哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『あの戦争は何だったのか』保坂正康著

2005-12-06 03:52:53 | 
 この新潮新書の帯に大きい文字で、「塩野七生氏推薦」と赤文字で書いてありましたので、つい買ってしまいました。帯にある塩野さんの推薦文の全文は「天国への道を知る最良の方法は地獄への道を探究することである、とマキアヴェッリは言ったが、戦後日本はそのことをしてこなかった。この本はそれを教えてくれる」とあります。

 著者の保坂さんは、最近の新聞書評で知ったのですが、『昭和天皇』という題の本も出されています。実は今回紹介の本の中でも、昭和天皇は大変高潔かつ戦争を真に終わらせた人物として書かれています。

 新書版という制約の中からではありましょうが、資料の引用があまりなく、やや著者の主観的な記述が多いような印象です。それでも知らなかった事実がいろいろ書かれています。

 おもしろかったのは、アメリカ軍の新しい作戦が始まる前に必ず薬品会社と缶詰会社の株が急騰していて、それに気づいてアメリカ軍が次にどの場所を攻めてくるかわかった人物がいたこと。が、大本営は無視したそうです。

 知らなかったのは、ソ連が北海道まで手に入れようとしていたが、アメリカが否認したため、領土の代わりに関東軍の兵を労働力としてもらうと勝手に決めた(シベリア抑留)ふしがあるということ、戦後のアジア植民地の民族独立運動に身を賭した元日本兵が多くいたこと(インドネシア、ビルマ、ベトナム)などです。

 著者は、「一億総特攻」などとこの国の人々を無責任な言辞で駆り立てる権利は「歴史上」指導者に与えられていない、と強く述べています。一方で、この国の体質、不透明な部分、私たちの国に欠けている何かがこの戦争に凝縮されていると言います。そしてそれは、今なお現実の姿であると。

 憲法を改正し、徴兵制が復活すれば、将来またもや「一億総特攻」をやりかねない国なのかも知れません、日本は。