風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

カタルシス

2010-11-16 01:45:33 | スポーツ・芸能好き
 白鵬の連勝記録が63でストップしました。白鵬らしくない、ちょっと浮ついた一番に見えました。対戦相手が、自身11連勝中の稀勢の里だった、という油断があったかも知れませんし、200年以上も前の江戸時代の横綱・谷風に並ぶ史上2番目の記録(63連勝)を達成して、本人も言うように「もう1つ勝ち星を伸ばしてやるというスキがあった」のかも知れません。場所前に双葉山の故郷を訪問してきっちり仁義を切り、満を持して臨んだ九州場所のはずでした。
 偉大な双葉山の記録が日本人ではなく外国人力士に破られることへの抵抗は、少なくとも王選手の年間本塁打記録がランディ・バースやタフィ・ローズに破られそうになった時ほどのことはなさそうです。インタビューで白鵬は「双葉山関は本当にあこがれの存在で、自分なんかでいいのか、という気持ちはあります。(数字で)超えたとしても、自分の中では超えたとは思いません」と答えるなど、イマドキの日本人力士より余程日本人らしい、奥床しく泰然自若とした風格を備えることは、口うるさい内館牧子さんも認めるところですし、野球賭博問題に揺れた名古屋場所で全勝優勝を遂げながら、憧れの天皇杯のない表彰式に涙して、その気持ちをくんだ天皇陛下から、侍従長を通じて、ねぎらいのお言葉が贈られたと言われるように、白鵬の相撲に賭けるひたむきさには、文句のつけようがありません。
 それでも、今日、白鵬には本当に申し訳ないのだけれど、一種のカタルシスを感じてホッとしたことを白状しなければなりません。一つには、日本の国技である大相撲における日本人力士の不甲斐なさと角界の低迷が根底にあります。日本人横綱は、2003年初場所に貴乃花が引退して以来出ていませんし、日本人大関も、2007年秋場所に琴光喜が大関に昇進して以来、絶えて出ていませんし、日本人力士の優勝は、2006年初場所の栃東以来ありませんし、今場所の三役九人の内、日本人力士は僅かに二人だけという体たらくです。そして二つには、今年の初場所に朝青龍が引退して以来、白鵬の一人横綱が続き、心身ともに疲れているという同情の声も聞こえて来て、それはその通りだろうと気の毒にも思いますが、連勝記録を伸ばしたところで、強い相手がいないだけというやっかみの声はやはり否定出来ません(もっとも、1993~94年に曙が11場所にわたって、また2004~06年に朝青龍が21場所にわたって、一人横綱でしたが、双葉山の記録にここまで肉薄することはありませんでしたが)。そして何より三つには、双葉山が達成した69連勝は、年二場所制の時代に、足掛け三年、平幕から関脇・大関を経て横綱三場所目に達成したという偉大な記録です。それは、今年、パリーグでイチロー以来の200本安打を達成したロッテ・西岡の記録(206本)や、イチローを越える214本安打を達成した阪神・マートンの記録が、所詮は144試合で達成したもので、イチローが130試合制で達成した210本安打とは明確に区別するファン心理に似ています。繰り返しますが、いずれも白鵬のせいではなく、単に不運な状況に置かれているだけのことです。
 そんな微妙なファン心理に支えられつつ、今の角界を引っ張ってくれている白鵬を評価しない相撲ファンはいないでしょう。いろいろぐずぐず述べて来ましたが、相撲人気を盛り立てるためには、また連勝記録に挑戦し、私たちの微妙なファン心理を刺激して欲しいと思います。
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