息をするように本を読む

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徳川慶喜家の食卓

2011-02-24 20:25:16 | 著者名 た行
徳川慶朝 著

徳は こちらを参照。

著者は徳川慶喜家当主。
っていうと、すごい豪壮なお屋敷に住み、大勢の人にかしずかれて、
伝統行事を粛々とやっていそうなのだが、意外。

職業カメラマン。学習院じゃない学校卒。マンション住まい。
一人暮らし。伝統行事はあまりというか、ほとんどやっていないみたい。

でも、凝り性とか、美味しいものが好きとか、慶喜そっくりなのでは?
と思えるところが多々ある。
大政奉還から静岡での蟄居。小日向第六天での大きな屋敷ながらも質素な暮らし。
そして太平洋戦争後の財産税、富裕税による没落。
それらを経てご先祖様から伝わるものなどほとんどないと語る著者であるが、
持ち前の好奇心と研究熱心で、子ども時代の食事や殿様時代の意外にシンプルな食事、
対照的にゴージャスなもてなしの膳など、細かく描き出す。
中でも秀逸なのが、英仏米蘭の四国の公使を招いた晩餐だ。
堂々と接見し、その後ともにフランス料理を楽しんだというから、
我が国外交の歴史上、大変な出来事だ。
アスペルジュ(ホワイト・アスパラガス)の説明「うとの類」なんて泣かせる。
うん、うどっぽいもんね。
ちゃんとデザートまで食べて、その後はコーヒーを飲みながら1時間談笑。
公使たちにかなりの好印象を与えたらしい。

著者の母である和子さん(松平家のお姫様)は、当時の上流階級の女性にありがちだが、
あまり料理はお得意ではなかったようだ。
むしろ献立に口を出すことを「お贅沢」と止められていたという。
和子さんの話に出てくる「都鳥」というお菓子は、「徳川慶喜家のこども部屋」でも、
高松宮妃の著書でも登場する。
どうも第六天あたりのお姫様たちの心をとらえた、かわいらしいお菓子であったらしい。
……見てみたかった。ハッカのメレンゲであることはわかっている。

高松宮家にはお子様がなかったので、著者はかなり可愛がられたらしい。
晩年、お見舞いにビーフシチューやビシソワーズを持参し、喜ばれたとか。
って、そうです。そんなものまで、しかもソースから!作るような著者。
やっぱりこのこだわりぶりは慶喜家の血筋なのだろう。