長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミナリ』

2021-04-15 | 映画レビュー(み)

 昨年の『パラサイト』に続き、ハリウッドには今年も韓国旋風が吹いている。1980年代に韓国からアメリカへと渡った移民家族を描く本作『ミナリ』が、アカデミー作品賞はじめ6部門にノミネートされたのだ。『パラサイト』やBTSに代表されるコリアンポップカルチャーが長年培ってきた達成にも見えるが、全編のほとんどが韓国語で構成された本作の製作は気鋭A24とブラピ率いるプランB。純然たる”アメリカ映画”なのだ。本作がこれほどまでの支持集めた理由は何か?

 農業での成功を夢見てアーカンソー州の田舎にやってきたジェイコヴ一家。過酷な大地に果敢に挑む父、疲労の色を隠せない母、それでも子供たちには未来があり、監督リー・アイザック・チョンの幼少期が託された長男デビッドは演じる子役アラン・キムのおかげでなんとも愛らしい。そんな彼らが地元の教会を通じて宗教的にもアメリカへと同化していく姿は、これまで何度も描かれてきた開拓移民と何ら変わらない。いわば移民国家アメリカの原風景なのだ。

 そんな一家の生活を助けるために、韓国から祖母がやって来る。韓国の伝説的大女優ユン・ヨジョンが演じるおばあちゃんは子ども達に言わせれば「おばあちゃんらしくない」。老成なんて言葉とは無縁、孫に花札を教え、プロレス観戦を好み、言葉遣いもまぁヒドい。ヨジョンはそんなおばあちゃんを何ともチャーミングに演じており、アメリカの観客を魅了した。仮に自分のおばあちゃんが”おばあちゃんらしく”ても、おばあちゃんとの個人史を引き寄せずに見る事はできないだろう。

 父役スティーヴン・ユアン(本作でアカデミー主演男優賞ノミネート)、母役ハン・イェリら家族のアンサンブルはもちろん、畑仕事を手伝う年老いた農夫ポール役のウィル・パットンが素晴らしい。信仰心に厚く、ちょっと風変わりな彼は朝鮮戦争の帰還兵であり、毎週末に十字架を担ぎ、ジェイコヴ一家に献身する理由は言うまでもないだろう。御年66歳、この名優が如何に見過ごされてきたかよく見てほしい。

 全米では現在、アジア系を狙ったヘイトクライムが多発している。元来あったアジア系に対しての差別に加え、トランプによって流布された風説が大きな影響を及ぼしている事は間違いない。そんな時代において、やがてミナリ(韓国語でセリを意味する)のようにアメリカへと根付く名もなき家族の姿は、アメリカに暮らす多くの声なきアジア系アメリカ人に光を当てるのだ。


『ミナリ』20・米
監督 リー・アイザック・チョン
出演 スティーヴン・ユアン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、アラン・キム、ノエル・ケイト・チョー

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