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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『モンキーマン』

2025-01-09 | 映画レビュー(も)

 人気俳優の監督デビューは2024年も跡を絶たず、今度は『スラムドッグ・ミリオネア』『LION』『グリーン・ナイト』などで知られる英国の演技派デヴ・パテルが登場。映画は何とハードなバイオレンスアクションだ。当初はNetflixへの配信スルーが検討されていたが、映画を見たジョーダン・ピールがエグゼクティブプロデューサーとして合流。晴れて劇場公開され、スマッシュヒットを記録した(当初パテルは脚本、主演を担当し、監督にはニール・ブロムカンプがオファーされていたという)。

 パテル演じるキッドは猿のマスクに身を包み、闇闘技場で殴られ役に徹するヒールファイター。しかし、彼の内には故郷を焼き、母を殺した警察署長への復讐心が渦巻いている。『モンキーマン』はパテルにとって単なる監督デビュー作ではなく、自ら語るべき物語だった。インド系移民の両親を持つ彼は自らのルーツを辿り、風土を撮らえ、ハヌマーン伝説を現代インドのスーパーヒーローとして表象する。足技が映えるパテルのアクション演出は時折、『ザ・レイド』『ギャング・オブ・ロンドン』で知られるギャレス・エヴァンス監督の殺気(そしてユーモア)を思わせ、観客のアドレナリンをたぎらせる。

 本作の撮影はパテル自身の負傷などアクシデントも相次ぎ、相当な困難があったという。監督作を量産する職人を目指すとは思えないが、再び自身の物語を見つけた時、彼はディレクターズチェアに戻ってくるかもしれない。


『モンキーマン』24・米、加、印、シンガポール
監督 デヴ・パテル
出演 デヴ・パテル、シャルト・コプリー、ビト・バッシュ、ビビン・シャルマ

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『モンタナの目撃者』

2021-09-19 | 映画レビュー(も)

 観客を飽きさせないために次から次へとイベントを起こすMCU映画の後では、テイラー・シェリダン監督の映画は遅すぎるかも知れない。劇中、アンジェリーナ・ジョリー扮する主人公ハンナは高所からロープ1本で飛び降り、映画はその後、何度も手の平のケアをする様子を映し続ける。「小川は河川に、河川は街に通じる」というセリフが物語の重要な道標となるように、小川の水で手を冷やす彼女はここで命を狙われる少年コナーと出会う。ハリウッド映画にはないこの“遅さ”こそ、作家の映画たる所以だ。

 事実、マイケル・コリータの原作小説を脚色した本作は紛れもないテイラー・シェリダン映画になっている。舞台となるモンタナの山中は前作『ウインド・リバー』の舞台から程なく、本作はまるでアイデアノートから採用されなかったネタを集めたような感触がある。大自然は常に公平無私、生き延びられるのは精神的強靭さはもとより、自然への畏怖の心を持った者だけだ。サバイバル教室を経営する保安官役で好漢ジョン・バーンサルが登場し、その妻メディナ・センゴアの配置が実に巧みだ。「こんな場所は嫌いだ」と吐く悪漢相手に彼女も「私もよ」と返し、この身重の妻が望んでこの土地に来たわけではないことが伺える。彼女のサバイバルスキルは大自然に試されたが故の必然だったのだ。

 殺し屋2人組にも従来のハリウッド映画にはないキャラクター性とセリフが与えられており、“小指”ことエイダン・ギレンとニコラス・ホルトが好演。映画では実績が上なホルトよりもギレンの方が断然、格上扱いというのは『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンにとって嬉しいところ(おそらくホルトはテイラー・シェリダン映画とあって二つ返事だったのではないか)。残忍な殺し屋でありながら、職業殺し屋とも言うべきくたびれた人間味があり、いい。

 そしてアンジェリーナ・ジョリーである。現在46歳、近年は人道支援活動などによってほとんど聖母のようなパブリックイメージだが、ここではむくつけきの男たちを束ねる消防士役でビッチな面影も見せてくれる。大自然にも拮抗するスターパワーはラストシーンで観客に後光すら錯覚させ、改めてこの類まれな女優のカリスマ性を思い知った。続いて公開されるクロエ・ジャオ監督のMCU映画『エターナルズ』での活躍が楽しみだ。


『モンタナの目撃者』21・米
監督 テイラー・シェリダン
出演 アンジェリーナ・ジョリー、フィン・リトル、エイダン・ギレン、ジョン・バーンサル、メディナ・センゴア、ニコラス・ホルト
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『物語る私たち』

2020-05-19 | 映画レビュー(も)

 透明感ある美しさと研ぎ澄まされた知性で女優のみならず監督としても活躍するサラ・ポーリーが自身にまつわる出生の秘密をドキュメンタリー映画にした。長年、家族の間で繰り返されてきたジョーク(「サラだけが家族の誰とも似ていない」)は若くして亡くなった母の過去を解き明かす中で真実味を帯びていく。輝くような明るさで周囲の人々を惹きつけた母には誰も知らない恋の秘密があったのだ。

