長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『The Hand of God』

2022-01-05 | 映画レビュー(は)

 『きっと ここが帰る場所』『グレート・ビューティー』『グランド・フィナーレ』などを手掛けてきたイタリアの監督パオロ・ソレンティーノの最新作はNetflixから登場だ。俊英と注目されてきた彼も51歳。自らの青春時代を振り返る本作では名匠とも言うべき筆致を見せており、鳥の目のカメラワークに始まって、ほとんど神秘体験のような冒頭シークエンスから魅了され放しだった。

 舞台は1984年の夏、あのマラドーナの移籍が噂されるイタリアはナポリ。17歳になるファビエットの関心はサッカーとシネマ、そして女性だ。ナポリの人々は揃いも揃ってサッカー狂いで、街ではフェリーニの新作撮影準備が進んでいる。美しく、しかし繊細すぎる叔母は嫉妬深い叔父を今日も怒らせ、ファビエットはその肉体と行き場のない彼女の儚さに見惚れていた。
 フェリーニを信奉するソレンティーノは自身の作品でそれを全く隠そうともせず、本作はいつにも増して顕著だ。親族が一堂に会する祝祭的な狂騒と、ふくよかなイタリア女たちへ寄せる崇拝。一方、ファビエットが街で映画のロケに出くわし、フェリーニのオーディションを覗けば『The Hand of God』には神聖な空気が満ちみちる。エピソードの断片が見る者の個人史を引き寄せ、映画の強度を増す様はアルフォンソ・キュアロンの『ROMA』にも近く、本作はさながらソレンティーノにとっての“NAPOLI”だ。

 映画の終幕でファビエットは映画監督を志してミラノへと向かうが、実際のソレンティーノ青年はその後もナポリを出ることもなく、37年間も住み続けたという。それが彼の“老成”した作家性を作り上げたのか?本作はあくまで彼の実体験に基づく“半自伝的”映画だが、事実とは真逆の結末にあり得たかもしれないもう1つの人生に対する郷愁を見るのである。シネマとはそんな刹那の夢でもあるのだ。


『The Hand of God』21・伊
監督 パオロ・ソレンティーノ
出演 フィリッポ・スコッティ、トニ・セルビッロ、マーロン・ジュベール、ルイーザ・ラニエリ、レナート・カルペンティエリ、マッシミリアーノ・ガッロ

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