長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『サード・デイ 祝祭の孤島』

2021-03-19 | 海外ドラマ(さ)

 1日2度の引き潮の時にしか渡たれない孤島。そこでは年1回の祭りが行われようとしていて…と『ミッドサマー』よろしく、厭~な空気が蔓延する“田舎奇祭ホラー”だ。オリジナル版『ユートピア』のショーランナー、デニス・ケリーがあらゆるホラー映画のお約束を投入した闇鍋作品になっており、ホラーファンにはたまらないだろう。前半3話が“夏編”、後半3話が“冬編”という2部構成になっており、主役もジュード・ロウからナオミ・ハリスへと交代。同じ孤島を探索しても数か月後の“冬編”では全く様子が異なるという、ホラーアドベンチャーゲームのような面白さもある。

 だが本作の真骨頂は“夏編”と“冬編”の間に配信された12時間生放送という狂気の企画“秋編”ではないだろうか。ついに行われる祝祭の様子を追ったこのエピソードは、残念ながら日本では1時間のダイジェスト版しか見ることができない。字幕がないためか余計に気味が悪く、まるで『ミッドサマー』の祭りを12時間リアルタイムで体験するかのような悪夢的世界だ。この企画にジュード・ロウも捨て身で付き合い、茨の冠をかぶせられ、水に沈められる文字通り身体を張った壮絶演技である。シアターカンパニー”パンチドランク”の創設者フェリックス・バレットによるこの前代未聞の企画が通ってしまうところに、今のテレビ黄金期“PeakTV”の面白さがあると言えるだろう。製作はプランBが手掛けており、ブラピのホラー好事家としての目利きも確かだ。

 というワケで、“秋編”を抜いてしまうと『サード・デイ』は途端に田舎奇祭ホラーの山場を失ってしまう。代わりに終幕で場をさらうのはナオミ・ハリスだ。彼女の素晴らしい演技によって、本作もまた有害な男性性によって搾取された女性たちの怒りがテーマであることが見えてくる。 『フレイザー家の秘密』同様、男性嫌悪と言ってもいい作品が相次ぐところに、時代が象徴されているように思う。

 
『サード・デイ 祝祭の孤島』20・米、英
製作 デニス・ケリー
出演 ジュード・ロウ、ナオミ・ハリス、キャサリン・ウォーターストン
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『サクセッション』(『キング・オブ・メディア』『メディア王 華麗なる一族』)シーズン1~2

2020-02-16 | 海外ドラマ(さ)


 まずはじめに。日本では視聴プラットフォーム毎に邦題、原題とタイトルが乱立している事に触れておきたい。これは製作HBOが日本に進出しておらず、各社に権利を棚卸している事が原因だ。日本最速放映権を持っているスターチャンネルでは『キング・オブ・メディア』、そのスターチャンネルが有料チャンネルを開設しているAmazonプライムでは原題『サクセッション』、そしてソフト化されているシーズン1は『メディア王 華麗なる一族』のでリリースされている。本稿では以下『サクセッション』の表記で進めていく。 

超巨大メディア企業“ウェイスター・ロイコ”の創業者ローガン・ロイが脳梗塞で倒れる。家督を継ぐと目されたのは既にCOOを務める次男ケンダル。しかし株価は急落、さらには社が株を担保に多額の借り入れを行っていた事が明らかとなり、ケンダルは未公開株と引き換えに多額の融資を受けようとするが…。 

【現代の王侯貴族】
『サクセッション』は巨大メディア帝国の継承を巡る骨肉の争いの物語だ。創業者である父は強権的で他者を省みない冷血漢であり、有害な父権制度の象徴のような人物である。子供達はそんな父親に頭が上がらず、抑圧され、まるで大きな子供のように振る舞う。『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』のニコラス・ブリデルによる優雅なスコアに合わせて描かれるロイ家の贅を尽くした生活はまるで現代社会における王侯貴族だ。

 シェイクスピア劇のような重厚なセッティングだが身構えないで欲しい。4話くらいまで見ると『サクセッション』は爆笑必至のブラックコメディである事がわかる。ロイ家の面々は偉大な父の権力を笠に着たゲス揃いで、ケタ違いの金持ちであるためにその発言は笑っちゃうほどタガが外れているのだ。そのブッ飛んだ言動に手持ちカメラがブレながらズームする演出は『The Office』『Veep』『ブルックリン・ナイン-ナイン』等のコメディドラマでお馴染みの必殺“デッドパン”。これに気付くと『サクセッション』は俄然、面白くなってくる。 

