長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ユーフォリア/EUPHORIA シーズン2』

2022-07-17 | 海外ドラマ(ゆ)

 “Z世代のセックス、ドラッグ、バイオレンスを描いたリアルでハードな青春ドラマ”という謳い文句に二の足を踏むのは勿体ない。『ユーフォリア』『ゲーム・オブ・スローンズ』同様、ルール無用のエクストリームな刺激に満ちたHBO式ヒューマンドラマだ。恐れ知らずの監督サム・レヴィンソンはほとんど過積載気味だった前シーズンからコロナ禍に撮影された2本のブリッジストーリーと、ゼンデイヤと再タッグを組んだNetflix映画『マルコム&マリー』を経て、格段と洗練された。自社株価のために再生産を繰り返すフランチャイズ映画やTVシリーズが氾濫する昨今、真にオリジナルでチャレンジングな作品は『ユーフォリア シーズン2』である。

 第1話はドラッグ売人フェズコの半生から幕を開ける。10代でアウトローの祖母に引き取られ、タバコもドラッグビジネスも全て教わった彼は、血の繋がらない弟アッシュトレイ(赤ん坊の時に煙草を飲み込もうとしてこの名が付いた)と二人三脚でのし上がっていく。ポップソングとめくるめく編集で描かれるこの十数分間のシークエンスはほとんどマーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』で、そこから本シリーズの恒例、パーティシーンの群像になだれ込んでいく破竹の勢いだ。85年生まれのレヴィンソン監督が90年代の映画に強く影響を受けているのは明らかであり、第3話では威圧的な父親キャルのルーツを探る冒頭15分でガス・ヴァン・サントを思わせる瑞々しさを獲得している。彼のシネアストぶりはいよいよ密度を増し、第4話巻頭“恋愛映画グレイテストヒッツ・モンタージュ”はゼンデイヤとハンター・シェーファーのフォトジェニックな魅力も相まって、最高だ。

 前シーズンに倣ってティーンドラマの定型をなぞることもできたハズだが、レヴィンソンは安易に同じことを繰り返したりはしない。カメラが学内を歩き回れば主人公は次々と交代し、現実と妄想、過去と現在を縦横無尽に横断して、エピソード毎で叙述のスタイルはガラリと変わる。第4話ではソープドラマへと舵を切り、今シーズンのMVPシドニー・スウィーニーが場をさらうブレイクスルーだ。彼女が演じるキャシーは親友マディの元彼ネイトとデキてしまったばかりに、自己嫌悪と友情の板挟みでドロドロに精神崩壊していく。優柔不断で自己肯定感の低い彼女にファンはイライラするだろうが、スウィーニーはそんな観客の嫌悪感を笑いへ転嫁する思い切りの良いパフォーマンスを見せており、今シーズンではエミー賞の助演女優賞にノミネートされた。前シーズン終了後、怒涛の勢いで出演作を積み重ねてきた彼女は今年『ホワイト・ロータス』でも助演女優賞にノミネートされており、いよいよブレイクである。

 そして『ユーフォリア』のスターはゼンデイヤだ。第5話は一転、ハードな薬物中毒ドラマへと転調し、ゼンデイヤはこの1エピソードで再びエミー賞を獲得するのは間違いないだろう。決して癒えることのない孤独とドラッグ中毒、自己嫌悪でメルトダウンした彼女が禁断症状と膀胱炎に苦しみながら夜通し町を駆けずり回るこのエピソードは、痛ましくもしかし不思議と可笑しい。ゼンデイヤ扮するルーはシーズン前半はほとんど酩酊状態にあり、彼女のドラッグ中毒演技にはアナーキーなユーモアが共存しているのだ。このシーズン2でゼンデイヤのカリスマ性はさらに輝き、同世代最高のスターに昇り詰めたと言っても過言ではない。

 第7話〜8話では、そんな『ユーフォリア』で唯一の平凡な女の子レクシーが主人公となる。彼女が書いた自伝的戯曲が上演されるメタ構造は、これまで描かれたキャラクターの変遷を再びなぞってさすがにしつこく、ドラマは完全に破綻しているのだが、レヴィンソンには半ばこれを承知で放置している節が感じられる。今やこの過剰さと作劇上の失敗すら『ユーフォリア』においてはチャームなのかもしれない。そして地に足ついたハスキーボイスのレクシー役モード・アパトウ(ジャド・アパトウ監督の長女)によって、平凡な僕たちはなんとかこの物語に軸足を持つことができるのだ。


『ユーフォリア/EUPHORIA シーズン2』22・米
監督 サム・レヴィンソン
出演 ゼンデイヤ、ハンター・シェーファー、ジェイコブ・エローディ、バービー・フェレイラ、アレクサ・デミー、シドニー・スウィーニー、モード・アパトウ、オースティン・エイブラムス
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『ユートピア~悪のウィルス』

