長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『コレクティブ 国家の嘘』

2021-11-20 | 映画レビュー(こ)

 この映画を見て「対岸の火事」なんて言ってられるだろうか?2015年、ルーマニアで起きたライブハウスの火災事故を発端に国家の底なしの腐敗と汚職が暴かれるアカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート作だ。

 火災事故後、スポーツ紙ガゼッタの記者トロンタンは軽症の若者たちが病院で相次いで死亡した事に疑問を抱く。消毒液のほとんどは国内大手ピクシーファーマから納入されており、その成分が10分の1に希釈されていたのだ。この報道を皮切りに世論の追求が始まるとピクシーファーマの社長が謎の事故死を遂げる。一方、事実を隠蔽していた政府は退陣に追い込まれ、新たな保健相に社会運動家のヴラド・ヴォイクレスクが就任。保健相改革に乗り出すが、その闇はあまりにも深かった。

 ルーマニアは社会主義政権が数十年に及ぶ独裁政治を敷いていたため国民の政治に対する関心が低く、投票率は最低水準。その結果、官民どころかマフィアまで癒着した汚職構造が完成したという。とても他国の話とは思えないが、本邦と決定的に異なるのはマスメディアが機能し、怒りに燃えた国民がいるという事だ。トロンタンは言う「メディアが権力に屈したら、権力は国民を虐げる」。

 ところで『ブレイキング・バッド』『君の名前で僕を呼んで』『マインドハンター』等の影響でハエが飛んでいるとどうにも気になってしまう性格なのだが、本作には驚かされた。嘘の記者会見を行う前保健相にハエがたかる瞬間をカメラが撮らえている。なんという直喩表現!


『コレクティブ 国家の嘘』19・独、ルーマニア、ルクセンブルク
監督 アレクサンダー・ナナウ

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