トンコ

雀野日名子　著

第１５回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。

なんとも不可解というか、変わっているというか、
おかしな魅力がある物語。

高速道路でトラックが転倒し、積み荷の豚が逃げ出した。
食用として育てられ、コンビニ弁当になる運命の豚・トンコは、
思わぬところで自由を手にしたのだ。

養豚場しか知らないトンコが、見るもの聞くもの体験することが
第三者の視点から淡々と描かれる。
なんていうか、予想通りの展開。結末。
それなのに評価されたのがなぜなのか、それも読むとわかる。

奇をてらったものもホラーやグロテスクなものもない。
そこにあるのはトンコの運命と、何も知らないがゆえの新鮮な目線。
それを絶妙に切り取ったことでこの作品は誕生した。
多くを語らないのに、生きることの意味とか、食べるということの真実を
突き付けられる。

これは短編集なのだが、そのほかの作品もなかなかだ。
「ぞんび団地」はさまざまな作品へのオマージュでかなり楽しめた。

読み手の知識を探りつつ、これなら？と出してくる技が的確で
やられた～と思ってしまう作品。