長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『タリーと私の秘密の時間』

2020-05-04 | 映画レビュー(た)

 マーロは40代で予定外の3人目を妊娠してしまう。長女はだいぶ手がかからなくなったが、下の子はどうやら発達障害を抱えているらしい。夫は仕事が忙しくてほとんど家にいない。家事も子育ても全て彼女の仕事で、毎日が戦場だ。

 ジェイソン・ライトマン監督と脚本家ディアブロ・コディが『JUNO』『ヤング・アダルト』に続きタッグを組んだ本作は彼らならではの人生に対する洞察が込められた映画だ。マーロは決して不幸な結婚をしたワケではなく、出産・子育てによって人生の何かを諦めたワケでもない。彼女は社会や自らが課した“良き母”、“良き妻”といった枷に囚われてしまっているのだ。シャーリーズ・セロンは生活感たっぷりにマーロを演じ、すっかり“ちょっと美人な普通のママ”になっていて驚かされる。徹底的に自らを鍛え上げてアクションスタントをこなした『アトミック・ブロンド』、自身の持つスーパーウーマンなパブリックイメージをフル活用したラブコメ『ロング・ショット』、オスカーノミネート作『スキャンダル』と近年、全方位の大活躍だ。そんな一分の隙も無いように見える彼女が無力感に苛まれ、ついにはオレンジジュースでグショグショのTシャツを脱いでたるみきった体を晒すシーンは実生活でも母親である彼女ならではの無防備さであり、好感が持ててしまうのである。

 そんなマーロを助けるのが深夜勤専門のベビーシッターであるタリーだ。気配り上手で子守も完璧、授乳に起こしに来るタイミングもバッチリだ。まだ若さを謳歌する年頃であり、その自由奔放さはマーロの人生に潤いを与えていく。マッケンジー・デイヴィスはタリーを好感度たっぷりに演じており、セロンも肩を貸すような相性で次作は2人のアクションも見てみたい。

 マジカルシッターのタリーの秘密は映画の最後で明らかになるが、ここでは触れない。ただ言っておきたいのは男も女も性別の課す役割分担から早く解放される事だ。「完璧でいなくちゃ」というのは、ツラい。


『タリーと私の秘密の時間』18・米
監督 ジェイソン・ライトマン
出演 シャーリーズ・セロン、マッケンジー・デイヴィス、マーク・デュプラス、ロン・リヴィングストン
 

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