風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

山口美江のいた時代

2012-03-10 11:56:52 | 日々の生活
 またしても同世代に属する女性が死亡したニュースが飛び込み、ちょっとショックでした。山口美江さん、享年51。
 山口美江という女性に対して、恐らく同世代の男性一般に共通する思いとして、必ずしも良い印象を持っていたわけではなかったでしょう。それは一言で言えば、自分にないものを持っているという、やっかみ半分。今、あらためて見ると、当時の彼女はぷっくらとしていてツヤツヤで生き生きしていて、とてもかわいい。今の私のようなオジサン受けするタイプです。しかしそれは若ければ性格的に多少きつかろうが尖った部分があろうが許しちゃう・・・といったいい加減さにあります(ということが分かったのはこの歳になったからですが)。逆に言うと、当時の彼女は、恐らくそのキャリアや物腰が誤解を招いて損をしていたのだろうと、今にして思います。勿論、ちやほやされていたのは事実ですが、メディアでもてはやされていたのは、アンビバレントな感情があってこそのことです。美人で、英語が堪能で、ちょっと派手でお高く止まったワガママそうなお嬢さんタイプに見えて、同年代からはイケスカナイ女と思われていたに違いないのです。男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年で、折しもバブル景気に沸いて、その後バブルがはじけた後もなお日本に元気があった時代で、「バイリンギャル」という言葉を生んだ彼女の存在は、良くも悪くもあの時代の空気を映し出す鏡のようなところがありました。あの時代の流れに乗ったからこそ露出が増えたというような。
 Wikipediaを見ると、彼女の高祖父(祖父母の祖父)はドイツ人で、小学校から高校まで横浜のインターに通ったために英語が堪能なだけで、帰国子女ではなかったのが意外でした。私生活の彼女がどうだったかなんて余計なお世話ですが、1996年に芸能界を一時引退したのは、アルツハイマー病の父親を介護するためだったそうです。結局、彼女は独身を貫きました。
 彼女へのレクイエムとして本稿を書いているのは、あの時代へのただの感傷だけでなく、このブログでたまたま五回続けてモノへのこだわりを書いてきたところに、彼女の死に接して、なんとなく高度経済成長からバブルを経て長い凋落傾向を辿った日本経済を経験した私の世代こそのメルクマールなのではないかと、ふと思ったからでした。勿論、何か特定のコトにこだわるのは珍しいことではなく、人は誰しも経験するところでしょう。ただ、モノへのこだわりは、モノへの渇望が一種のトラウマとして付きまとっているからではないのか・・・と思うわけです。
 先日、朝まで生テレビで、今の自分が不幸だと感じている人の比率は46歳を中心とする世代で一番高いことが紹介されていました。この世代の特徴は、例えば卑近な例で言うと、年功序列といった制度に乗っかってこれから給料が増えると期待していたところに社会的変革の波に襲われて実力主義が蔓延り始めて右肩上がりでいられなくなったという制度が変容する過渡期にいたことだと言えましょう。それより10歳以上、上の世代は、良い時代のまま年金生活に入り、かつて大前研一さんが「滑り込みセーフ」と呼んだように、なんとか逃げ切れる世代です。他方、これより10歳以上、下の世代は、物心つく頃から既にモノは充足していて、成熟経済のもとで長い停滞または凋落を生きてきて、成長とかバブルといった妙な高揚感を知らない故に特に期待感もなく、それなりの幸せを感じているというわけです。かつて女性は結婚相手に三高、つまり高収入・高学歴・高い身長を求めたものでしたが、最近の女性は三平女子(さんぺいじょし、と読むそうです)つまり平均的な年収・平凡な容姿・平穏な性格を求めるものなのだそうです。
 何が良くて何が悪いという類いのものではありません。育った時代背景によって、すなわちどの年代でどんな事故や事件に遭遇し、どんな仲間(同級生というよりも、自分たちと違う経験をもつ集団(親など)だったり、日本以外の国だったりします)に恵まれたかといったことの違いによって、世代と呼ばれる括りが生まれるわけですが、こうした複数の世代が一つの社会を構成して、断層と呼んで他人事にしてしまうのではなく、共生する社会にそれぞれの世代がどのように関わっていけるのか、具体的には、私たちの世代は若い世代に何を伝えることが出来るのか、伝えるべきなのか、といったようなことを、つらつら思うわけです。こうした思いに囚われるようになったのは、40歳を過ぎた頃からのことでしょうか。ある程度、子供が大きくなって、自分自身にも親としての自覚が芽生えてきた頃のことです。
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