息をするように本を読む

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と、なんだかだらだら日常のことなども

黒いチューリップ

2012-07-21 10:52:31 | 著者名 た行
アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ) 著

17世紀のオランダで起こった空前のチューリップブーム。
珍しい品種を作り出すことが投資の対象となり、まだ芽も出さない
たったひとつの球根に膨大な賞金が用意されることすらあった。

主人公・コルネリウスは潤沢な金と時間をもてあます青年。
隣に住むボクステルは長年のキャリアをもつチューリップ園芸家だった。
金にものをいわせチューリップに手を出したコルネリウスは、一気に
ボクステルを超え、さらには幻の黒いチューリップを生み出すことに成功する。
ひそかに彼の動向を観察していたボクステルは、その栄誉を奪おうとする。

ハーグで、前宰相のJ・デ・ウィットとその兄のC・デ・ウィットに対する
虐殺事件がおきた。C・デ・ウィットはコルネリウスの名付け親である。
その縁でコルネリウスは敵国フランスと交わした密約書を預かっていた。
それも盗み見したボクステルはコルネリウスに反逆の罪をかぶせる。

コルネリウスは捕まる寸前、球根3個をひそかに持ち出した。
死刑を宣告され絶望のどん底にありながらもなんとかこのチューリップを
咲かせたいと、収監先のハーグの監獄で獄吏の娘ローザ・グリフュスに球根を渡す。

ひとつは踏みつぶされ、ひとつは盗まれるという危機に陥りながらも、
ローザの奮闘で黒いチューリップは花開く。
そしてコルネリウスとの間に愛情も育っていく。

すごくドラマティックな展開なのに意外に淡々と進む。
政治的陰謀と恋愛と嫉妬と。
単純に考えると、チューリップは確かに美しいが開花期が短くはかない花だ。
珍しい形も色も素晴らしいことであるが、それに対し多額の金額が飛び交い
狂奔したというのは信じがたい。
……と思ったらこれってバブルなのね。そうだ、あの頃の日本ってまさに
そんな感じだったのかも。まあ、あれは土地とかそんなものでしたけど。
この時代をチューリップ・バブルと言う人もいるようだ。
言いえて妙。

何がどんな価値をもつのか読み取るのは難しい。
そんな不可思議な時代の色を見事に切り取って読ませる、静かながらも
力強い作品だ。

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