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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ミュージック 僕だけに聴こえる音』

2024-05-08 | 映画レビュー(み)

 多くの映画が劇場公開されることなくストリーミングの広大な海に放流されていく昨今、映画ファンにもそんな潮目を読む根気が必要だ。1992年生まれ、今年32歳のルディ・マンキューソが監督、主演、脚本、音楽、振付を手掛けたデビュー作『ミュージック』は、新たな才能に心踊らせれる。冒頭、若い男女がダイナーで会話をしている。男は上の空気味で、彼女の話が頭に入っていない。彼にとっては周囲の雑音が気になって仕方ないのだ。人の気配や厨房の雑音…次第にそれはリズムを刻み、音楽となって人々が一斉に踊り始める。主人公ルディは周囲の環境音がリズムやメロディとして認知される“共感覚”の持ち主なのだ。マンキューソの半自伝である本作は、そんな才能を持った彼の目線から世界を描く青春ミュージカル映画である。YouTuber出身のマンキューソはフラッシュモブを基調に、その演出はバリエーション豊富。バジェットが大きくなればさらなる現代ミュージカルの快作を撮ってくれるのではないか。

 ブラジル系が多く住むというニュージャージーはアイアンバウンド地区の景色や、マンキューソの実の母親マリアまで担ぎ出したブラジル系移民2世のメンタリティは目新しく、レストランで修羅場に陥ったルディがジャズピアニストと“会話”する場面など、ラブコメディとしてのウィットにも富んでいる。そして好感度抜群の相手役カミラ・メンデスからも目が離せない好編だ。


『ミュージック 僕だけに聴こえる音』24・米
監督 ルディ・マンキューソ
出演 ルディ・マンキューソ、カミラ・メンデス、マリア・マンキューソ
※Prime Videoで独占配信中※
 
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『M3GAN/ミーガン』

2023-06-24 | 映画レビュー(み)

 街を歩いていると小さな子供がスマートフォンやタブレットを熱心に操作している場面に出くわすことがある。使いなこなす様は大人顔負け。これ1台を持たせておけば子供連れの電車移動や買い物といった大人にとっての困難なミッションはぐっとハードルを下げ、少なくとも僕らが子供だった頃よりも子育てにまつわる手間はぐっと減るだろう。でも僕らの子供時代にはなかった代物だから、想像できないこともたくさんある。子供同士のLINEでイジメは起きてないだろうか?ネットを通じていったいどんな知識を得ているのだろう?スマホを手放して親子の会話をしてくれるだろうか?友達代わりにもなるこのデバイスが、果たして人を殺していてもウチの子は親の言うことを聞いてくれるだろうか?

 ブラムハウス製作による最新ホラー『M3GAN ミーガン』はそんな子供と大人のスマホ依存を巧みにカリカチュアした大ヒット作だ。不慮の事故で両親を亡くした少女ケイディは、おもちゃメーカーで開発を務める叔母ジェマの元に引き取られる。子育てなんて経験のないジェマにとってトラウマを抱えた幼い姪っ子の世話は容易いものではない。ジェマは開発中のお友達AIロボット“ミーガン”の実験も兼ね、ケイディの世話をロボットに託すのだが…。

 子供の遊び相手である人形が人を襲い始める、というプロットは『チャイルド・プレイ』をはじめこれまで何度も繰り返されてきたモチーフだが、『ミーガン』は近年のハリウッド映画でも群を抜いて巧妙な視覚効果によってゾッとするリアリティを獲得している。不気味にも滑稽にも陥らないミーガンの造形と、子役エイミー・ドナルドの類まれな身体能力によって、ミーガンは私たちの生活に入り込むテクノロジーの象徴として“アリだな”と思えてしまうのだ。映画はホラーでありながら意外やグロテスクなシーンは皆無の絶妙なさじ加減で、ケイディと同世代の子を持つ親が安心して一緒に見られるのは敏腕ジェイソン・ブラムならではの抜かりのなさだろう。本当に怖いのはスプラッターよりも私たちがテクノロジーに操られてしまうことなのだ。『ゲット・アウト』『パーフェクション』など、ホラー映画の目利きとも言うべきフィルモグラフィを持つアリソン・ウィリアムズがここではジェマに扮していることも特筆しておきたい。

 監督ジェラルド・ジョンストンはあの手この手で観客を怖がらせては笑わせ、しかもランニングタイムは102分という手際の良さ。クライマックスの思いがけない“ジェームズ・キャメロン感”に現在製作中の続編『M3GAN2.0』は“奴らは群れで来るのか?”と期待が募る。何よりゴーストを得たミーガンは広大なネットの向こうに逃げ込んだわけで、おっとこの話を掘り下げて哲学へ舵を切ったのが押井守の『イノセンス』じゃないか!といくらでも盛り上がれる快作である。


『M3GAN ミーガン』23・米
監督 ジェラルド・ジョンストン
出演 アリソン・ウィリアムズ、ヴァイオレット・マックグロー、エイミー・ドナルド
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『水の中のつぼみ』

2021-12-21 | 映画レビュー(み)

