北森鴻 著
第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞。
身元を明かさずひっそりと生きた、一人の俳人が死んだ。
そこに残されたのは、他よりも一足早く花をつけた桜の枝。
なぜ彼は自身のことを語らなかったのか。
なぜ彼は故郷への愛情を持ちながら帰らなかったのか。
それらの謎がひとつひとつ解けていく。
キーマンはビアバー「香菜里屋」のマスター。
表題作をはじめ全六編の連作であるが、どれもよく練られたストーリーながら
謎解きが面白く読みやすい。
私は著者のタイトル選びのセンスが好きだ。
他の作品もそうなのだが、とくにこの西行の歌には惹かれてしまう。
それはきっと私の記憶の始まりが、寒い葬儀の日だから。
1歳半くらいか、真冬に亡くなった身内の女性の葬儀、泣き顔の写真が残っている。
高齢で大往生だったので、それほど悲壮感がなかったと思われるが、
人見知りのひどかった私にとって、大勢の親族が集まり、逃げる場所もなく、
母親が多忙そのものである自宅での葬儀は、とてもショッキングだったらしい。
そして、田舎の家ゆえに、また遺体の保存のためにも、そこはとても寒かった。
寒さと悲しさとみじめさと、それが幼い記憶に残っている。
寒いときに死ぬのは嫌だ、という思いは、その後寒いときに自分の葬儀が行われていると
いう悪夢のかたちで姿をあらわした。
のちに、西行の
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
という歌に出会い、自分の理想を見たと思った。
そうなのだ。私はいつ死んでもいい。役目が終わったら早く死にたい。
でもできるなら、春、桜のころに死にたいと思う。
そして、そんな気持ちが北森鴻に出会わせたと思う。
昨年一月、突然この世を去った著者。もっともっと読みたかった。
でも彼の著書に出会えてよかった。感謝したい。
第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞。
身元を明かさずひっそりと生きた、一人の俳人が死んだ。
そこに残されたのは、他よりも一足早く花をつけた桜の枝。
なぜ彼は自身のことを語らなかったのか。
なぜ彼は故郷への愛情を持ちながら帰らなかったのか。
それらの謎がひとつひとつ解けていく。
キーマンはビアバー「香菜里屋」のマスター。
表題作をはじめ全六編の連作であるが、どれもよく練られたストーリーながら
謎解きが面白く読みやすい。
私は著者のタイトル選びのセンスが好きだ。
他の作品もそうなのだが、とくにこの西行の歌には惹かれてしまう。
それはきっと私の記憶の始まりが、寒い葬儀の日だから。
1歳半くらいか、真冬に亡くなった身内の女性の葬儀、泣き顔の写真が残っている。
高齢で大往生だったので、それほど悲壮感がなかったと思われるが、
人見知りのひどかった私にとって、大勢の親族が集まり、逃げる場所もなく、
母親が多忙そのものである自宅での葬儀は、とてもショッキングだったらしい。
そして、田舎の家ゆえに、また遺体の保存のためにも、そこはとても寒かった。
寒さと悲しさとみじめさと、それが幼い記憶に残っている。
寒いときに死ぬのは嫌だ、という思いは、その後寒いときに自分の葬儀が行われていると
いう悪夢のかたちで姿をあらわした。
のちに、西行の
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月のころ
という歌に出会い、自分の理想を見たと思った。
そうなのだ。私はいつ死んでもいい。役目が終わったら早く死にたい。
でもできるなら、春、桜のころに死にたいと思う。
そして、そんな気持ちが北森鴻に出会わせたと思う。
昨年一月、突然この世を去った著者。もっともっと読みたかった。
でも彼の著書に出会えてよかった。感謝したい。