長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『キャシアン・アンドー』(寄稿しました)

2022-12-15 | 海外ドラマ(き)

 リアルサウンドにディズニープラスで配信中のTVシリーズ『キャシアン・アンドー』のレビューを寄稿しました。ぜひ御一読ください!

記事中で触れられている他作品のレビューはこちらからどうぞ↓
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『ギャング・オブ・ロンドン』

2021-03-24 | 海外ドラマ(き)
※このレビューは物語の展開に触れています※

【ギャング版ゲーム・オブ・スローンズ】
 ロンドン暗黒街の帝王フィン・ウォレスが暗殺された。組織のナンバー2であるエド・ドゥマニが混乱の鎮静化を図ろうとするも、復讐を誓う2代目ショーンによって長年均衡を保ち続けてきた各勢力は一触即発の状態に陥る。ロンドンの覇権を巡る仁義なき戦いが始まった。

 2020年4月のオンエア以来、“ギャング版ゲーム・オブ・スローンズ”と呼ばれた話題作だ。“先王”の死から始まる謀略と血みどろの抗争劇には多くの登場人物が入り乱れ、誰が命を落とすか予測不能。キャトリン・スタークことミシェル・フェアリーがまたしても夫を殺された妻に扮して檄を飛ばせば、第1話にはウォルダー・フレイことデイビッド・ブラッドリーまで顔を見せる始末だ。そしてついにはロンドンがキングス・ランディングよろしく血と炎に包まれるのである。なるほど、『ゲーム・オブ・スローンズ』ロスのファンには打ってつけのスリルだ。

【ギャレス・エヴァンス、覚醒!】
 いやいや、TVシリーズの限界に挑戦した『ギャング・オブ・ロンドン』の超絶バイオレンス描写は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を遥かに超えている。全編にみなぎる尋常でない殺気に、“キャスタミアの雨”を経たゲースロファンも卒倒するだろう。

 ショーランナーを務めたのはイギリス出身の映画監督ギャレス・エヴァンス。アクションコレオグラファーも務める彼の名が一躍注目されたのが、2011年のインドネシア映画『ザ・レイド』だ。ギャングとSWAT部隊の死闘を1棟のマンションというワンシチェーションに限定し、そこにクロスコンバットから銃撃戦、そして東南アジアの伝統武術シラットまで投入。これでもかと続くアクションシークエンスにアドレナリンがダダ洩れる、エクストリームなカルト作だった。

 『ギャング・オブ・ロンドン』には彼の作家性であるバイオレンス・アクションが手を変え品を変え、各エピソードの見せ場としてふんだんに盛り込まれている。「ダセぇカットは使わねぇぜ」と言わんばかりにカメラは猛り、ゲースロで慣れた僕らも思わず悲鳴を上げるほどのバイオレンスは、そのスピードとパワーで見る者を圧倒する。極めてレベルの高いスタントと編集技術がTVシリーズはおろか、近年のフィジカルを重視したアクション映画群をも凌駕しており、これらは第5話の籠城戦で早くもピークに到達。それでいて適格な采配が成された演出の印象は露悪どころかむしろ洗練されている。これほどの高揚感を覚えるアクション体験はしばらくなかった。ハイコンテクスト化が進む昨今のPeakTVにおいて、ストイックなまでにアクションへと特化した本作の存在は際立っている。

 またアクションのみならず、人物描写も非常に素晴らしい。キレると何をしでかすかわからない狂犬ショーンは、演じるジョー・コールの繊細な目つきもあってか『キング・オブ・メディア』ケンダル・ロイ級の魅力的なキャラクターだ。『獣の棲む家』のソープ・ディリスが演じる主人公エリオットの正体が判明する第1話では、マイケル・マン映画おなじみのコンバットスタイルで視聴者に「ひょっとして」と思わせ、巧い。脇役にもいい面構えの俳優が揃い、第5話で登場する弾薬職人イーヴィーなどまるでヴィンス・ギリガン組のような味が出ていた。筆者は『ザ・レイド』以来、エヴァンス監督の作品を見ていなかったが、映画祭を賑わせた“ミッドナイト・マッドネス”は格段とグレードを上げている。

【王国の崩壊】
 『ギャング・オブ・ロンドン』のもう1つの特徴は、非常にバラエティに富んだ人種の多様さだろう。昨今のエンターテイメント業界におけるダイバーシティに見えるかもしれないが、ここにはロンドンという街の特殊性が大いに反映されている。860万人を超えるといわれる人口において、白人は既に50パーセントを切っており、今や黒人や中東系移民ら所謂マイノリティと呼ばれてきた人々が多数派だ。市長には2016年にパキスタン系・イスラム教徒のサディク・カーンが選出されている(現在、コロナの影響により任期が特例延長)。長年、ロンドン裏社会を支配してきたウォレス家の衰退から始まり、中東からの新興勢力によって四面楚歌に追いやられる本作の展開は、そんな英国白人がマイノリティ化し始めた現在のロンドンを反映しているのだ。

