遠い昔、遥か彼方の1977年。後に『エピソード4 新たなる希望』と名付けられる『スター・ウォーズ』第1作目が公開された頃、人々はオビ・ワン・ケノービの口から語られる“クローン戦争”と呼ばれる大戦や宇宙の守護者であるジェダイの騎士、アナキン・スカイウォーカーを殺したダース・ベイダーの存在に未だ見ぬ銀河の深淵を想い、それはファンセオリーと公式見解の入り混じった口承伝説として語り継がれていった。『スター・ウォーズ』は少なくともこの時点ではミステリアスなフォースを持っていた。
『エピソード6 ジェダイの帰還』の直後に位置するTVシリーズ『アソーカ』は、フランチャイズの新たな方向性を決定付ける重要な転換点だ。かつては長編実写映画を全作見ていればスター・ウォーズファンを名乗ることができたが、今やディズニープラスに乱立するTVシリーズも欠かさず見ていなければ口にすることも憚られる。ところが本作『アソーカ』はさらにファンの忠誠度を試してくる。2014年〜15年にかけて製作されたTVアニメシリーズ『スター・ウォーズ 反乱者たち』、さらには2008年から12年間に渡って続いた『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』を見ていることが大前提となっているのだ。ショーランナーのデイヴ・フィローニらは「初見のファンでも大丈夫」と公言しているが、意味深に演出された(しかし、何も行間を生み出してはいない)場面の数々に古参ファンは歯噛みすること間違いないだろう。
ディズニーによるルーカスフィルム買収後、フランチャイズのさらなる継続を狙って製作された続3部作が賛否両論、いやどちらかと言えば不評に終わった後、ディズニーは暗黒面のファンダムを怖れ、観客のノスタルジーに依存する全くもって冒険心のないシリーズ継続に執心してきた。『アソーカ』は40年以上に及ぶうるさ型のスター・ウォーズファンではなく、『クローン・ウォーズ』と『反乱者たち』をリアルタイムで見たファンに目を向け、まるで辺境の惑星に籠もったルーク・スカイウォーカーの如く自閉している。おそらく『ジェダイの帰還』から『フォースの覚醒』に至る30年間を、『マンダロリアン』に始まる一大TVシリーズとして作り上げるのがディズニーとルーカスフィルム、そしてデイヴ・フィローニによる構想なのだろう。『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』を観てきた若きファンで『アソーカ』を否定する人は誰1人いないハズだ。しかしうるさ型のオールドファンである筆者は、まるでライトセーバーで真っ二つにされたような気分になってしまったのである。
『アソーカ』23・米
監督 デイヴ・フィローニ、他
出演 ロザリオ・ドーソン、ナターシャ・リュー・ボルディッツォ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、レイ・スティーヴンソン、デイヴィッド・テナント、ラース・ミケルセン、ヘイデン・クリステンセン
※ディズニープラスで独占配信中※