ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
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メイヴィス・ステイプルズ

2011-04-10 00:29:15 | ゴスペル
MAVIS STAPLES / YOU ARE NOT ALONE

グラミー賞『Best Americana Album』部門を受賞したメイヴィス・ステイプルズの「YOU ARE NOT ALONE」。近年、ライ・クーダーがプロデュースした「WE'LL NEVER TURN BACK」や、ホームタウンであるシカゴでのライヴ録音盤「LIVE: HOPE AT THE HIDEOUT」など、話題作を続けてリリースしているメイヴィス・ステイプルズ。バック・ボーンとなるゴスペルを、含蓄のある深い歌声でソウルフルに、ブルージに歌う。そしてその彼方に芳醇なアメリカン・ルーツを浮かび上がらせる。そんな作風の背景はやはりアンタイ・レコードの存在無くして語れないでしょう。

アンタイ(ANTI)・レコード。その名の通りアンチ精神を軸に、ジョー・ストラマー、ブラッカリシャス、マイケル・フランティ、ワン・デイ・アズ・ア・ライオンなど、個性的な作品をリリースしてきたレーベル。そして我々ルーツ愛好家にとっては、何と言ってもトム・ウェイツが所属することで知られていますね。やはりトム・ウェイツこそアンタイの音、というイメージは確かにあるように思います。さらに近年はジョー・ヘンリーの躍進が著しく、彼のソロ作はもちろん、ソロモン・バーク、ベティ・ラヴェット、ランブリン・ジャック・エリオット、モーズ・アリソンなど、彼の手がけた作品の多くがアンタイからリリースされています。ベテランの味わいと、ルーツ解釈を、いかに現代に響かすか?という手法にも、産業化する音楽界において、計り知れないアンチ精神を感じさせてくれますよね。

さて、メイヴス・ステイプルズです。彼女もジョー・ヘンリーとの愛称は良さそうですが、今作「YOU ARE NOT ALONE」でプロデュースを務めたのは、なんとウィルコのジェフ・トゥウィーディー。これは意外でしたね。オルタナ・カントリーから今やアメリカン・ロックの雄となったウィルコですよ! ジェフはメイヴィスのファンだったそうで、彼からのラヴ・コールによりこのコラボが実現したそうです。

オープニングを飾る「Don't Knock」のイントロを聴いた瞬間、やられました。揺れるエレキ・ギターの響き、まさにヴィー・ジェイ時代、ステイプル・シンガーズの再現。堪りませんね。メイヴィスの歌声も流石に深い。1960年の若く溌剌とした歌声とは違う、まろやかに包み込むような歌唱が素晴らしい。ゴスペルの歴史すら感じさせるこの響きはやはり特別!

録音はウィルコのスタジオ「ウィルコ・ロフト」で行なわれ、ウィルコからは鍵盤奏者のパトリック・サンソンが全面参加。もちろんジェフも主にアコギでバックアップ。しかし核となるメンバーは、リック・ホームストローム(g)、ジェフ・タームス(b)、スティーヴン・ホッジス(ds)、ダニー・ジェラード(vo)。彼等は現在のメイヴィスのツアー・バンドだそう。こういった人選には現在進行形のリアルなメイヴィスを捉えようというジェフの意思が感じられます。

タイトル曲「You Are Not Alone」はジェフによるオリジナル曲。陰影の深いフォーキーな質感と抑制の効いたメイヴィスの歌声が秀逸。そしてもう1曲のジェフのオリジナル「Only The Lord Knows」はジェフ自身がファズのかかったギターを弾くロック色の濃い楽曲。メイヴィスのナチュラルに重く艶やかな歌唱が印象的。「In Christ There Is No East Or West」や「Creep Along Moses」といったトラディショナルをジェフがアレンジしたナンバーも面白い。前者はアコースティックでオーガニックな空気感の中、メイヴィスが柔らかく朗らかな歌声を聴かせてくれる。一方で後者はよりゴスペル色が強く、メイヴィスとコーラス隊のコール&レスポンスと、そこに割って入るロックなギターが格好良い!

さらに特筆すべきは絶妙なカヴァー曲。まずはアラン・トゥーサンの「Last Train」。これは意外な選曲でしたが、ことのほかハマってます。曲の持つ独特なもっちゃり感とメイヴィスならではのゴスペル感がいい具合に混ざり合ってるんですよね~。そしてCCRの「Wrote A Song For Everyone」。今作中最もカントリー色の濃いナンバーと言えそうですが、重厚なギター・リフと高揚感のあるゴスペル・コーラス、そして言葉を噛みしめるように歌うメイヴィス。これは感動的ですよ!間違いなく今作のハイライトでしょう。先の「Last Train」もそうなんですけど、土っぽいメイヴィスの歌声が堪らなく良いですね! そしてもう1曲、ランディ・ニューマンの「Losing You」。これも素晴らしい。まるで語り聴かせるようなメイヴィスの歌声に引き込まれます。その深い響きからは喉の震えまで伝わってくるよう。名唱!!

他にもレヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスの「I Belong To The Band」や、ステイプル時代の「Downward Road」などゴスペル曲が素晴らしいのは言わずもがな。そしてメイヴィスがアレンジしたトラディショナル「Wonderful Savior」。これはコーラス隊とのアカペラで歌われる。これも良いですね~。さらに最後の「Too Close/On My Way To Heaven」のメドレーへ繋がる。ブルージーなギター・イントロにダニー・ジェラードの艶やかな歌声が絡み、メイヴィスを中心にした重厚なコーラスがさらなる深みへと誘う「Too Close」から、メイヴィスとコーラス隊との掛け合いが徐々に高揚感を増していく「On My Way To Heaven」へ。どちらもステイプル・シンガーズのヴィー・ジェイ録音で親しんできた曲。やはり現在のメイヴィスには、あの頃とはまた違う苦みと暖かみがありますよね。それにしても、アルバムのオープニングとエンディングにこういう曲を配するというのは、なかなか憎い演出ですね~。

しかしジェフ・トゥウィーディーがプロデュースしても、アンタイらしいアメリカーナなサウンドになっているところは興味深いですね。もっともっと風通しの良い音になるかと思いきや、以外と陰影の濃いサウンドに仕上がってます。特にギタリストのリック・ホームストロームの健闘は特筆すべきでしょうね。独特の揺れを持つサウンドと、ブルース/ゴスペルとロックの狭間を行き来するようなプレイは全体の印象を決定付けてると思います。

まさに第2の全盛期を迎えたようなメイヴィス・ステイプルズ。いや~、来日して欲しいですね。私は数年前のブルース・カーニバルで一度観ていますが、やはり現在のメイヴィスを観たい! ウィルコも来ることですし、今年のフジとかダメですかね?


さて、ちなみに、「ルーツな日記」的に熱過ぎるグラミー賞「Best Americana Album」部門のノミネート作品は以下の通りでした。これホントどれが受賞しても納得でした。

Mavis Staples / You Are Not Alone
Rosanne Cash / The List
Los Lobos / Tin Can Trust
Willie Nelson / Country Music
Robert Plant / Band Of Joy



~関連過去ブログ~ お時間有ったらぜひ!

グラミー賞受賞作品
 11.03.05 『Best Traditional Blues Album』部門
 11.02.27 『Best Contemporary Blues Album』部門
 11.02.24 『Best Contemporary Folk Album』部門
 11.02.19 『Best Traditional Folk Album』部門