長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック』

2023-02-18 | 映画レビュー(ね)

 女優としてキャリアを積んできたオーガスティン・フリッゼルの顔はすぐに思いつかないかも知れないが(夫デヴィッド・ロウリー監督作に多く出演してきた)、長編監督デビューとなる本作を見ればもうその名前を忘れることはないだろう。アメリカの片田舎に暮らす女子高生2人の青春劇は図々しいまでのエネルギーに満ちた快作だ。溌剌としたマイア・ミッチェルとカミラ・モローネが演じる主人公アンジェラとジェシーは、共同生活をしながら同じファミレスでバイトをしている。平屋の一戸建てには兄貴とポルノ動画狂いの友人も同居していて、毎月の家賃の捻出にも苦労する日々だ。ジェシーの誕生日にガルヴェストンのビーチで過ごしたいとアンジェラが家賃を旅費に当てた事から、2人はとんでもない不運の連鎖に巻き込まれていく。あまりにも行き当たりばったりなアンジェラとジェシーに眉をひそめたくなる観客もいるだろうが、フリッゼルはそんな事もお構いなしに振り落とさんばかりの勢いだ。2日間、収監された事からトイレに行き損ねたジェシーが引き起こすトンデモないクライマックスはよくぞこんな伏線を思いついたと声を上げて笑わずにはいられない(飲食をしながらの鑑賞は絶対にお勧めしない)。聞けばフリッゼル自身の体験が基になっている様子で、そうとわかれば度を越してバカな男どもも害はなく、実体験ゆえのリアルなディテールなのだろう。そして行きたい所とやりたい事を並べ合うヒロイン2人の無限の可能性に、頬が緩まずにはいられないのだ。

 フリッゼルは本作の後、HBOのTVシリーズ『ユーフォリア』のパイロット版を担当。今となってはサム・レヴィンソンとゼンデイヤのコラボレーションというイメージの強い作品だが、あのエクストリームな作風を決定付けていたのはフリッゼルだったのだ。その後、Netflix映画『愛しい人からの最後の手紙』でメロドラマを手掛けるなど、監督として順調にキャリアを伸ばしている。


『Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック』18・米
監督 オーガスティン・フリッゼル
出演 マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ
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『眠りに生きる子供たち』

2020-02-14 | 映画レビュー(ね)

 スウェーデン、移民の子供たちが徐々に昏睡状態に陥る“あきらめ症候群”を追ったドキュメンタリー。今年のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。

 迫害によって国を追われ、なかなか難民申請が下りない親の不安を子供達が感じ取っている事に原因があるらしい。中には祖国で子供自身が暴力を目撃し、極度の緊張を強いられたケースもある。いつ強制送還されるかわからない恐怖が子供の心を閉ざし、絶望させ、何か月もの眠りへと追いやるのだ。

 この奇病は世界的に症例が増えており、中でもスウェーデンは際立って高いという。EU随一の福祉・人道国家に移民は大挙して流入し、その結果スウェーデンの財政は逼迫、福祉サービスの低下を招いた。移民の特権を糾弾した極右政党の躍進と、移民の受け入れ規制強化は無縁ではないだろう。

 2019年はトランプが移民の親子を引き離して収監した言語道断の政策も記憶に新しい。“移民問題”と一語で書いてもそこには様々な側面があり、劣悪な収容環境が指摘されている我が国も無縁ではないだろう。何より子供たちに生きることを諦めさせる社会などあっていいはずがない。
 病気の詳しいメカニズムは判明しておらず、治療法も確立されていない。しかしながら映画では難民申請が受理された数か月後に子供は目覚めている。


『眠りに生きる子供たち』19・米、スウェーデン
監督 ジョン・ハプスタ、クリスティン・サミュエルソン
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『ネイバーズ』

2017-08-02 | 映画レビュー(ね)

セス・ローゲンとローズ・バーン夫妻が購入した念願のマイホーム。
一児にも恵まれ、夢の中流郊外ライフ…と思いきや、隣に引越てきたのはザック・エフロン率いるイケイケ学生軍団。連日連夜のドラッグ、セックス、ロックンロールに夫妻の忍耐も限界に達した。「あと2回、警告を受ければ学生寮は解散」という情報を得た彼らはアニマルハウス壊滅に向けて立ち上がる。かくして30代夫婦VSバカ学生軍団の仁義なきご近所戦争が始まった!!

