長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ブラック・ウィドウ』

2021-07-17 | 映画レビュー(ふ)

 2年ぶりのMCU劇場映画最新作は満を持してのブラック・ウィドウ単独ソロ作品だ。『アベンジャーズ エンドゲーム』で自ら身を投げ打ち犠牲となった彼女の過去を描くスピンオフであり、スカーレット・ヨハンソンのMCU勇退作である。振り返ればワンダーウーマンにもキャプテン・マーベルにも先駆ける2010年『アイアンマン2』でデビューし、そこから10年も単独作を待たされたのは不遇としか言いようがない。それだけに実に丁寧に作られた渾身の1本だ。

 いつだってブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフはアベンジャーズを繋ぎ留める存在だった。アベンジャーズが分裂した『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』の直後に物語が設定されている事もより彼女のパーソナリティを強調しており、続く『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』でサノスによって全滅に追いやられて以後も彼女はただ一人、基地に残って平和の維持に努めてきた。好き勝手に暴れ、ケンカするアベンジャーズにおける“おふくろさん”という声も聞こえたが、『ブラック・ウィドウ』ではもっと適切な言葉が提示される。彼女はアベンジャーズという家族を繋ぎ留める献身的な"長女”だったのだ。

 映画は20年前のアメリカ、オハイオ州から始まる。ナターシャにも父、母がいて、そして最愛の妹エレーナがいた。ロシアの諜報組織レッドルームによって作られた偽装家族にすぎないが、幼いナターシャにとって本物の家族に変わりはなかった。決死のキューバ亡命の後、一家は離散。以後、ナターシャはブラック・ウィドウとして殺しの道を歩むことになる。幼少期のナターシャを演じる子役の存在感に「まさかスカジョの若返りCGか!?」と焦ったが、演じるエヴァー・アンダーソンはなんとミラ・ジョヴォヴィッチ、ポール・アンダーソン監督の娘。来年公開のデヴィッド・ロウリー監督作『Peter Pan & Wendy』でタイトルロールを演じることが発表されている。

 妹エレーナからの20年ぶりの接触により、ナターシャはレッドルーム壊滅のため家族を再結集させていく。エレーナ役フローレンス・ピューは実質上のデビュー作となった『レディ・マクベス』が本作起用のきっかけとなり、近年の『ミッドサマー』『若草物語』と続く快進撃は周知の通り。スカジョに劣らぬスター性とハスキーボイス、ありとあらゆるギャグを決める好投ぶりは清々しく、MCUへの合流によって今後さらなる伝説を築いてくことになるだろう。

 父親役には『ストレンジャー・シングス』のホッパー署長ことデヴィッド・ハーバーが扮し、トンチキなロシア製スーパーヒーロー“レッド・ガーディアン”で大いに笑わせてくれる。そういえば『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の回想シーンにナターシャの教官役でカメオ出演したジュリー・デルピーは不在。本人曰く「MCUは追うべき作品が多くて脱落した」とコメントしている事から多分、メンドくさくなったと思われるが(笑)、代わりに役柄のニュアンスはレイチェル・ワイズ演じる母メリーナに引き継がれている。

 世界中から少女を誘拐、洗脳し時にハニートラップも武器とする戦闘員ブラック・ウィドウへと仕立て上げるレッドルームには今日も続く少女の拉致、性的搾取の問題が投影されている。中盤、デリカシーのない父の生理に対する茶化しから娘たちが発する思いがけないセリフにも、制作陣の強い思いが伝わってくる。
そんな自由を奪われた少女たちを救うべく、ここでもナターシャは身を挺する。近年の女性アクション映画がナメられまいとスタントを激化させてきたのと同様、本作もとりわけ序盤ブダペストでのチェイスシーンはリファレンスとなった『ミッション・インポッシブル』シリーズに匹敵するキレ味であり、ヒーローもヴィランも全て女性だけで作られた本作は画期的である。アクションはもっぱらスタントダブルに任せてきた製作兼任スカーレット・ヨハンソンならではの采配だろう。

 『ブラック・ウィドウ』はナターシャの贖罪と献身、家族を修復する旅であり、僕らは『エンドゲーム』に至る彼女の想い、人間性を知ることになる。となれば、かねてより物議を醸してきた”ナターシャだけ葬式ナシ”問題は一層、看過できない。フローレンス・ピューにはボーイズ・クラブなアベンジャーズハウスを焼き払うくらいのことをやってもらわないとナターシャも浮かばれないだろう。


『ブラック・ウィドウ』21・米
監督 ケイト・ショートランド
出演 スカーレット・ヨハンソン、フローレンス・ピュー、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・ハーバー、レイ・ウィンストン、エヴァー・アンダーソン、オルガ・キュリレンコ
※ディズニープラスで配信中※

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