風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

2022回顧③カタールW杯

2023-01-05 23:21:15 | 時事放談

 年末にサッカーの「王様」ペレが亡くなった。享年82。カタールでのW杯決勝のエムバペとメッシの新たな伝説を見届けて、安心したかのように逝った。ネイマールはインスタグラムに「ペレ以前、サッカーは単なるスポーツだった。ペレが全てを変えた。彼はサッカーを芸術、エンターテインメントに変えた。旅立ってしまったが、彼の魔法は残り続ける」と綴った。

 そんなペレの後を追って周回遅れでスタートした日本が、此度のW杯で活躍し、日本中を湧かせた。いや、ドイツやスペインといった優勝経験国に逆転する金星を二つもあげて「死の組」を1位通過した(しかし何故かコスタリカには負けてしまった)。日本だけでなく、C組ではサウジアラビアがアルゼンチンを下したし、モロッコに至ってはアフリカ勢で初のベスト4進出を果たすなど、アジア・アフリカ勢の躍進が目を引いた。舞台裏で、日本人サポーターが客席のゴミ拾いをして去り、日本代表がロッカールームをキレイに片付けて感謝のメッセージと折り鶴を残すのが称賛されるのは見慣れた光景、日本人の面目だが、表舞台でのこれらの戦績は間違いなく、守保監督の言う「新しい景色」を垣間見させてくれるものだった。

 月並みだが、「個」の力が強くなったのだろう。陸上の400mリレーに典型的に見られるように、相対的に弱い「個」の力を「個」の連携によるチームプレーで補うのが、これまでの日本の戦い方だった。ところが此度の日本代表メンバー26人中、欧州組が実に19人にのぼった。24年前に初出場を果たしたフランス大会ではゼロ、全員がJリーグの国内クラブ所属だったことと比べれば、隔世の感がある。たとえば三笘薫がこれほど活躍するとは思ってもいなくて、スペイン戦で見せたライン際1ミリで折り返すスーパー・アシストは圧巻だった。

 それでも、大久保嘉人氏は、日本代表に足りないものとして、なお「個の力」を挙げる。レベルアップのためにポゼッションサッカーの進化も必要だが、「ポゼッションをするにも個の力がないとできない」と言う。「日本は組織として守る、攻撃するっていうのはできると今回分かった。だけど組織でやってるときに研究されると、立たないといけない場所にディフェンスがいるんです。そうなった時に自分たちで考えて動かないといけないし、一人でドリブルで抜いたりとか(ディフェンスを)はがさないと、その先には行けないんじゃないかなと思います」と。中村憲剛氏は、「個」か「組織」かの二者択一ではなく、「個も組織も」の両立が必要だと語った。

 そして大会決勝は、エムバペとメッシという「特大の個」を押し出したフランスとアルゼンチンの間で争われ、アルゼンチンが制した。「神の子」マラドーナが伝説的な活躍をみせた1986年メキシコ大会以来36年振り三度目の世界一で、主将メッシが史上初めて二度目の大会MVPに選ばれた。

 メッシと言えば、19年間のキャリアで、2008年のオリンピック、チャンピオンズリーグ4回、FIFAクラブワールドカップ3回、ラ・リーガ10回、昨年夏には待望のA代表初タイトルとなるコパ・アメリカ優勝を果たし、史上最多7度のバロンドールを受賞しながら、唯一欠けていたタイトルがW杯だった。いくら日本をはじめアジア・アフリカ勢が頑張ったと言っても、華のあるメッシのプレーの前では霞んでしまう。画竜点睛を欠くと言うが、まさに竜だか達磨だかに「瞳」を入れてメッシを伝説にするための大会だった。

 天国のペレも、「魔法」が残り続けて、さぞ安らかなことだろう。サッカーの「魔法」には魅せられる。

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