 プライベートビデオのような質感の再現映像を交えて作られた本作はサラ・ポーリーという作家を読み解く上でも重要な1本だ。まるで老監督のような達観で愛の深淵を描く創造的衝動はどこから湧いてくるのか?妻のアルツハイマー発症により夫が夫婦生活における罪を贖う『アウェイ・フロム・ハー』、夫婦生活の中で虚無に陥った妻の孤独を描く『テイク・ディス・ワルツ』…彼女の描く愛とは常に不完全であり、常に居場所を見出せない者の孤独感に満ちている。

 この感覚はひょっとして母ダイアンと父マイケルの人生から彼女が感じ取ったものではないだろうか?母の秘められた過去を知った時、家族の秘密は語られるべき物語となり、サラはいかる人生の機微も愛するマイケルの豊饒さを知る。だが妻を亡くし、失意の底にいた彼を救ったのもまたサラだったのだ。

 そう語る父のモノローグで幕を引くサラ・ポーリー監督に、これは彼女から父へ宛てた手紙なのではと思えた。本作を経てより深みを増した彼女の次回作が楽しみである。


『物語る私たち』12・加
監督 サラ・ポーリー
 
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『モスダイアリー』

2018-11-04 | 映画レビュー(も)

父の自殺により全寮制寄宿学校に預けられたレベッカ(サラ・ボルジャー)。親友ルーシー(サラ・ガドン)の御陰ですっかり学校生活を楽しんでいたが転入生エネッサの出現により、周囲では謎の事件が相次いでいく…。

メアリー・ハロン監督の2011年作はまるで山岸涼子風の幻想怪奇モノだ。元はホテルだったという女子寄宿舎、謎の転校生と怪事件…とゴシックホラーのキーワードが揃う。エネッサ役リリー・コールの人並外れた容姿が際立ち、サラ・ガドンも完成された美貌で花を添える。レベッカ役ボルジャーは『イン・アメリカ』の子役と聞いてびっくりだ。

 元々、寡作の映画監督であったが、ハロンはこの後『またの名をグレイス』まで6年待つことになる。82分という尺では小品という印象は拭えず、プロットを追うだけの収まりのいい展開がやや物足りない。


『モスダイアリー』11・加、アイルランド
監督 メアリー・ハロン
出演 サラ・ボルジャー、サラ・ガドン、リリー・コール、スコット・スピードマン
 
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『モリーズ・ゲーム』

2018-05-24 | 映画レビュー(も)

こちらもびっくりするような話だ。オリンピック候補のモーグル選手から一転、ハリウッドセレブが通い詰める高額闇賭博ポーカーの主催者となったモリー・ブルームの手記を『ソーシャルネットワーク』『スティーブ・ジョブズ』の脚本家アーロン・ソーキンが映画化した。

自ら脚色も手掛けたソーキンは冒頭からヒロインの頭脳明晰さを怒涛のセリフ回し、編集スピードで表現する。ケガにより競技人生を諦めたが、ロースクールに入れる程の頭脳を持った人だ。闇賭博の熟知も実に理路整然。そして厳格な教育を受けてきただけに義理堅い。彼女はFBIに逮捕されても顧客リストを公開する事はなかった。

 事実は小説よりも奇なり、といった所だが意外と品行方正というか、彼女に破綻した歪さがなく、その実話ゆえの生真面目さが本作の欠点でもある。主演ジェシカ・チャステインは色気タップリの装いでも知性があふれ出るモリーの生真面目さにピッタリだ。前作『女神の見えざる手』同様、配役における性別格差をぶち破る力演だが、『ゼロ・ダーク・サーティ』のようなエグ味が出なかったのは監督の個性ゆえだろうか。

 そしてここでも『アイ、トーニャ』『ボストンストロング』同様、親が不在だ。ケヴィン・コスナー扮する厳格な父はいくら努力しても認めてはくれない。なるべきロールモデルを見失ったモリーを救うのは弁護士チャーリー(知性的なイドリス・エルバ)であり、このもう1人の父親の存在によって彼女は再起していく。決してへこたれない、バイタリティあふれる強さ。モリーはもがき、倒れても再び立ち上がり、次のステージへと向かっていくのだ。

 ソーキンは役者の扱い方もしっかり心得ており、マイケル・セラ(モデルはディカプリオか!?)、クリス・オダウド、そしてこのところ好投の続くビル・キャンプ(『ナイト・オブ・キリング』)らのシーンスティラーぶりにも触れておきたい。


『モリーズ・ゲーム』17・米
監督 アーロン・ソーキン
出演 ジェシカ・チャステイン、イドリス・エルバ、ケヴィン・コスナー、マイケル・セラ、ビル・キャンプ、クリス・オダウド
 
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