【リスペクト!】
 『ジョーカー』では世界の富を支配する上位数パーセントの富裕層(バットマンことブルース・ウェインの父!)を敵として描き、『パラサイト』では屈託のない人々として描いた。格差社会をテーマに底辺側の視点を持った作品が相次ぐ昨今、巨大メディア・コングロマリット“ニューズ・コーポレーション”を所有するメディア王ルパート・マードックをモデルにしたという本作は、これに上部構造から挑んでいる。
 『サクセッション』は全く共感できないゲスばかりにも関わらず、巧みな人物描写で“推し”を作りたくなってしまうのが魅力だ。これはトランプはじめ莫大な富を持ち、モラルに縛られない突き抜けた発言で世間を賑わせる彼らを一定数がもてはやす現象にも近い(『パラサイト』ではモロに“リスペクト!”と評していた)。
 
【推しは誰だ?】

 次期CEOを狙う次男ケンダルは野心はあってもメンタルが弱く、父ローガンのパワハラ教育によって精神的バランスを欠いてきた事がわかる(度々、薬物に手を出してしまう)。演じるジェレミー・ストロングはフィルモグラフィーを見る限りではこれまで数々の映画で見てきているハズなのだが、全く印象に残っていなかった。本作での繊細な心理演技でついにその実力を証明したと言える。

 三男ローマンは口を開けばクズしか吐かないヘラヘラした野郎だが、顔がマコーレー・カルキンなせいか(演じるは弟キーラン・カルキン!)、甘ったれた三男坊特有の可愛らしさがある。地道に活動を続けてきたキーランがついに大ブレイクだ。

 ウェイスター・ロイコに批判的な民主党政治家(バーニー・サンダースにそっくり)のスタッフとして働く長女シヴはロイ家随一のキレ者。常に自分の利益を最優先し、矢継ぎ早にズバズバ口撃する彼女は実に気持ちがいい。演じるサラ・スヌークのファニーフェイスもあってか、それが全く嫌味にならないのだから面白い。
 彼女と結婚するトムにはマシュー・マクファデン。ジェーン・オースティン原作の2005年の映画『プライドと偏見』でヒロインが恋するミスター・ダーシーを演じ、一部で絶大な人気を誇る彼が上には媚びへつらい、下には威張るトムを怪演。そのキモさとイタさは卒倒ものの面白さだ。

その他、度を越したバカである長男コナーや、鈍くさい割に抜け目のない従弟グレッグも何とも愛らしく(?)推したくなってしまうのである。

【ポスト・ゲースロ?】
そして家長のローガン・ロイに扮するのが名優ブライアン・コックスだ。シーズン2ではゴールデングローブ賞の主演男優賞を獲得、御年73歳の老優がここにきて大ブレイクである。スコットランドの片田舎から裸一貫でアメリカへ渡り、一代で大帝国を築き上げたローガンは畏怖すべき父親であり、その強圧的なカリスマは子供達をいつまでも押さえつけている。

…とここまで聞けば『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンはタイウィン・ラニスターとその子供達を思い浮かべるのではないだろうか。特に兄妹一の明晰さを持ちながら、女ゆえに後継者に指名されないシヴの鬱屈はサーセイ・ラニスターとそっくりだ。陰謀と裏切りが交錯し、流血沙汰にまでなりかねない緊張感に満ちた『サクセッション』はいわば“ラニスター家だらけの『ゲーム・オブ・スローンズ』”なのである。さらに本作のメイン監督を務めるマーク・マイロッドは『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズ後半の主要監督という事も付け加えておこう。

『サクセッション』はシーズン2で人気が爆発。『ゲーム・オブ・スローンズ』勇退後のゴールデングローブ賞では作品賞に輝いた。危篤常態だったローガンがシーズン2では敵対的買収を前に往年の山師の勘を取り戻して異常に元気だったり(シーズン1で死ぬプランだったらしい)、反対にシーズン2ではケンダルがほとんど抜け殻状態だったりと、連続モノならではのやや整合性のないドライブ感あるショー進行も旬のドラマならではだろう。先の邦題問題のせいか、日本での認知度は今一つだが、ぜひとも海外ドラマファンで盛り上げ、来る第3シーズンのブームをリアルタイムで楽しみたい所だ。


『サクセッション』18、19・米
監督 マーク・マイロッド、アダム・マッケイ他
出演 ブライアン・コックス、ジェレミー・ストロング、キーラン・カルキン、サラ・スヌーク、マシュー・マクファデン、ヒアム・アッバス、アラン・ラック、ホリー・ハンター、ジェームズ・クロムウェル、ダニー・ヒューストン

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