長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『悪魔はいつもそこに』

2020-09-22 | 映画レビュー(あ)

 ドナルド・レイ・ポロックの同名小説をオールスターキャストで映画化した本作は神すら逃げ出すアメリカ辺境の暗黒を描いたノワールだ。物語は第2次大戦直後、兵役を終えたウィラード(ようやく演技者として実力を発揮する機会を得たペニー・ワイズことビル・スカルスガルド)はウエイトレスのシャーロット(ヘイリー・ベネット)と恋に落ち、居を構える。長男アーヴィン(後にトム・ホランド)が生まれるも、シャーロットはガンを発症。戦地へ行って以来、神を捨てていたウィラードは裏山に十字架を建て、昼夜祈りを捧げた。そのころ、近隣ではジェイソン・クラークとライリー・キーオ演じるカップルによって無差別殺人が繰り広げられており…。

 映画は一見、関係がないように見える2つの物語を交互に語っていく。それらを繋ぐのが誰とも知れないナレーションだ。この世の非情を炙り出す声の主は原作者レイ・ポロック自身。聞けば50年以上、整備工として働いてきた遅咲きの作家であり、知性と深味を持った声は語るべき物語を自身の中で醸成させてきたそれである。

 辺境に置き去られたアメリカ人の無知と狂信はとりわけ中盤、ロバート・パティンソンとエリザ・スカンレンによって湿度を高める。あらゆる怪役に挑み続けるパティンソンがド外道牧師役に扮すれば、『シャープ・オブジェクツ』で僕らにトラウマを与えたスカンレンが再び胸騒ぎを起こす。トム・ホランドはスパイディと同じ高校生役でも、こちらはFワードと暴力にまみれた勝負作だ。

 この酸臭極まる物語を監督アントニオ・カンポスは直接的描写を避けた節度ある演出で2時間18分を牽引した。後半、物語の重要な展開においてコシの弱い部分があり、これがTVシリーズならばと惜しまれるが、この題材でオールスターキャストを交通整理したのだから見事である。

 今年のNetflix映画は一筋縄ではいかない作品ばかり。コロナショックによって壊滅的危機に陥っているハリウッドを勇猛果敢に支え、実に頼もしい。


『悪魔はいつもそこに』20・米
監督 アントニオ・カンポス
出演 トム・ホランド、ロバート・パティンソン、エリザ・スカンレン、ジェイソン・クラーク、ライリー・キーオ、ミア・ワシコウスカ、ビル・スカルスガルド、セバスチャン・スタン

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