 またウォレス家が表向きは建設業を営んでいるという設定も、物件が不足し、住宅価格が高騰し続けるロンドンの実情を反映している。都心は金融業を中心とした富裕層に買い占められ、海外向けに売り出されてもいるという。虫けら同然に排除される“アイリッシュ・トラベラー”のキニーらは住宅難に喘ぐいわば
格差社会の下層であり、ギャングどもは“投資家”と呼ばれる黒幕によって仁義ではなく市場原理のために争うのだ。そんな戦いに最後まで抵抗を続けるショーンが旧来的白人社会の断末魔にも見え、白人達が作ってきた“ギャングもの”に憧れる僕らはついつい肩入れしてしまうのだが、終幕には非常に現代的な結末が用意されていた。

 続編に色気を出さず、全力投球したことが伺える終盤の展開こそやや駆け足気味だが、当然の如く製作決定したシーズン2によって、今後『ゲーム・オブ・スローンズ』級の人気シリーズへと成長していくかもしれない。日本ではAmazonプライム内のSTARZPLAYチャンネルでしか見ることができないが、必見の1本と断言させてもらう。
 

『ギャング・オブ・ロンドン』20・英
製作・監督 ギャレス・エヴァンス
出演 ソープ・ディリス、ジョー・コール、ミシェル・フェアリー、コルム・ミーニィ、ブライアン・ヴァーネル、ルシアン・ムサマティ、パーパ・エッシードゥ、ピッパ・ベネット・ワーナー

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『キャッスルロック2』

2020-05-02 | 海外ドラマ(き)

 スティーヴン・キングの小説世界は全て同一宇宙の物語(ユニバース)である、というのはファンなら周知の事実。給水塔が印象的な田舎町キャッスルロックは多くの作品に登場するキング世界のランドマークだ。そこで起こる怪奇現象を描いたリミテッドシリーズが『キャッスルロック』である。

 とはいえ、これはキングが書いたのではなく、TVオリジナルのストーリー。今シーズンは『ミザリー』の登場人物アニーが主人公となり、狂気に陥った理由が描かれる(それがわからないから怖くていいと思うんだけど…)。出演は『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンス、『IT』のペニー・ワイズことビル・スカルスガルド等々、キング作品ゆかりの役者達だ。

 ここまで聞いたら、なんだそりゃ?と思うのも無理はない。キング御大も関わっているとはいえ、本作は二次創作の色が濃く、『スター・ウォーズ』続3部作でも"ファン接待"に終始した製作総指揮J・J・エイブラムスの「この展開アがるだろ?んん?」というドヤ顔演出は正直、鬱陶しい。

 ちなみになぜいきなりシーズン2から見始めたかと言うと、僕の御贔屓サラ・ガドンが出演していたから。事件の鍵を握る人物として第5~6話に登場するのだが、ファンとしては物足りない扱いだった。デヴィッド・クローネンバーグやドゥニ・ヴィルヌーヴらカナダを代表する鬼才に愛される個性派女優であり、TVドラマ『またの名をグレイス』での名演も記憶に新しい演技派だが、ハリウッドではまだまだ外様の扱いである。

 今年こそは鑑賞本数を減らそうと思ったのに結局10話つきあってしまいました。


『キャッスルロック2』19・米
製作 サム・ショウ、ダスティン・トマソン
出演 リジー・キャプラン、ティム・ロビンス、エルシー・フィッシャー、ポール・スパークス、バーカッド・アブディ、サラ・ガドン

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『キリング・イヴ』

2019-04-29 | 海外ドラマ(き)

MI5の情報分析官VSシリアルキラー。やれやれまたかと思うかもしれないが、『キリング・イヴ』は洗練された演出、脚本、巧みなキャスト陣によって超一級のサスペンス・スリラーになっている。手垢のついたジャンルもアレンジ次第でこんなに面白くなるなんて!

 MI5の情報分析官イヴ・ポラストリは世界各地で起きている要人暗殺事件が1人の女殺し屋によるものと突き止める。ずば抜けた推理、捜査力を認められた彼女はMI6が主導する極秘特捜班に編入、女殺し屋の後を追う。 


【ネオ・ウーマンリヴ以後のサスペンススリラー】

『キリング・イヴ』も『オーシャンズ8』『オザークへようこそ』同様、これまで男性主導で作られてきた既存のジャンルを性別を変える事でリフレッシュした作品だ。しかも主人公イヴを演じるのは韓国系アメリカ人のサンドラ・オー。おそらく脚本にも企画書にも主人公がアジア系である言及はなかったハズだ。性別のみならず、人種のバイアスも突破した事で本作は見える景色が違っている。

