長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン シーズン2』(寄稿しました)

2024-08-11 | 海外ドラマ(は)

 リアルサウンドに『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2全話のリキャップを寄稿しました。海外ドラマをエピソード単位で批評する記事は本邦では稀。見どころの紹介やシーンの分析、原作小説との比較など多岐に渡る視点から書いています。ぜひ御一読ください。



ポッドキャストでも解説しています


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『バリー シーズン4』

2023-10-17 | 海外ドラマ(は)
※このレビューは物語の結末に触れています※

 2010年代後半のPeakTVから生まれた傑作が次々と幕を閉じる昨今、ビル・ヘイダー監督・主演によるコメディシリーズ『バリー』もファイナルを迎えた。本国アメリカでの配信は今年上半期を席巻した『サクセッション』の直後で、ハリウッドの脚本家、俳優両組合によるストの直前。まさにPeakTVの最後を飾った傑作の1つだ。

 TVシリーズの醍醐味はシーズンを重ねる毎に進化、変容していく作風をリアルタイムで見続けることにある。殺し屋が演劇に目覚め、俳優を目指すも裏稼業からは容易に足を洗うことができない…という一種のシチェーションコメディとして始まった『バリー』は、シーズン2第5話を機にその作風を大きく変えていく。サタデー・ナイト・ライブ出身のヘイダー自らが監督を務めたこのエピソードは、シュールレアリスムとコメディ、笑いと暴力が紙一重で共存し、何度も現実を曲解して夢か現かわからない不条理さを獲得していく。これはシーズン1、2でゲスト監督を務めたヒロ・ムライの影響も大きいだろう。『アトランタ』の白昼夢は『バリー』の舞台ロサンゼルスと地続きになっている。最終シーズンはビル・ヘイダーが全8話の監督を務め、名実ともに彼の作品となった。

 犯罪者の顔を隠して日常を送る主人公、罪とその代償といったモチーフは同時期を代表する『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』とも通底し、シーズン4を迎えて『バリー』はいよいよ“アルバカーキ・サーガ”の正統後継者となった感がある。『ベター・コール・ソウル』が物語の推進力をソウル・グッドマンからキム・ウェクスラーへと移していったように、『バリー』もまた恋人サリーの物語に重心を置いている。殺人の罪を背負い、バリーとの逃亡の道を選んだ彼女は“Fun and Games”の魅力に取り憑かれたのか?第5話、逃亡から約10年を経た彼女たちは荒野のど真ん中にある平屋で、子供と3人で暮らしている。重要指名手配犯であるバリーに代わって、家計を支えるのはサリーだ。ウィッグを被り、名前をエミリーと変えて田舎のダイナーでバイトをする日々。バリーはといえば信仰に目覚め、息子の子育てに熱を上げており、しかしサリーとの関係は冷え切っている。2人はまるで自身に課した役柄に入りこむうちに、常軌を逸してしまったかのようにも見える。

 『バリー』では自身の体験やトラウマを役柄に引き付けるという、クジノー直伝の演技メソッドが形を変えて何度も描かれる。創作のために心身に過度な負担を強いることは果たして正しいのか?近年、度々議論されてきたこの問題を『バリー』は必ずしも否定していない。シーズン2で描かれた舞台上での暴力行為が日々の研鑽によってコントロールされるように、演技は外野からの理屈だけで捉えきれるものではないのだ。シーズン4前半では、サリーがクジノーに代わって演技レッスンを受け持つシーンがある。ルックスを買われて大作に抜擢された生徒は、なんの準備もなしに授業に現れ、サリーに罵詈雑言を浴びることで自身の限界を一時的ながら超えていく。クラス全員がサリーをキャンセルするが、当の生徒だけはサリーを専任の演技コーチとして雇う。演技という人格を創造する行為において、必ずしも一時の社会規範が正しいとは限らない。

 では、クジノーがこうまで断罪される必要はあったのだろうか?バリーから受け取った25万ドルの使い込みが発覚し、クジノーは窮地に立たされる。バリーは殺し屋ではあるものの、クジノーに搾取された犠牲者として後年、映画化される。『バリー』が断罪するのはクジノーが俳優にセルフケアを教えなかった浅慮、指導者としての搾取だ。人はなぜ演じるのか?普遍的な問いかけは意外なことにフュークスとハンクの間で行われる。ここで提示されるのは「自分が嫌いだから別の誰かになりきる」という答えだ。自身の罪を憎んだバリーもサリーも別の誰かになりきることに救いを求めるが、オンもオフもなく役であり続けることはできない。そんな事ができるのは劇中で名前が挙げられるダニエル・デイ=ルイスくらいだろう。史上最高のメソッド俳優である彼は撮影の数年前から役作りをはじめ、撮影期間中はずっと役柄のまま生活をすると言われている。その徹底ぶりゆえに精神的、肉体的負担も大きく、キャリア後年の出演作は5年に1本のペースだった。シーズン4後半、バリーは信仰心にのめり込み、カメラには宗教的モチーフが何度も映り込むが、サリーに自首を求められると彼は何度もはぐらかす。バリーの贖罪の心とはメソッド演技が作り上げた虚構であり、何処とも知れぬ砂漠はハリウッドを遠く離れた彼岸だったのかもしれない。


