風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ロンドン五輪・二つ目の金

2012-08-04 11:39:19 | スポーツ・芸能好き
 鮮やかな感動もほとぼとりが覚めるほどの時間が経ちましたが、今回は、体操の個人総合の話です。
 世界選手権で三連覇している内村航平、うっちーにとっても、四年に一度しか巡って来ないオリンピックには違う重みがあったようです。蓋を開ければ、唯一人、全種目で15点以上をマークし、2位に1.659点差を付ける予想通りの圧倒的な強さで金メダルを獲得したのですが、抑制気味ながらも得意満面の笑みと、何度も金メダルをさわってしげしげと眺める姿が印象的でした。深夜過ぎに始まった演技を見始めると、なかなか目が離せなくて、明け方3時過ぎの表彰台まで見入ってしまって、その後の二日間は老体にはこたえて、へろへろでした。
 まだ前半戦のオリンピックですが、一番、印象的な競技だったので、その感動を反芻するために、ちょっと長くなりますが解説記事風に・・・
 最初のあん馬は、北京五輪では二度落下し、先だっての団体決勝では崩れ落ちるように着地が大きく乱れて、うっちーらしくなかったために、鬼門とまで評されていました。途中、バランスを崩したらしいのですが(解説者の声に思わず不安になってしまいましたが)、それをそうとは見せない(少なくとも私のような素人にはよく分からない)無難な演技で、15.066点とまずまずのスタートを切りました。続く、つり輪も15.333点と安定した演技で波に乗ると、圧巻の跳馬を迎えます。Dスコア6.6点の「シューフェルト」(伸身ユルチェンコ飛び2回半ひねりと言うらしい)に挑み、前向きに降りるために着地点がつかみにくい大技とされますが、そこでぴたりと着地を決める完璧な演技で、16・266の高得点をマークして、両手を突き上げた本人から思わず笑みがこぼれたのが印象的で、見ている方の私も、これは行ける・・・かも、と意を強くしました。奇跡的な着地を「磁石のように止まる」と形容した人(アテネ五輪体操金メダリスト・中野大輔氏)もいましたし、「人類史上究極の動き」との賛辞を送った人(立花泰則監督)もいました。
 後半、4種目目の平行棒では、「屈伸ベーレ」を「抱え込みベーレ」にする安全策を採ってなお15.325点を挙げて首位をキープし、5種目目の鉄棒でも、F難度の離れ技の「コールマン」(コバチ1回ひねりと言うらしい)を抜いたと解説されて、一瞬、最高の演技を見せることばかりに拘ってきたはずの、うっちーらしくなくて大丈夫か!?と訝りましたが、難易度を落としたDスコアの構成でも15.600の高得点をはじき出せるあたりが、今のうっちーの並外れた実力の表れでしょう。コールマンを抜く作戦は、前の夜にコーチから言われたそうですが、朝、怪我で個人総合を断念した山室の背中を見て、心が決まったそうです。うっちーらしくない勝ちに拘るところが、オリンピックのオリンピックたる所以であり、その晴れ舞台で日本人の、ひいてはうっちーのように金メダル確実と期待される選手の置かれた立場の重さを感じさせます。最後の種目は得意の床だったので、油断も出て来るだろう、それでもここまで来ればもう大丈夫・・・かな、とようやく落ち着いて見ていたら、案の定、2つ目の「前宙返り2回半ひねり」の着地でバランスを崩して右手を床につくミスを犯し、本人をして「やっぱり五輪には魔物がいるんだと、再度わからされた気持ちです」と言わしめましたし、最後の「後方宙返り3回ひねり」の着地でも少し動いて、演技後に両手を目の前で合わせて、一瞬、謝ったような表情を見せましたが、それでも15.100という高得点で締め括りました。
 うっちーが子供の頃に合宿に通ったと言われる「塚原体操センター」の塚原直也氏は、「史上最強の体操選手と言ってもいい」と絶賛しました。当時、トランポリンで休まずに5~6時間も跳んでいたのを思い出し、そのトランポリンで類い稀な「空中感覚」が身についたのかも知れないと語っています。また、元・体操選手らしい視点で、力で演技してしまう選手が多い中で、うっちーは最低限の力でピンポイントまで待って瞬間的に最大の力の入れ方で「省エネの体操」に繋がること、基礎も完璧だから高難度の技を寸分の狂いもなく、余裕をもって何回でも同じように演技できること、演技中に出る音も、器具と一体化して演技するから最小限になる、体操はやはり静かな方がいいし、見ている人に「簡単そうに演技している」と思えた方がいい、彼にはそれが出来る、とも語っています。私たちが彼の体操になんとなく感じる「軽さ」(それは決して軽薄の「軽さ」ではなく、軽快の「軽さ」とでも言うべきものです)について、語って余りあるものと言えます。
 しかし、うっちー自身は、私たちの思いなど及びもつかないほどに底知れない。彼がインタビューで語っていたことを、家族がたまたま見て、面白おかしく語って聞かせてくれるものの一つに、彼はおでこのあたりにもう一人の(小人のように小さな)自分がいて、自分の演技を冷静に見ているのだと言います。高速で動きながらでも常に自分の位置を認識できる感覚、塚原氏が読んだ「空中感覚」を、うっちー流に表現したものでしょう。うちの子は、うっちーは人間じゃなくてマジンガーZだったんだと大喜びでした。今回の五輪が終われば、またルールが変えられて、大物選手には試練が与えられるのでしょうが、人間離れしたうっちーには蠅が止まっている程度に、大して痛痒を感じないのかも知れません。

(過去の関連ブログ)
「うっちーとブラックサンダー」(2011-10-15 12:30:15)
  http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/e/467feecbe056d7d60de6bcc179dae126
「スポーツの秋」(2011-10-17 00:20:30)
  http://blog.goo.ne.jp/mitakawind/e/591b757159fb4a2cc902c255e270ed3a
コメント
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