もちろん、これはMe too以降のポリコレにおもねただけの窮屈な演出ではない。スパイ映画よろしく世界各国でロケーションが行われ、『ブレイキング・バッド』以後、多くのTVドラマが追随したように容赦なく死体の山が積み上げられる。ジャンルのお約束はしっかり踏襲され、娯楽性もタップリだ。

 

【才人フィービー・ウォーラー・ブリッジ】

そしてオーのファニーフェイスに代表されるように『キリング・イヴ』はとにかく笑えるのである。サスペンスと同量、時にそれ以上のユーモアが投入され、僕らは何度も笑った後に血しぶきを浴び、笑顔が引きつる。これは脚本も手がけたショーランナー、フィービー・ウォーラー・ブリッジの個性だろう。Amazon製作『フリーバッグ』やNetflixで配信中の『クラッシング』でも脚本、主演を務める彼女の作風は破廉恥なまでに開けっぴろげな大らかさだ。『キリング・イヴ』第5話ではこのシニカルで不謹慎なブラックユーモアが炸裂。恐怖と笑いの波状攻撃に悶絶してしまった。本作の成功を受け、ダニエル・クレイグ直々の指名で『007』最新作のリライトにも抜擢。要注目のクリエイターだ。

 

【殺し屋ヴィラネル登場】

賞レースでは何かとオーばかりが取り沙汰されたが実質、殺し屋ヴィラネルに扮したジョディ・カマーとのW主演である。

ヴィラネルは毎話、スタイリッシュな衣装に身を包み(コスプレ的な楽しさもある)、変幻自在。数ヶ国語を操り、あらゆる手段でターゲットを仕留める凄腕の殺し屋だ。相手の目から生気が失われる瞬間を見るのが大好きというサイコパスであり、獲物を捕らえた瞬間の薄ら笑いは見ているこちらの血の気が引くほど恐ろしい。

はじめこそ恐ろしい強敵として現れるが誰の支配も受けず、自身の快楽(殺し)のために暴れるアナーキーさは『ダークナイト』のジョーカーや『羊たちの沈黙』のレクター博士といった映画史に残るアンチヒーローに通じるものがある。彼女が殺せば殺すほど「いいぞ、もっと殺れ!」と思えてしまうのだ。近年稀に見る名悪役の誕生であり、今後多くのフォロアーを生むことになるだろう。


【それを愛と呼ぶ】

そして先達のジョーカーとバットマン、クラリスとレクターのようにイヴとヴィラネルの関係も奇妙な捻れを見せていく。最終回の脚本もウォーラー・ブリッジが担当。執着は愛憎へと変わり、憎悪と血と笑いが吹き出す。そこには想いを遂げられない者達の切なさもねっとりと同居する。人の心というのは何と不可思議なものか。複雑な余韻を残したまま、2人の対決はシーズン2へなだれ込む。


『キリング・イヴ』18・英、米

出演 サンドラ・オー、ジョディ・カマー、フィオナ・ショウ

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『キス・ミー・ファースト』

2018-09-14 | 海外ドラマ(き)

ブライアン・エルスリー原作のこのドラマシリーズはVRゲームの世界が舞台だ。VRと言えば今年、巨匠スティーヴン・スピルバーグが『レディ・プレイヤー1』で描いていた仮想空間の事だ。近未来、爆発的な支持を得ているVRゲームを介して起きた謎の事件を追うミステリー作品である。

『レディ・プレイヤー1』は80年代アイコンをふんだんにまぶした"ファミコン風”のゲーム世界が魅力的だったが(おまけにファミコンならではのクソゲー級難易度も再現していた)、こちらはPS登場以後の洋ゲー風。アバターはCGが人間へ近付き過ぎた"不気味の谷”をギリギリ歩いているような造形で感情移入しにくい。バトルシーンは第1話冒頭に少し出て来るが、ルールはほとんど描かれず、いったいどんなゲームで何がウケているのかよくわからない。

そうなると若者達がこのゲーム世界に没頭し、やがてカルト化していく展開はどうにも入り込めない。もちろん、自分の居場所を求める若者たちの彷徨がテーマなのはわかるが「何もそんなゲームの世界に…」と思ってしまうのは練達のオンラインプレーヤー達に弄ばれ、機嫌を損ねる僕が年を取り過ぎてしまったせいか。まさに“ゲームは続く”で終わる最終回にもウンザリだ。

 収穫と言っていいのは主役レイラを演じるタルラ・ローズ・ハドンとの出会いか。ちょっとミア・ワシコウスカ似の色素の薄い美少女で、カーリーヘアを束ねた独特の髪型はまるで西洋絵画から抜け出てきたようなインパクトだ。意外や肉感的で芯が強く、本作は彼女の魅力で牽引していると言っていい。今後の注目株である。


『キス・ミー・ファースト』18・英
製作 ブライアン・エルスリー
出演 タルラ・ローズ・ハドン、シモーナ・ブラウン
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