2020-12-02 | 海外ドラマ(ゆ)

 殺人ウィルスによる世界滅亡を予見したコミック“ユートピア”を巡って、オタク達が悪の組織に立ち向かう…なんだか浦沢直樹の漫画みたいなプロットだが、原作は2013年の英国産同名TVドラマ。2020年に“ウィルスによるパンデミック”を描いただけでもリメイクとしては地の利を得たと言っていいだろう。ショーランナーを務めるのは何と『ゴーン・ガール』『シャープ・オブジェクツ』の原作者ギリアン・フリンだ。

 所謂“厭ミス”の女王でもあるフリンならではのストーリー展開を期待する所だが、意外や正攻法のエンターテイメント娯楽作になっていて驚いた。引きの強いクリフハンガーと、ハードなバイオレンス描写は今やPeakTVのトレードマークの1つ。それだけに全てがこちらの予測値、期待値を上回ることなく、何とも生煮えなまま全8話を終えてしまっている。サスペンスやドンデン返しも大事だが、何よりキャラクターに魅力がないのが致命的だ。シーズン2への「続く」で引っ張っるが、製作のAmazonは早々に打ち切りを発表した。

 唯一の見所は実在するコミックヒロイン、ジェシカ・ハイドに扮したサッシャ・レインだろう。アフリカ系アメリカ人の父と、マオリの血を引くニュージーランド人の母との間に生まれた彼女のコスモポリタンなルックスは、新たな時代のヒロイン像に相応しい。甘っちょろさがなく、アクションも様になっている。彼女を主演スターとして成長させる意味でも本作の不発は何とも残念だ。もっとも、マーヴェルがディズニープラスで配信するスピンオフドラマ『ロキ』の出演も決まっており、彼女がメジャーになるのは時間の問題だろう。サッシャ・レインを紹介しただけでも、本作はムダではなかった。いずれそんな評価が下ると願いたい。


『ユートピア』20・米
製作 ギリアン・フリン
出演 サッシャ・レイン、ジョン・キューザック、レイン・ウィルソン

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『ユーフォリア/EUPHORIA』

2020-02-21 | 海外ドラマ(ゆ)

冒頭、ゼンデイヤ扮する主人公ルーの“わたしは9.11の3日後に生まれた”というモノローグに「あぁ、今の若者はそういう時代を生きているのか」と気付かされた。彼らは所謂“ジェネレーションZ”世代だ。生まれた時からインターネットが存在する“デジタルネイティブ”を定義する言葉であり、アメリカにおいてはテロ戦争時代に生まれ、オバマを通ってトランプ時代の今に思春期を過ごしているという事でもある。間もなく40歳になろうという筆者には想像もつかない世代だが、決して生き易くない事だけはわかる。

“青春モノ”は今や日進月歩のジャンルだ。2017年にNetflixで製作された『13の理由』は白人専有であったジャンルに多様な人種をキャスティングし、現実の人種構成を“見える化”した。SNS世代の苛め、分断、性暴力、性的マイノリティといったテーマを生々しく描いたこの作品は10代の視聴を禁止する運動を巻き起こす程の社会現象となる。同年、この人種の見える化を映画ではマーベル『スパイダーマン/ホームカミング』が達成し、そこでヒロインMJを演じたのがゼンデイヤであった。

『ユーフォリア』がこのジャンルを更新したか否かの評価はまだ保留としたいが、2年前まで大きなプロットポイントだった同性愛が本作では当たり前に存在している事に新しさを見る。ルーの恋人ジュールズはトランスジェンダーであり、演じるハンター・シェーファーもトランスジェンダーだ(美少女!)。彼女がフィーチャーされる第3話まで何ら説明もなく、登場人物のほとんどが何の違和感もなく受け入れている。ゼンデイヤのハンサムっぷりもあってこの2人は応援したくなるナイスカップルであり、2人が仲良くしているだけの1話を見てみたい。他、シドニー・スウィーニーはじめ若手キャストも皆、好演している。

『ユーフォリア』はラッパーのドレイクがプロデュースを手掛けているという事も話題だが、注目すべきはショーランナーであり、ほぼ全話の監督を務めるサム・レヴィンソンだろう。『レインマン』で知られるバリー・レヴィンソン監督の息子である彼は温厚な父の作風とは全く違う、過激な映画狂だ。目まぐるしく動くカメラ、変色を繰り返すカラーコーディネートや音楽といった狂騒的テンションにマーティン・スコセッシ、アベル・フェラーラ、ニコラス・ローグ、バズ・ラーマン、ポール・トーマス・アンダーソンがあからさまに引用されていく。登場人物が入り乱れるパーティーシーンが多く、中でも第4話の交通整理の巧みさ、群像劇としての高揚とエモーションはptaの『マグノリア』を想起させ、そこからまさかのニコラス・ローグ『赤い影』に流れ込む終幕は圧巻であった。現在34歳、ほとんど姉妹作と言える作風の前作『アサシネーション・ネーション』では東映の71年作『ずべ公番長 ざんげの値打ちもない』まで引用しており、まさに初期衝動のままに撮っている感じがいい。『ユーフォリア』では“わたしのロールモデルは『カジノ』のシャロン・ストーン”と言う女の子が出てくるが、そんな女子高生いるワケない(笑)。完全にレヴィンソンの趣味である。

