風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

Status quo(中)北朝鮮情勢と日本

2011-12-26 00:00:29 | 時事放談
 故・金正日総書記は、心筋梗塞の発作を起こして死亡したとされますが、既に父親の故・金日成主席の葬儀の頃から病がち、2008年には脳卒中で倒れたのをはじめ、元専属料理人を自称する藤本健二氏によると、糖尿病や脳疾患などを抱えて6種類の薬を服用していたそうです。中でも体調悪化に最も影響を与えたのは糖尿病ではないかと、ある医療専門家は分析します。糖尿病患者は脳卒中や心筋梗塞を発症するリスクが一般の人の3~4倍高まるらしい。それに、父親も心筋梗塞で死亡したそうで、血筋の問題もあります。更に、最近では軍人すらも満足な食事を与えられないと言われるほど経済が疲弊している国で、あの親子揃っての、権力のイビツさを象徴するような肥満もまた、心筋梗塞に良いはずはありません。いずれにしても、こうして健康不安のあった金正日総書記の死去は、ある意味で想定内であり、権力継承は比較的スムーズに進むと見る向きが多いのは事実です。しかし・・・。
 故・金正日総書記が進めて来た「先軍政治」は、結局、軍が権力から寝返って反体制勢力に加担しないように叫ばれたものであり、軍をあの国で最も恵まれた組織体にすることでそれを掌握するとともに、軍もまた金正日氏を祭り上げることで運命共同体たろうとした(産経新聞)と言われます。ここで軍はあくまで党の軍であり、党が国家の存亡をかけた核戦略を主導し、党軍需工業部が核・ミサイル開発を担当し、同部傘下の第二経済委員会が国防産業を統括し、ミサイルを量産してイランやシリア向けに輸出して外貨稼ぎを行ってきたと言われます。核やミサイルだけではありません。最近のニューズウィーク日本版では、米・韓関係者が、北朝鮮が生物・化学兵器の開発施設をもつことは確実だと見ていることを報じています。米・韓は、最悪シナリオに備えて、北朝鮮から流出した核兵器や核関連物質を確保する図上演習を行っていると言われます。
 韓国の情報機関である国家情報院は、北朝鮮が、金正日総書記死去を受け、朝鮮労働党の中央軍事委員会を中心にした統治機構をつくり、当面の政策を調整していくと分析しているそうです。中央軍事委員会は、金正恩氏が副委員長を務め、軍で正恩氏を支えるとみられる李英鎬朝鮮人民軍総参謀長も副委員長で、正恩氏の後見人である張成沢党部長が委員を務めています。果たして、金正恩氏は、党総書記をはじめとして党の主要ポストである政治局常務委員などの要職にまだ就いていませんが、核実験などの軍の冒険的行動を抑えられるのか、逆に金正恩氏こそ、自らの強さ・勇気や軍事的天才を誇示せんがために、軍事的挑発行動を起こす可能性もあるのではないか、と懸念する声が、隣国・韓国であがっています。
 翻って、日本。
 木曜日の日経朝刊は、「ポスト金正日と世界」という特集記事の中で、朝鮮半島で危機が起きたとき、日本はどうするのか・・・実は政府内には、その存在すら公式には認めない極秘の危機対応マニュアルがある、と紹介しています。韓国にいる約3万人の邦人を救出するための手順を定めたものだそうですが、「その中身は米軍に全面的に頼る想定になっている。日本の法律では、輸送の安全を確保できない場合に自衛隊を現地に送ることすら出来ないからだ」と、政府当局者が明かしていることを引用した上で、特集記事はこう続けます。「となれば、核・ミサイル開発や日本人拉致の問題を自力で動かすのはさらに難しい。だからこそ、日本は米・韓や中国と協力し、解決を探るしかない。極論すれば、日本にとって北朝鮮政策は対米、対中外交なのだ」、と。
 この記事は、写真週刊誌やちょっと柔らか目の週刊誌からの引用ではなく、日本経済新聞の一面に堂々と掲載されたものです。私は二重の意味でショックを受けました。一つは、政府当局者ともあろう立場の人が、この国は、法律があるから、海外に在留する邦人を救出することが出来ないと、認めて憚らないところです。国民の安全を守れないような国はそもそも国と呼ぶに値しませんし、世界広しと言えども、どんなに小さい国であろうとも、国家の体をなしている以上はそんなことはあり得ないことです。この政府当局者は、それでは法律がオカシイ、法律を変えるべきだとは思わないのでしょうか? 続いて、自力で解決できないから、米・韓や中国と協力するという論理の流れは必ずしも間違いではありませんが、政府当局者の発言を鵜呑みにする記者の価値観が信じられません。単なる紙幅の都合と思いたい。
 金正日総書記死亡の情報は、お隣の韓国ですら把握していなかったことが責任問題に発展していますので、日本の対応が遅れるのは仕方ない面がありますが、最新の週刊新潮には、こんな話が載っていました。ある総理側近が、「な~んにも知らなかった。でもTPPでも消費増税でも、野田総理の発信力が足りないと言われているので、今回はパフォーマンスの絶好の機会。だから、街頭演説を止めさせて、素早く安全保障会議を開いて見せた。いいパフォーマンスだったろ」と、誇らしげに語ったというのです。さすがに週刊新潮は、「危機をパフォーマンスの“道具”としか受け止めないセンスには呆れる他ない」と酷評していますが、東日本大震災当時の菅総理のパフォーマンスを想起させます。民主党に共通する体質でしょうか。その安全保障会議は、情報がなかったとは言え、10分足らずで終わってしまったそうですし、山岡国家公安委員長は間に合わなかったと伝えられます。危機管理に不慣れな民主党政権のもとで、東日本大震災のような大災害や、北朝鮮の金王朝の揺らぎが起こるという、その間の悪さを思わざるを得ませんし、問責決議案が出ている防衛相と国家公安委員長のもとで、このような危機的な状況に対処しなければならないことを思うと、私は心からStatus quo維持を思わないわけには行きません。
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