長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『パラサイト 半地下の家族』

2020-01-18 | 映画レビュー(は)

 大旋風である。カンヌ映画祭パルムドール受賞を皮切りに全米の批評家賞を席巻、ついにアカデミー賞では国際長編映画賞のみならず作品賞はじめ主要6部門にノミネートされる大快挙となった。『殺人の追憶』『グエムル』『母なる証明』などを手掛けてきた韓国映画界の鬼才ポン・ジュノ監督がついに天下を取ったのだ。2004年、今は亡き渋谷のミニシアター“シネアミューズ”で『殺人の追憶』を見た時の衝撃が甦った。ポン・ジュノは僕らが現在進行形で見てきた現代の巨匠だ。何よりハリウッド進出で辛酸をなめた彼が地元韓国でこのマスターピースを作り上げた事が嬉しい。

 そしてこの『パラサイト』は2019年に生まれるべくして登場した映画である。主人公キム一家は家族4人全員が失業中であり、低所得者向けの半地下物件に住んでいる。肩より上にしか窓がなく、外から路面清掃の消毒煙が流れ込み、酔っ払いが立小便をする高さだ。トイレは地上物件の配管に合わせているため便器がロフトのような高さにあり(王様便器と呼ぶらしい)、一家は階上のwifiを無断拝借してネットを使っている。一家の主はもちろんポン・ジュノ映画の“顔”、偉大なるソン・ガンホだ。

 そこへ長男ギウの元に山の手の富豪パク家の家庭教師の仕事が舞い込む。韓国の超難関お受験戦争に失敗したギウは進学はできなくても学力はある。やはり美大の受験に失敗した妹ギジョンに学生証を偽造させ、ギウはパク家に潜り込む。するとそこには多動症のような末弟がおり、ギウはアートセラピーの専門家としてギジョンを紹介する。さらに今度は運転手として父親を…。

 これまでのポン・ジュノ映画同様コメディ、サスペンスとジャンルを縦横無尽(いや、この映画の場合は上下無尽か?)に移動する『パラサイト』はその背景として各国同様の格差問題を描いており、韓国のそれは際立って厳しい。不動産価格の高騰により人口の約2パーセントがこの半地下物件に居住しているという。また大企業が優遇された事で中小企業は相次いで倒産、失業率は上がり、正規と非正規雇用の格差はひらいてワーキングプアを激増させている。そんな社会において韓国では恋愛、結婚、出産、正規雇用、マイホームという5つの夢を諦めた“五放世代”という若者層が生まれ、さらには友達も持たず、将来の夢を失くした“七放世代”にまで発展しているというのだ。劇中、ソン・ガンホ扮する父親は子供達から何度も「計画はあるのか?」と聞かれ、答えに窮する。夢も希望も持てない社会で計画なんて立てられるワケがない。

 この下層に追いやられた人々の絶望と怒り、そして他者を追い落とそうとする社会の縮図は2019年『ジョーカー』『アス』にも描かれ、大ヒットを記録した。それらと同一線上に存在する本作の一大ムーブメントは時代が生んだ至極当然の結果と言えるだろう。だが僕がそれらの作品よりも断固、本作を支持したい理由はラストシーンにある。長男は最後にある“計画”を立てる。そう、希望がなければ“計画”は立てられないのだ。


『パラサイト 半地下の家族』19・韓
監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ、イ・ソギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、チャン・ヘジン
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2019年ベスト10 | トップ | 『ヒックとドラゴン 聖地への... »

コメントを投稿

映画レビュー(は)」カテゴリの最新記事