長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『セイント・モード 狂信』

2021-10-11 | 映画レビュー(せ)

 イギリスの裏寂れた港町。モードは終末医療の現場で、住み込みの看護師として働き始める。患者のアマンダはかつて一斉を風靡したダンサー兼振付家だったが、今は突きつけられた余命を前に享楽的に振る舞うばかりだ。過去の事件以来、盲目的なまでに神を信仰するモードは、アマンダの魂に救済をもたらそうとやがて狂気に陥っていく。

 ローズ・グラス監督の恐るべき長編デビュー作は84分間緩むことなくマスターショットが連続し、陰影の濃い美しい映像には邪悪としか言いようのない空気が充満している。近年、『沈黙』『魂のゆくえ』『名もなき生涯』など信仰の純粋と狂信を描いた作品群が“ポスト福音主義”なるジャンルを形成しており、『セイント・モード』もそれに連なる1作だ。主人公のモードはまだ年端も行かず、純真であり、孤独だが(それに貧困でもある)、神の教えを曲解しているどころか、神に語りかけ続けるモノローグからはそもそも万人への愛など持ち合わせていない事が伺い知れる。

 しかし、そこには信仰心という名の美がある。映画は凄惨を極めるほどにモードの追求する救済を荘厳に描き出していく。“ポスト福音主義”の作品は「神に語りかけたつもりが悪魔と対話していた」というホラーにも転じ、2021年はTVシリーズ『ゼム』『真夜中のミサ』が悪魔につけ込まれる独善の姿を映して本作とも通底した。敬虔な信仰心には常に人を破滅へと導く悪魔も潜んでいるのだ。


『セイント・モード 狂信』19・英
監督 ローズグラス
出演 モーフィッド・クラーク、ジェニファー・イーリー


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