長内那由多のMovie Note

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『ワンダーウーマン1984』

2020-12-31 | 映画レビュー(わ)

 女性監督として史上最高のヒットとなった前作『ワンダーウーマン』の成功を受け、おそらく最大級のクリエイティブコントロールを得たであろうパティ・ジェンキンス監督の渾身の1本だ。今度の舞台は1984年、立ち塞がる敵はなんとドナルド・トランプ!

 いやいや、石油採掘会社を運営し、神々の力が宿った秘石で人々の心を操るマックス・ロードはDCコミックが1987年に生んだヴィランだ。しかしペドロ・パスカルが大奮闘する本作ではどこからどう見たってトランプである。孤高のバウンティハンターから一転、体重を増やしたパスカルが80年代のダブついたダブルスーツを身にまとい、テレビに向かってニヤければ84年に不動産帝国で栄華を極めたトランプの姿が否が応でもダブるではないか。既に指摘されているように現在のトランプのビジネスは破たん状態にあり、本作のマックスもやり手のビジネスマンという顔は偽りで、経営難に喘いでいる。マックスは自らの自己顕示欲を満たすため、秘石によってスーパーパワーを獲得。人々の隠された欲望を解放し、ついには大統領以上の権力者へと昇り詰める。その姿がポリティカルコレクトを破壊し、人々の内に押し込められていた怒りと暴力を扇動して支持を集めたトランプと一致することは言うまでもないだろう。

 秘石はワンダーウーマン=ダイアナの想いも叶える。前作から60年の時を経てなお彼女はスティーヴへの愛を忘れられずにいた。最強の戦士の一途さはなんともいじらしく、今作でもガル・ガドットとクリス・パインのケミカルは抜群。しかし“戦死した恋人を待ち続ける”という貞淑さは女に課せられた呪いでもあり、ワンダーウーマンのスーパーパワーを奪ってしまうのである。

 クリス・パインは前作に引き続き、女性の力を認め、自分の領分以外は潔く場を譲り、ある時は肩を課し、ある時は自らの身を挺する男を好演。ダッサダサの80sファッションショーも最高にチャーミングだ。
 ジェンキンス監督の次回作はなんと『スター・ウォーズ』の劇場最新作で、戦闘機乗りの物語だという。プロモーションでは自らも戦闘機乗りの父を持つ娘であると語っており、本作のスティーヴもまたパイロットである。ひょっとするとスティーヴには父親の姿が反映されているのかも知れない。

 前作にはなかった魅力として今回は前述のマックス・ロード含め、ヴィランにキメの細かいストーリーが用意されており、クリステン・ウィグが演じる強敵チーターは重要だ。セクシーに振舞うことを課せられてしまった彼女はダイアナの対極的女性像であり、偽りの自分を守るためマックスに加担する。ジェンキンスはアクションシークエンスをかなり絞り込んでおり、ワンダーウーマンが能力を封じられるプロット上、ヌケの悪さも目立つのだが、ジャンル映画としては異例とも言えるほど人物描写に時間をかけ、キャラクターを大切にしている。

 本作は当初サマーシーズンの公開を予定されていたが、多分に漏れず新型コロナウィルスの影響により遅れること半年、ホリデーシーズンの公開となった。だが実は『ワンダーウーマン1984』は“クリスマス映画”でもある。ワシントン大通りを埋め尽くす大暴動シーンは哀しいかな、今年僕たちが現実に見た光景であり、選挙の大勢が決した今、トランプを虚栄心に満ちた哀しい男とする批評は客観的に機能している。アメリカの分断、大統領選挙、そしてコロナショックと今年は本当に多くの事件が起こった。それでも人の善意を信じる愛の戦士ワンダーウーマンは、この世界は救うに足る価値があると謳うのである。彼女の愛の精神が満ちた粉雪舞うエンディングは12月公開にピッタリではないか。僕は心癒され、ホロリと落涙してしまった。


『ワンダーウーマン1984』20・米
監督 パティ・ジェンキンス
出演 ガル・ガドット、クリス・パイン、ペドロ・パスカル、クリステン・ウィグ、コニー・ニールセン、ロビン・ライト

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