東西問わずご近所トラブルは騒音から…というのがリアルな取っ掛かりで、個人主義が行き過ぎたこの10年強はそんな近隣トラブルを描いたスリラー、ホラーが多い。ザック・エフロンが逞し過ぎるのもあってか(26歳!?)、逆恨みされていく下りなんてたまったもんじゃない怖さである。そんなマジな空気感をはらみつつ、バカ映画として突っ切れてしまっているのはセス・ローゲンのボーイ・ネクスト・ドアな親近感による所が大きい。「こいつ、またアホなことやってんなぁ」と大らかな気分になれてしまうのだ。

ローゲンのいい所は共演相手の警戒心を解くフランクさだ。
ジェームズ・フランコをバカ路線に呼び入れてキャリアチェンジさせたのは今や最大の功績である。一方で、美人女優を迎えると途端に引き立て役に徹するのだから、世の非モテはこのマメさを見習うべきである。ハリウッド進出当時は正統派美人で売っていたローズ・バーンは、今や『ブライズメイズ』『伝説のロックスター再生計画』と“美人なのにけっこう凄いことやっちゃう人”という印象だ。そんな彼女をセスは上手にいじって笑いを生んでいる。おっぱいが張って“ハルク化”しちゃうシーンなんてかなり大変な絵なのだが、イタさはない。

 全米での大ヒット受け、パート2も製作された。今度はクロエ・モレッツちゃん引き入る女子寮が越してくる!まだコメディ経験のないクロエちゃんをセスの野郎がどうイジったのか、見てみるとするか。


『ネイバーズ』14・米
監督 ニコラス・ストーラー
出演 セス・ローゲン、ザック・エフロン、ローズ・バーン
 
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『ネオン・デーモン』

2017-02-13 | 映画レビュー(ね)

ニコラス・ウィンディング・レフンの怖れ知らずな『ネオン・デーモン』は前作『オンリー・ゴッド』以上に観客を唖然とさせる大怪作だ。モデルを目指して上京してきた16歳の美少女エル・ファニング(透き通るような美しい肌!)がLAの魔窟に蝕まれていく物語はイニシエーションものにもサスペンスにも収まらない。羨望と嫉妬が絡み合うモデル達の確執は殺人、屍姦、人肉食へとエスカレートしていく。

ソフィア・コッポラならまだしも、北欧の鬼才レフンの映画で主役を張れてしまうエルたん(註:エル・ファニング)の作品選択眼は大いに頼もしく、少女と女の中間に居る刹那をフィルムに残す事ができたのも映画の神に愛された故だ。
しかし本作はそんな一時の“季節”よりも、それが過ぎ去ってしまった持たざる女達にこそ見るべきものが多い。かつてエルたんと同じく天才子役と称されたジェナ・マローンはエルの美しさにこみ上げる欲望を抑えきれず、死化粧を施した死体に跨って自慰に耽け、オルガズムに達する。

先輩モデル役のアビー・リーは若い娘の生き血を舐め、血の風呂に浸かって乙女の肉を喰らう。ホンモノのスーパーモデルであるリーはモデル特有の硬質な美貌を光らせ、芝居の胆を押さえた上手さを見せる。ブレイク作
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の風変りなタグ役で“可愛いし、いい娘なんだろうなァ”とファンになってしまった人も多いと思うが、本作を見た後では“モデル怖ぇええ!”と凍り付くこと必至。『ネオン・デーモン』は若い頃から一線で活躍してきたマローン、リーの業界サバイバル怪奇譚にも見て取れるのだ。

とはいえ、このネタで2時間弱というランニングタイムは少々、間延びが過ぎやしないか。元々、行間を見せる監督ではあったが、本作ではセリフとセリフの間合いが意図的に引き延ばされ、彼特有の様式美が自家薬籠中に陥りつつある。次作はAmazon製作のTVシリーズが決定しており、良い意味で創作的制約が加わる事を期待したい。

レフンの狙いがハマった1つといえば、キアヌ・リーヴスの出演だろうか。エルたんにやたらとキツく当たるモーテルのオーナー役。いつもの無表情演技で不機嫌なキアヌって何でこんなにイイんだろう!(笑)


『ネオン・デーモン』16・仏、米、デンマーク
監督 ニコラス・ウィンディング・レフン
出演 エル・ファニング、キアヌ・リーヴス、ジェナ・マローン、アビー・リー、ベラ・ヒースコート
 
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