長内那由多のMovie Note

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『ザ・スーサイド・スクワッド "極”悪党、集結』

2021-08-28 | 映画レビュー(す)
 2016年ワースト(この年のハリウッド映画は本当に酷かった)の1本『スーサイド・スクワッド』をディズニーから更迭されたジェームズ・ガン監督で再映画化する…これを聞いた時、DCらしい節操のない企画だなと思った。マーベルとDCの大きな違いはキャスティング1つとっても継続できない計画性のなさだが、『ザ・スーサイド・スクワッド』はリメイクでも続編でもなく、ただただ2016年版をなかったことにする再映画化だ。

 果たしてDCはジェームズ・ガンに全権委任し、新生『ザ・スーサイド・スクワッド』は死ぬほど笑えて、泣けて、しかもこれまでのDC映画にはない最もパーソナルでクリエイティブな(R15の)夏休み映画となった。期待しているものを期待通り作ってくれるMCUもいいが、まったく思いも寄らない傑作を投げ込んでくるからDCは侮れない。

 ジェームズ・ガン映画らしく、キャストアンサンブルは実に活気に満ちている。初参加イドリス・エルバを筆頭に、通算3度目の再演にしていよいよ本塁打のハーレイ・クイン役マーゴット・ロビー、前作と同じ役とは思えない面白さのヨエル・キナマン、便器を頭に付けたジョン・シナらが魅力的な表情を見せてくれる。数々の映画で"名前は知らないけど、キモチ悪い役でよく見る俳優”だったポルカドットマン役デビッド・ダストマルチャンにこれほどの見せ場を与える監督はジェームズ・ガンしかいないだろう。そしてなぜか人間の刑務所に収監されているサメ人間、キングシャークことナナウエにシルヴェスター・スタローンをキャスティングする偏愛といったら!撃たれても撃たれても立ち上がるナナウエに『ロッキー』が投影されていることは言うまでもない。前作から続投するキャプテン・ブーメラン役ジェイ・コートニー、ジェームズ・ガン映画のアイコン、マイケル・ルーカーらにびっくりするようなオチを付けているのもジェームズ・ガン流の愛情表現だ。

 そんな常連、オッサンばかりの俳優陣に混ざってポルトガル出身の24歳、ダニエラ・メルヒオール嬢が実にフレッシュだ。演じるラットキャッチャー2は亡き父(こんな所にもタイカ・ワイティティ)の開発した"ネズミ灯”によって大量のネズミを意のままに操ることができるヴィラン。天涯孤独、ネズミだけが唯一の友人である彼女が奇跡を起こす美しいクライマックスに、ディズニーに見捨てられても今やディズニーなしではありえないキャリアとなってしまったジェームズ・ガンの愛憎を見るのである。そんな切っても切れない(事実、この後『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3』への再登板が決まる)ディズニー愛を託されたのがラットキャッチャー2なのだ。

 とはいえ、ディズニーに戻ればこんなバカバカしく、悪趣味なことはもうやれないだろう。不謹慎な人体破壊ギャグはもちろん、およそ2020年代のデザインとは思えない巨大怪獣スターロのクソダサい造形(褒めてます)には卒倒しそうになった。聞けばDCコミック初出は1960年代のキャラクターだという。ハリウッドは『エイリアン』以後、一向にクリーチャーデザインを更新できていないが、むしろスターロくらいでいいんだよ!

 終盤の展開は現在、アフガニスタンで起きている米軍の撤退と、その隙を突いたタリバンの攻勢による混乱がダブり、期せずして同時代性を獲得していることに驚いた。アメリカが何度も繰り返してきた負の歴史へと目を向ける批評精神は、常に世間のはみ出しものに愛を注ぎ、そしてディズニー帝国というハリウッド最大の体制に翻弄されたアメリカ映画監督ジェームズ・ガンならではである。


『ザ・スーサイド・スクワッド "極”悪党、集結』21・米
監督 ジェームズ・ガン
出演 イドリス・エルバ、マーゴット・ロビー、ダニエラ・メルヒオール、ヨエル・キナマン、ジョン・シナ、デビッド・ダストマルチャン、シルヴェスター・スタローン、ヴィオラ・デイヴィス

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