『バリー』23・米
監督 ビル・ヘイダー
出演 ビル・ヘイダー、スティーヴン・ルート、ヘンリー・ウィンクラー、サラ・ゴールドバーグ、アンソニー・キャリガン
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『ハイジャック』(寄稿しました)

2023-08-12 | 海外ドラマ(は)
 リアルサウンドにAppleTV+で先頃シーズンが完結した『ハイジャック』について紹介しています。懐かしや『24』を彷彿とさせるノンストップサスペンス。併せて同じくAppleTV+から配信されている『窓際のスパイ』についても書いています。“ポストPeakTV”を感じさせる直球の娯楽作です。ぜひ御一読ください!


記事中の各作品のレビューはこちら
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『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』(寄稿しました)

2022-10-28 | 海外ドラマ(は)

 リアルサウンドにU-NEXTで配信中のTVシリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のリキャップを寄稿しました。連載第1弾はエピソード1を見終えてのイントロダクションです。監督やキャスティング、そして本家『ゲーム・オブ・スローンズ』とは異なるストーリーテリングに注目しています。


その他、記事中で触れられている各作品については下記からどうぞ↓

第2話以降の各エピソードのリキャップはこちら↓

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『パム&トミー』

2022-05-15 | 海外ドラマ(は)

 1995年に起きたトミー・リーとパメラ・アンダーソンのセックステープ流出事件を描く本作は、回を追う毎にいくつものレイヤーが重ねられ、全8話を見終える頃には全く異なる地平に辿り着くユニークな作品だ。モトリー・クルーのドラマー、トミー・リーとプレイメイト出身の妻パメラ・アンダーソンの大豪邸を改築工事していた大工のランドは、ロックスターの気まぐれ(というか奇行)に翻弄され、ろくに工事費も払ってもらえないまま一方的に解雇される。当然、怒りを募らせたランドは腹いせに豪邸へ忍び込み、金庫を強奪。その中にはトミー・リーとパメラ・アンダーソンのセックステープが納められていた。

 『パム&トミー』はこのセス・ローゲン演じるランドから物語を始めたのが正解だ。風采の上がらないランドに対して、トミー・リーはイケメンのロックスター。おまけにセックスシンボル、パメラ・アンダーソンと結婚までしている。そんなトミー・リーにあんな理不尽なイジメを受けたら、そりゃ仕返しをしてやろうと思うのも無理はない。キャリアを見渡せば常に率先して“ヨゴれ”を引き受けてきたセス・ローゲンは、この度し難いまでのクズ男に憐れみと共感を込め、観る者はランドを唾棄しながら、しかし切り捨てることのできない想いを抱くのである。第3話以後、ランドがあらゆるコネクションを使ってセックステープ販売流通網を構築していく件はサクセスストーリー風ですらあり、エロに対する探究心はかくも人をアグレッシブにさせるのかと同じ男性としては気恥ずかしいばかりだ。ランドの裏ビジネスを手助けするAV監督役にはニック・オファーマンが扮し、いつも通り息をするような自然な芝居でゲスを演じて、名優の偉大な芸風を見せてくれている。

 この題材に『ラースとその彼女』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の監督クレイグ・ギレスピーはうってつけの人選だ。一見、眉をひそめたくなってしまうような人々をとびきりラブリーに描くのが彼の作風である。第2話では遡ってトミー・リーとパメラ・アンダーソンの出会いが描かれ、2人のラブストーリーは…とびっきりピュアなのだ。方や破天荒なお騒がせロックスター、方やプレイメイト出身のセックスシンボル。世間が抱くパブリックイメージはあれど、男と女がベッドに入ればそんなことは関係ない。セバスチャン・スタンとリリー・ジェームズは2人をなんとも愛らしく演じており、新境地開拓だ。本作は件のセックステープに対して「愛し合う2人のキュートなプライベートビデオ」という独自の解釈を与えて再定義している。

 しかし『パム&トミー』はおバカな導入部に笑っていたのも束の間、どんどん恐ろしい話に発展するところに本質がある。自分の知らないところでプライバシーが流出し、パメラ・アンダーソンは性的に“消費”されていく。ドラマは肌を見せたことで社会から軽視されてきた彼女のキャリアを振り返り、再定義し、寄り添おうと試みる(彼女のロールモデルがジェーン・フォンダである事は象徴的だ)。そして彼女の身に降りかかった出来事は有名無名を問わず、容易にプライバシーをインターネットという公に掲示できる今日、誰にでも起こり、そして加害者にもなり得ると僕らは改めて思い知るのだ。


『パム&トミー』22・米
製作 ロバート・シーゲル、クレイグ・ギレスピー
出演 リリー・ジェームズ、セバスチャン・スタン、セス・ローゲン、ニック・オファーマン
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