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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『フォードvsフェラーリ』

2020-01-29 | 映画レビュー(ふ)

 今やアメリカ映画の正当な後継者と呼べる名匠ジェームズ・マンゴールドの最新傑作だ。
 1960年代半ば、フェラーリの買収に失敗したフォードは24時間耐久レース“ル・マン”での雪辱を誓う。しかし、所謂“大衆車”を作ってきたフォードにレースカー開発のノウハウはなく、1959年大会の優勝者キャロル・シェルビーに開発が託される。シェルビーは圧倒的ドライビングテクニックと知識を持ったケン・マイルズを抜擢、打倒フェラーリに挑むのだった。

 言わば戦後アメリカ産業史の1ページを築いた“ライトスタッフ=選ばれし者”達による開拓史である。全米では“レース映画は当たらない”というジンクスを翻し大ヒットを記録した。

 マンゴールドの演出はもはや巨匠然とした簡潔な筆致だ。車は速く、芝居は熱く、ドラマは濃く。実際のレース場で車を走らせたダイナミズムに映画技術の粋を集めた音響効果が加わり、7000回転するエンジンの轟音は観客の五臓六腑を震わせる。熱き血潮がたぎるマルコ・ベルトラミのスコアと合わせてぜひとも音のいい映画館で聞いてほしい。

 そして映画の駆動力となるのが俳優陣の素晴らしいアンサンブルだ。シェルビー役にマット・デイモン、マイルズ役にクリスチャン・ベール。破天荒な男を演じるベールは神経質で気難しいパーソナリティに珍しく英国訛りをタップリ効かせ、何とも魅力的な人物造形である。『バイス』で見せたサイコパスの副大統領といい、名優としての充実期にある。
 そんな2人を囲んでジョン・バーンサル、ジョシュ・ルーカス、トレイシー・レッツらイイ面構えの男達が並び、ケン・マイルズの妻に扮した紅一点カトリーナ・バルフが麗しい。初めて見た女優だが、既にTVドラマ『アウトランダー』の主演として世界規模の名声であり、改めて映画だけ見ていて映画を語れない時代だなと痛感させられた。また息子役には『クワイエット・プレイス』『ワンダー』『サバービコン』のノア・ジュプが扮し、大人たちと比べて遜色ない存在感を見せ名子役の面目躍如である。

 シェルビーとマイルズはGT40の開発に成功、ついにフォードをル・マン優勝に導くが、マイルズ自身は社の思惑によって同チームの別車にその座を譲る事となってしまう。だが、最上の速さだけを求めた純粋さは孤高の輝きを放つ。7000回転の彼方に消えてしまったマイルズへ映画が寄せる憧憬は旧き良きアメリカンスピリットの希求だ。

 本作はディズニーに買収された20世紀フォックスの製作である。おそらく買収後のフォックスにはオスカーキャンペーンを展開するスタッフもろくにいなかっただろう(何せ当のディズニーは『アナと雪の女王2』オスカー候補すら逃している)。今年のアカデミー賞では作品賞はじめ4部門のノミネートに留まったが、状況を考えればむしろル・マン優勝レベルの快挙と言っていいかも知れない。本作がハリウッドの一時代を支えた20世紀フォックス最後のオスカー候補作というのも相応しい話じゃないか。


『フォードvsフェラーリ』19・米
監督 ジェームズ・マンゴールド
出演 マット・デイモン、クリスチャン・ベール、カトリーナ・バルフ、ジョン・バーンサル、ジョシュ・ルーカス、トレイシー・レッツ、ノア・ジュプ
 

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