 15歳のマリーはシンクロナイズドスイミングの教室に通う年上の少女フロリアーヌに惹かれる。早熟のフロリアーヌは高嶺の花とも言うべき美しさで、マリーにはこの感情の出どころが判然としなかった。マリーは少しでも彼女の傍にいたいとシンクロ教室へ潜り込み、フロリアーヌとの距離を縮めていく。

 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ監督の長編デビュー作は女性によるエロスが肯定的に描かれている。プールサイドでマリーとフロリアーヌの間に通う、名も付けられぬ感情と欲動にこそ真のエロスが宿り、恋しさのあまり愛しい人の食べ終えたリンゴにかじりつく場面で僕は悶絶してしまった。シアマの実体験が基になっているという本作は、当時16〜17歳であったアデル・エネルの類稀なスター性、香り立つような美しさによって成立しており、後に2人は交際に発展。セリーヌ・シアマという作家にとってアデル・エネルが“燃ゆる女の肖像”である事がよくわかる。


『水の中のつぼみ』07・仏
監督 セリーヌ・シアマ
出演 ポーリーヌ・アキュアール、アデル・エネル、ルイーズ・ブラシェール
 
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『ミッチェル家とマシンの反乱』

2021-12-16 | 映画レビュー(み)

 配給こそNetflixによる世界配信だが、元々はフィル・ロード、クリス・ミラーによって製作されたソニー・ピクチャーズ最新アニメ。ストレートな家族ドラマに『スパイダーマン:スパイダーバース』で培ったグラフィックアートのような手書き演出を加えた本作は、3Dアニメながらハンドメイドの楽しさに満ちている。ギャグの切れ味も抜群で、賞レースではお堅いばかりのディズニー『ミラベルと魔法だらけの家』をさっそく引き離しにかかっている。かつて『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』を途中解雇されたロード&ミラーはまたしても“うっちゃる”勢いだ。

 映画監督を夢見る主人公のケイティは念願叶って映画学校に合格。長年“変わり者”として行き場のない気持ちを抱えてきたものの、大学に行けば同じ志の仲間に会える。そう期待していたにも関わらず、父親が大学までのロードトリップを企画。新歓パーティに間に合わない事に腹を立てたケイティは世界が破滅することを願うが、時同じくしてAppleよろしくテック企業の発表した最新AIロボットが反乱を起こし…。

 わかっていても家族の絆を巡るクライマックスにはホロリとさせられる。しかし真のクライマックスはエンドロールにこそある。これも“最もパーソナルなことが最もクリエイティブな映画”だったのだ。


『 ミッチェル家とマシンの反乱』21・米
監督 マイク・リアンダ
出演 アビ・ジェイコブソン、ダニー・マクブライド、マヤ・ルドルフ、マイク・リアンダ、オリヴィア・コールマン
 
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『ミラベルと魔法だらけの家』

2021-12-07 | 映画レビュー(み)

 日本では久々の拡大公開となったディズニー最新アニメはこれまでとやや様子が異なる。コロンビアの山奥を舞台にラテン系が主人公となるのはまだ序の口。物語は“魔法だらけの家”から外に出ず、そこに暮らす一家の内面・メンタルヘルスが描かれていく。アニメーションのプロダクションは数年に及ぶが、思いがけずコロナ時代の空気にマッチした。

 かつて弾圧を逃れ、悲劇を乗り越えた人々が定住するこの地では、代々魔法の力を伝承してきたマドリガル家によって繁栄がもたらされていた。家長アルマを筆頭に“ギフト”を与えられた一家はコミュニティのロールモデルとして日々、地域に貢献し続けている。しかし主人公ミラベルだけが魔法の力を授かることができず…。

 『ハミルトン』『tick,tick...BOOM!』の天才リン・マニュエル・ミランダが楽曲のみならずストーリー開発にも関わっている事に注目だ。ディズニーミュージカルを更新するラテンラップ、祖母を家長とする女系社会、そしてコミュニティにおいてロールモデルであることの重要性といったモチーフはミランダの初期作『イン・ザ・ハイツ』と共通する。しかし本作はそんな“正しくある事”が招き陥る硬直と不寛容を指摘しているのだ。ロールモデルを課せられた家族の皆が心の内にストレスを抱え、中にはコントロールできずに外に吹き出している者もいる(天気を操るペパ叔母さん)。そして未来を見通せるばかりに疎まれ、一家から姿を消したブルーノ叔父さんが実は魔法だらけの家に隠れ住んでいたという事実は、メンタルヘルスを病み、引きこもらざるを得ない現在を生きる僕達の姿が重なる(明らかに精神疾患を抱えているブルーノをジョン・レグイザモが好演)。そんな彼らを解放するのが“ミュージカル”であり、ミランダは「心を開いてちょっと歌ってみようよ」と背中を押すのである。

 これまでのディズニーらしからぬ小品だが、2010年代後半以後の変革、反抗を経て糾弾ではなく寛容と理解に社会が移りつつあることを意識させられる1本だ。


『ミラベルと魔法だらけの家』21・米
監督 バイロン・ハワード、ジャレド・ブッシュ
出演 ステファニー・ベアトリス、ジョン・レグイザモ、マリア・セシリア・ボテロ
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