
カンヌ映画祭で主要キャスト4名に女優賞が与えられたのを皮切りに、アカデミー賞では非英語映画として歴代最多13部門でノミネートされた本作。カーラ・ソフィア・ガスコンがトランスジェンダーとして初のオスカー主演女優賞候補に挙がるなど話題に事欠かない本作だが、果たして2024年を代表する傑作かというと怪しいところだ。舞台はメキシコ、主人公リタ(そう、誰がどう見ても主演はゾーイ・サルダナである)はマフィアら犯罪者を弁護する悪徳弁護士。彼女は巨大ドラッグカルテルの麻薬王マニタスに誘拐され、驚くべきオファー受ける。抗争に疲れ果てた彼は自らの死を偽り、性転換して女性としての人生を歩みたいと言うのだ。
『リード・マイ・リップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』を手掛け、『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した現代フレンチノワールの巨匠ジャック・オディアールは、この奇妙な物語を何とミュージカル映画に仕立て上げた。全編スペイン語が飛び交い、舞台はメキシコ。トランスジェンダーを中心に愛と犯罪を歌って踊ろうだなんてこれまで見たことがない。本作でオスカー助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナは、地声の歌唱がミュージカルとドラマを繋ぎ合わせる優雅なフィジカルパフォーマンスを披露。オーディアールは前作『パリ13区』で脚本に『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマを迎えロマンス映画を創るなど、老いて益々旺盛である。
『リード・マイ・リップス』『真夜中のピアニスト』『預言者』を手掛け、『ディーパンの闘い』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した現代フレンチノワールの巨匠ジャック・オディアールは、この奇妙な物語を何とミュージカル映画に仕立て上げた。全編スペイン語が飛び交い、舞台はメキシコ。トランスジェンダーを中心に愛と犯罪を歌って踊ろうだなんてこれまで見たことがない。本作でオスカー助演女優賞に輝いたゾーイ・サルダナは、地声の歌唱がミュージカルとドラマを繋ぎ合わせる優雅なフィジカルパフォーマンスを披露。オーディアールは前作『パリ13区』で脚本に『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマを迎えロマンス映画を創るなど、老いて益々旺盛である。
性転換後、マニタスは名前をエミリア・ペレスへと変え、遠縁の従姉弟を偽って妻ジェシと子どもらに接触。再び共に生活を始めていく。本作でディズニーアイドルから大人の女優へと脱皮したセレーナ・ゴメス演じるジェシは、夫の死を乗り越え、新しい男と人生を歩み出そうとするが、エミリア・ペレス=マニタスがそれを許さない。彼女はなおも男性的な所有欲でジェシを支配しようとするのだ。
この映画はいったいなんなんだ?オーディアールは暴力に生きた男がその性(さが)から抜け出せないとノワールの文脈で描こうとしたのかも知れないが、それではトランスジェンダーもメキシコもさらにはミュージカルも借り物でしかない。殺伐としたマフィア社会から抜け出そうとするマニタスの性転換は身心の不一致ではなく、ミドルエイジクライシスからの逃避に映る。自身の奥底に隠された暴力性を垣間見せるガスコンは目を引く瞬間はあるものの、これでは“属性”故の過大評価と揶揄されかねないだろう。『エミリア・ペレス』はあらゆる要素が本質的な意味を持たず、まるで混ぜ物だらけの紛い物だ。
『エミリア・ペレス』24・仏
監督 ジャック・オディアール
出演 ゾーイ・サルダナ、カーラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアナ・パス、エドガー・ラミレス