2018年タイ。少年サッカーチーム13名が折からの豪雨によって洞窟内に閉じ込められた事件は、世界中が固唾を飲んでその経緯を見守った。驚くべき救出作戦の全貌は後にロン・ハワードが『13人の命』としてパニックレスキュー映画に仕上げてもいる。ハワード監督の傑作に先駆けること2021年、エリザベス・チャイ・バサルヘリィとジミー・チン監督による本作は、ニュース映像や当事者たちへのインタビューなどを中心に事件を再現しているが、彼らの2023年作『ナイアド』によって本作が通り一遍の記録映画ではなく、スポーツドキュメンタリーであることが見えてくる。
13人全員を生還させた救出作戦の立役者は、洞窟探検を専門とするケーブダイバーたちだった。浸水した洞窟は時に身1つ潜らせるのも容易ではなく、明かりは携帯するライトの微かな光のみ。タイ海軍の精鋭ダイバーですら1名が命を落とすほどの難所であり、長年の経験と並外れた精神力を必要とする。とは言え、人命救助は門外漢。映画は多大なプレッシャーに晒されたケーブダイバーの心境に迫ろうとする。監督コンビは『フリーソロ』で970メートル超の断崖絶壁に命綱なしで挑むフリークライマーに肉薄し、『ナイアド』ではフロリダ海峡170キロを泳ぐマラソンスイマーの精神世界を再現しようと試みた。ケーブダイバーにとって洞窟の暗黒は内なる宇宙であり、こだますのは自らの心の反響だ。「マイナースポーツに思わぬ形で注目が集まって良かった」と回想する彼らに、限られたアスリートだけが到達する境地とスポーツの可能性を見るのである。
『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』21・米
監督 エリザベス・チャイ・バサルヘリィ、ジミー・チン