切なる思いの移籍者

実家のご詠歌へ行ったら「見学の方が一人います。前にご詠歌をやっていたそうです」と言われた。嫌な予感がした。移籍組の人は前のところが嫌になって辞めることが多い。で、私に、前にやっていた所の先生がいかにひどいかを言う。そんなことを言われて喜ぶほど、私は単純ではない。「この人は、私が嫌になったら、また別の所へ行って、私の悪口を言うのだな」と思うからだ。

見学のWさんに「前はどこでご詠歌をやっていたのですか」と聞いた。答えを聞いて私は驚いた。私の知っているお寺だ。

しかし、そのお寺があるのは福島県双葉郡富岡町である。今もこれからも、そこに人はいない。町に住んでいる人もいない。もう帰ることができない原発避難地区だからである。Wさんはご主人と江戸川区に避難してきた。ご主人は体調を崩されて昨年末に亡くなった。ご主人が入院していた病院の裏のお寺が私の実家である。菊まつりなどで「このお寺でもご詠歌をやっているのか。そのうちにもう一度やってみようと思っていた」と言う。地元で根を張っているからこそ、こうした受け入れができるのだと思った。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )