長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『メディア王〜華麗なる一族〜』【サクセッション】シーズン4(寄稿しました)

2023-06-03 | 海外ドラマ(め)

 リアルサウンドにU-NEXTで配信中のTVシリーズ『メディア王〜華麗なる一族〜』シーズン4のリキャップを寄稿しました。2023年最重要の1本、PeakTVの最後を飾る傑作です。ぜひ御一読ください。

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『メイドの手帖』他(寄稿しました)

2021-11-28 | 海外ドラマ(め)

リアルサウンドにNetflixのTVシリーズ『メイドの手帖』と、エヴァン・レイチェル・ウッド主演『さよなら、私のロンリー』について寄稿しました。当ブログを読んでくれている方はお気づきかもしれませんが、2010年代後半からの女性映画の変遷について観測してきた僕としてはどこかのタイミングでまとめたいなと思っていて、まずはこの2作を関連付けてみました。ご一読下さい。
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『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』

2021-09-13 | 海外ドラマ(め)
※このレビューは物語の重要な展開に触れています※

 2000年代、ケイト・ウィンスレットがアメリカ郊外住宅地に住む主婦の内に見出した虚無は僕たちを何度も呑み込んだ。『リトル・チルドレン』『レボリューショナリー・ロード』『とらわれて夏』…その熟れ落ちんばかりの肉体には人生の敗残を知った挫折と孤独、こんなハズではなかったという欲望と情動があり、それは10年後の『女と男の観覧車』にも引き継がれる彼女の1つの“作家性”となった。

 そして2020年、45歳を迎えた彼女が『アンモナイトの目覚め』で新たな肉体言語を獲得している事に僕は目を見張った。節くれ立った指、厳しい顔付きに刻まれた皺、余らせた贅肉…それはひなびた港町で己の性的アイデンティティを隠し、ただただ化石と向き合う採掘家の孤独を体現していた。この偉大な女優はキャリアの新たなフェーズに入ったのだ。

 『メア・オブ・イーストタウン』でウィンスレットは自身の肉体に何一つ修正を加えずカメラに収めるよう要求したという。主人公メアはイーストタウンの刑事。数年前に自殺した長男の遺児を育てており、薬物中毒の嫁とは親権を争っている。元夫は再婚し、どういうワケか家の裏に新居を構えた。口うるさい母との言い争いは絶えず、年頃の娘はどうにも扱いにくい。そんな彼女の人生を町の誰もが知っており、息が詰まるような日々だ。メアは長男を失った自責の念を誤魔化そうと仕事に打ち込むが、不審者を追う足腰には衰えが見える。だが歳を取って知性と洞察は冴え渡るばかりだ。

 皺を晒すのはウィンスレットだけではない。クレイグ・ゾベル監督は彼女の親友役ジュリアンヌ・ニコルソン、恋人役ガイ・ピアースの皺もありのまま撮らえる。一方でこの小さな町にも若者達がいる。メアの娘シボーンはカミングアウトしたばかり(アンガーリー・ライスがイメージを一新する好演)。荒くれの少年少女たちは時に暴力を振るい、老いと若さの対比が際立つ。そしてまだ年端もいかないシングルマザー、エリンに化粧が施された時、ついに事件は起きるのだ。

 "映画女優”ウィンスレットもTV界の名優達との共演に白熱したのではないだろうか。『メア・オブ・イーストタウン』は素晴らしい演技アンサンブルの宝庫だ。多くのハリウッド女優が年齢と共に役柄を失い、キャリアを先細らせる中、『ファーゴ』『レギオン』『ウォッチメン』と数々の傑作に出演し、年齢にとらわれない役柄を演じてきた大女優ジーン・スマートがメアの母ヘレンに扮して、ウィンスレットとの演技ラリーはまさに名人芸である。

 またエヴァン・ピーターズは『POSE』でも見せ中産白人階級のドロップアウトをここでも絶妙な間合いで演じており、20世紀フォックスからの外様として浮いてしまったMCUに合流している場合ではない。ガイ・ピアースにおいては本当に欲のない人というか、役者としての初期衝動に忠実な俳優である。そして『アウトサイダー』でも的確なサポーティングアクトを披露したジュリアンヌ・ニコルソンには終盤、大きな見せ場が用意されており、ウィンスレットとの共鳴は大きな感動を呼ぶ。


 メアの人生は事件をきっかけにゆっくりと周囲の人々に干渉し、僕たちはこの複雑な群像に思いを馳せる事になる。これはショーランナーを務めた脚本ブラッド・イングルスビーと、全話の監督を担当するクレイグ・ゾベルの語りの達成だろう。殺人事件を巡るドラマは母性の物語へと収束する。我が子を誘拐され、自身も病魔に蝕まれながら行方を探す母。最愛の息子が殉職し、行き場のない怒りを抱える母。物語の発端となる犠牲者エリンも生まれたばかりの息子の難病に苦悩している。ドラマは彼女らの母性に敬意を捧げ、そして母という呪われた役割からの解放を試みる。

 息子の死はメンタルヘルスに苦しんだ父からの遺伝による、謂わば"呪い”だったのか?そう思い込んでいたメアに母は言う。
「私はもう自分を赦した。あなたも自分を赦してほしい」。
そうして母の言葉によって解放されたメアは終幕、母性という役割に囚われ、搾取されたある人物をただただ抱きしめ、赦すのである。
 
 近年、物語に様々な社会的イシューを反映させ、時にストーリーよりもコンテクストを優先させた複雑なTVシリーズが相次ぐ中、『メア・オブ・イーストタウン』はとことんまで主人公メアの人物像を掘り下げたキャラクタードリブンの構成がかえって新鮮だ。久しぶりにビンジウォッチがやめられなかった。やっぱり僕たちは"人間”の歪さ、不可思議さ、そして創り手のヒューマニズムを見たいのである。


『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』21・米
監督 クレイグ・ゾベル
出演 ケイト・ウィンスレット、ジュリアンヌ・ニコルソン、エヴァン・ピーターズ、アンガーリー・ライス、ジーン・スマート、ガイ・ピアース
※U-NEXTで独占配信中※
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