過剰なまでの虚飾に彩られた若者たちの狂騒を最後まで見続けてしまったのはルーの抱える絶対的な孤独感に共感できたからだ。僕たちはそれがいつか通る道であり、大人になって“治る”ものでない事を知っている。寂しくて寂しくて堪らないルーがドラッグに依存する姿は痛ましい。彼女が真のEUPHORIA(多幸感)に到達できるかはシーズン2を見届けたい。

『ユーフォリア/EUPHORIA』19・米
監督 サム・レヴィンソン、他
出演 ゼンデイヤ、ハンター・シェーファー、ジェイコブ・エローディ、ハービー・フェレイラ、シドニー・スウィーニー、エリック・デイン、エレクサ・デミー、モード・アパトゥ

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『YOU-君がすべて-』

2019-05-03 | 海外ドラマ(ゆ)

ストーカーはサスペンスの定番題目。古今東西、傑作駄作が途切れることなく作られ続けてきた。ざっと思い出せるだけでもデ・ニーロがプロ野球選手を追い詰める『ザ・ファン』や、同級生と名乗る見知らぬ男から執拗に親切を繰り返されるフランス映画『ハリー、見知らぬ友人』、一夜の情事が恐怖へ変わる『危険な情事』、監禁映画の元祖とも言える『コレクター』、そしてストーカー側へ主観が移ればトリュフォー監督の名作『アデルの恋の物語』だ。

『YOU』の主人公もストーカーのジョーだ。彼は経営する本屋に訪れた大学院生ベックに一目惚れし、偶然を装って再会しようと執拗にストーキングしていく。尾行、監視はもちろんスマートフォンの覗き見に、果ては不法侵入…特別なスキルも使わず難なく個人情報を入手していく手口には背筋が寒くなる。このドラマを見たらSNSに鍵をつけたり、パスワードを変えたくなる事は必至だ。ついにベックと再会したジョーだが、彼女にはベンジーという彼氏がいて…。


これでまだ第1話。『YOU』は既存の"ストーカーもの”に収まらず、そのプロットは二転三転し、ドラマのジャンルもサスペンスから恋愛モノ、果てはブラック・コメディにまで転調していく(第4話ラストは「あれ、こっち行くの??」と面食らう笑撃回だ)。製作陣が一体どんなスタンスにあるのかイマイチ判然としないこの奇妙なスリルに思わずビンジしてしまったではないか。

ジョーは気味の悪いストーカーとして登場するが近所に住むネグレクト少年へ救いの手を差し伸べる優しさも持っており、"ストーカー=気味の悪い変質者”で括り切れない複雑さがある。彼がベックの悪友たちを始末していく事で彼女の人生が上向いていく展開には黒い笑いがあり、中盤ついに2人は誰もが羨む理想的なカップルになってしまう。これはカップルの「あるある」を『ブレイキング・バッド』風に描いたブラック・コメディなのか?人殺してる以外はまったく問題ないじゃん!!


だが、生憎『YOU』はピークTVならではのツイストの効いたストーカー・サスペンスではないく、最終回タイトル「青ひげの城」からもその凡庸さは明らかだ。"青ひげ”とは前妻を殺害し、鍵のついた部屋に死体を隠していた童話の登場人物であり、ドラマのラスト2話はこの展開を踏襲している。これでは凡百のストーカーものと何ら変わりなく、果たして10時間をかけて語られるべき物語だったのかと疑問を抱かざるを得ない。

さらにジョーは女性を容姿で選ぶ差別的なルッキズムの持ち主でもある。シーズン継続のためとはいえ、ジョーに複雑な背景(里親からの虐待)を背負わせ、何ら断罪する事なく、むしろ同情的とも思える展開は時代錯誤ではないか。創作物が啓蒙的である必要はないが、僕らが生きる時代の皮膚感覚は共有して欲しいと思う。…とこんなに怒っているのもベック役エリザベス・レイルが好感度抜群だから!ジョーめ、なんてことしてくれたんだ!


『YOU-君がすべて-』

出演 ベン・バッジリー、エリザベス・レイル

※Netfliで独占配信中※

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