動していく。そこから見えてくるのはかつてあった人類文明の痕跡だ。猫を愛した芸術家のアトリエ、水没した巨大都市、何かしらの信仰が行われていた岩山…人類が姿を消して久しく、度々隆起する水位に同年『野生の島のロズ』同様、地球温暖化の影響が見て取れる。
黒猫は突如、押し寄せた津波にさらわれ、一艘の小舟にしがみつく。そこに乗り合わせたのはカピパラ、犬、猿、鳥という全く異なる動物たち。皆、思い思いに振る舞いケンカも絶えない。でも、みんな違ってそれでいいのだ。いつしか物言わぬ彼らに個性が見え、観客には言葉が聞こえてくる。彼らが手に手を取って生きていけるのなら、きっと私たちにもやれるはずなのだ。
『Flow』24・ラトビア、仏、ベルギー
監督 ギンツ・ジルバロディス